第6話 調査依頼
三人の冒険者が消息を絶ってから五日が経過した。その間、侵入者は現れなかった。
俺はダンジョン内の整備を進めていた。
新しく増えた部屋にはゴブリンを配置し、入口付近には落とし穴を設置する。スイは餌を与えるたびに成長し、動きも以前より素早くなっていた。
だが戦力は足りない。
圧倒的に足りない。
新人冒険者ならともかく、訓練された冒険者が来れば苦戦するだろう。
それでも時間は俺の味方ではなかった。人間は必ず異変に気付く。
そして――。
◇◇◇
王都から離れた地方都市ラグナ。
その中心部にある冒険者ギルドでは、一人の受付嬢が困った顔をしていた。
「また未帰還ですか?」
「ええ」
向かいに座る中年の職員が書類を机へ置いた。
三枚。
それぞれ別人の依頼書だ。
「アルド、ロイド、ミリア。全員が五日前に失踪」
「偶然とは思えませんね」
「俺もそう思う」
職員は腕を組む。
新人冒険者の失踪自体は珍しくない。
魔物に食われる。
盗賊に襲われる。
崖から落ちる。
この世界では日常だ。
だが今回は違う。
三人とも同じ方向へ向かっていた。
「問題のダンジョンですね」
「ああ」
机の上に地図が広げられる。
森の外れ。
最近発見されたばかりの小規模ダンジョン。
ギルドの評価は最低ランク。
新人向け。
危険度は低い。
そのはずだった。
「三人同時に死ぬような場所じゃない」
「調査隊を送りますか?」
「送る」
職員は即答した。
偶然では済まされない。
放置して被害が増えればギルドの責任になる。
「Eランク冒険者を四名。調査依頼として出してくれ」
「承知しました」
受付嬢は書類へペンを走らせる。
こうして新たな依頼が発行された。
まだ誰も知らない。
その小さなダンジョンが既に変化を始めていることを。
◇◇◇
その頃。
俺は入口付近で異変を感じていた。
【侵入者反応なし】
表示は変わらない。
それなのに妙な感覚がある。
ミリアの記憶。
アルドの知識。
ロイドの経験。
それらが警鐘を鳴らしていた。
「来るな」
確信に近かった。
新人ではない。
もっと慎重な相手が来る。
もっと強い相手が。
スイが近くでぷるりと震える。
俺は意識を向けた。
するとスイも入口方向を見ている。
気付いているのかもしれない。
戦いの気配を。
【名称個体:スイ】
【状態:良好】
【進化率:42%】
もう四割を超えている。
思った以上に成長が早い。
人間の肉から作った餌の影響もあるのだろう。
ゴブリンたちも以前より動きが良い。
戦力は確実に上がっている。
だが安心はできない。
俺はミリアの記憶を思い出す。
新人より格上のEランク冒険者。連携を知り、戦闘経験もある。
油断すれば負ける。
「もっと強くならないとな」
もちろん声は出ない。それは思考だった。
だがその考えは以前よりずっと冷たい。
俺は生き残るために強くなる。
そう思っていた。
今は違う。
強くなりたい。
もっと上へ行きたい。
もっと進化したい。
その欲求が日に日に大きくなっている。
そして何より。
人間を殺すことへの抵抗が消え始めていた。
新人冒険者三人。
思い返しても何も感じない。
名前も顔も曖昧になっている。
覚えているのは経験と知識だけだ。
価値があるのはそこだけだった。
スイが俺のコアへ身体を寄せる。
ぷにぷにした感触は伝わらない。
だが存在だけは感じられた。
最初の配下。
こいつだけは死なせたくはない。
理由は分からない。
ただ使えるからではない気がしていた。
【侵入者反応を確認】
突然、赤い光点が四つ現れた。
入口だ。
俺は意識を集中する。
ついに来た。
新人ではない。
調査のために送り込まれた冒険者たち。
四人全員が武装している。
動きも無駄がない。
そして先頭の男が言った。
「気を抜くな。ここで三人消えてる」
新人たちとは明らかに違う。
俺は理解した。
ここからが本番だ。
この世界は優しくはない。
だから俺も優しくするつもりはなかった。
侵入者たちを見つめながら、俺は静かに戦力を確認する。
・スイ
・ゴブリンニ体
・落とし穴二つ
そしてダンジョンそのもの。
戦力不足だ。
だが勝つ。何が何でも。




