第5話 巣作り
ミリアの記憶を整理するのに半日ほどかかった。
人間だった頃の俺より、今の方が記憶力は優れているらしい。
冒険者ギルド
王国
貨幣
魔物
ダンジョン
膨大な知識が頭の中へ収まっていく。
そして理解した。
人類はダンジョンを放置しない。
危険になる前に潰す。
成長する前に殺す。
それが常識だった。
つまり俺に残された時間は限られている。
新人冒険者三人の失踪程度では騒ぎにならないだろう。だが六人、十人と消えれば必ず調査が始まる。
その時に今の戦力では話にならない。
強くならなければならない。
【保有DP:80】
【ダンジョン拡張】
【必要DP:50】
迷う理由はない、即座に実行する。
すぐに洞窟全体が震え始めた。
岩盤が軋む。
壁が押し広げられる。
まるで自分の肉体が成長しているような感覚だった。
数分後、振動が止まる。
【ダンジョン拡張完了】
【保有DP:30】
新しい部屋が増えていた。
広い空間だ。
戦闘にも使える。
待ち伏せにも使える。
罠も設置できる。
今までの一本道とは違う。
ようやくダンジョンらしくなってきているな。
スイが新しい部屋へ向かって跳ねていくので、俺は意識を向けた。
部屋の隅には回収した素材が置かれている。
骨
皮
肉
死体資源化によって得られた魔物用素材だ。
スイはその前で止まり、そしてぷるぷる震える。
どうやら欲しいらしい。
【魔物用餌を生成しますか?】
新しい表示が現れた。
なるほど、素材はこう使うのか。
「実行」
命令ではない。システム操作だ。
素材が変化し、赤黒い塊がいくつも生成された。
【魔物用栄養餌】
スイが飛び付いた。
夢中になって吸収していく。
少し遅れてゴブリンたちも集まった。
肉を貪る。
骨を砕く。
人間だったものを。
俺は静かに眺める。
不思議だった。
少し前まで俺も人間だった。
だが今は何も感じない。
嫌悪感も罪悪感もない。
そこにあるのは肉だ。
資源だ。
餌だ。
それ以上でも以下でもない。
むしろ有効活用できている分、無駄がないと思えた。
我ながら危険な考え方だ。
だが生き残るためには必要だった。
その時、スイの身体が淡く光る。
【名称個体『スイ』】
【経験値蓄積を確認】
【進化条件の一部を達成】
進化はしない。
だが確実に成長している。
俺は少し興味を持った。
最初の配下
唯一の生存者
最初に名前を与えた魔物
こいつだけは何かが違う。
システムも特別扱いしている。
なら育てる価値はある。
徹底的に。
時間はゆっくり流れる。
一日
二日
三日
その間、侵入者は現れなかった。
新人冒険者が三人も帰っていないのだ、慎重になる人間もいるだろう。
だが必ず冒険者は来る。
好奇心で、金のために、名声のために。
そして死ぬ。
俺はダンジョン入口へ意識を向ける。
以前なら怯えていた。
今は違う。
待っている。
獲物を
資源を
進化の糧を。




