第60話 王国への牙
【保有DP:2,380】
【侵食率:5.6%】
【ダンジョンランク:C】
【吸収ダンジョン数:3】
黒槍のヴァルグという男が動き始めた。
その報告を受けた翌日、俺たちは第二階層の会議室へ集まっていた。
目の前にはフィリアが描いた地図。
王国の主要都市。
街道。
領地。
軍事拠点。
今まで俺はダンジョンばかり見ていた。
だが、そろそろ人間側も理解する必要がある。
「改めて説明するね」
フィリアが地図を広げる。
「私たちがいるのはアルディア王国の北東辺境」
指先が地図の端をなぞる。
「今まで潰したダンジョンは全部この辺り」
フィリアのダンジョン。
コボルトダンジョン。
黒狼の牙。
確かに近い。
つまり俺たちはまだ辺境で暴れているだけだ。
「王国全体から見れば?」
「地方問題」
フィリアは即答した。
「領主が処理する案件だった」
なるほど。
だから今まで本格的な戦力は来なかった。
だが。
「黒狼の牙が落ちた」
フィリアの顔が真剣になる。
「あれは辺境最大級だった」
つまり話が変わる。
地方の問題では済まなくなった。
だから王国本体が動いた。
そして派遣されたのが黒槍のヴァルグだ。
「王国には四英雄がいる」
フィリアが言う。
その言葉にリリスも耳を傾けた。
「国家戦争をひっくり返す怪物たち」
「一人で軍を壊滅させる化け物たち」
少し盛っている気もしたが、フィリアは真顔だった。
たぶん本当なのだろう。
「ヴァルグは?」
「次代の英雄」
そして少し間を置いて続ける。
「実力だけなら、もう英雄級」
なるほど。
つまり今までの敵とは比較にならない。
初めて王国中枢クラスが出てきたわけだ。
だが俺は逆に安心した。
敵が見えたからだ。
今までは漠然としていた。
今回は違う。
王国。
英雄。
王都。
いずれ全て喰う相手だ。
「ご主人様」
リリスが静かに尋ねる。
「どうしますか?」
答えは決まっていた。
「先に殴る」
フィリアが頭を抱えた。
「やっぱり!」
当然だ。
待つ理由がない。
英雄が来るなら準備中に潰す。
それだけだった。
その日の夜。
俺たちは移動を開始した。
目標は王国北東防衛線。
辺境軍の前線砦。
ヴァルグが必ず立ち寄る補給拠点でもある。
砦そのものは大きくない。
兵士は百人程度。
普通なら攻めない。
だが今の俺たちは普通ではなかった。
シャドウバットが先行する。
見張りの位置を確認。
リリスが蜘蛛糸を張る。
退路を塞ぐ。
スイが侵入する。
音もなく。
気配もなく。
そして戦闘が始まった。
いや。
始まる前に終わった。
見張りが消える。
門番が消える。
指揮官が消える。
気付いた時には砦内部が混乱していた。
そこへブラッドファング率いる魔物部隊が突入する。
訓練施設で鍛えられたゴブリン戦士たちも続く。
以前とは違う。
もう雑魚の集団ではなかった。
統率された軍だった。
一時間後。
砦は陥落した。
「終わりました」
リリスが報告する。
損害は軽微。
予想以上だった。
俺は砦の地下を調べる。
補給物資。
武器。
防具。
そして。
軍事地図。
「当たりだな」
そこには王国の防衛線だけではなく、周辺地域の情報まで記載されていた。
未攻略ダンジョン。
監視区域。
危険地帯。
その中に、俺が見逃せない情報があった。
二つ。
未吸収ダンジョンだ。
しかも推定Cランク以上。
思わず笑みが深くなる。
吸収ダンジョン数は三。
あと二つでBランク到達。
王国を相手にしながら成長できる。
悪くない。
その時だった。
砦の壁が吹き飛んだ。
轟音。
衝撃。
全員が振り向く。
ストーンゴーレムの胸部に巨大な穴が空いていた。
貫通している。
俺は目を見開いた。
あり得ない。
今のストーンゴーレムは以前とは比較にならない。
その装甲を一撃で。
月明かりの向こう。
一人の男が立っていた。
黒い鎧。
長い黒髪。
巨大な黒槍。
そして静かな殺意。
フィリアの顔から血の気が引く。
「ヴァルグ……」
男は崩れた壁を越え、ゆっくり歩いてくる。
慌てる様子もない。
怒る様子もない。
ただ獲物を確認する狩人のようだった。
そして俺を見る。
正確には。
俺たち全員を。
「見つけた」
低い声が響く。
その瞬間。
俺は理解した。
強い。
今までで間違いなく最強だ。
だが。
だからこそ価値がある。
俺は静かに笑った。
英雄級。
なら施設化した時の価値も英雄級だろう。




