第58話 英雄の匂い
【保有DP:5,080】
【侵食率:5.6%】
【ダンジョンランク:C】
【吸収ダンジョン数:3】
黒狼の牙を吸収した翌日。
俺は新たな進化を見届けていた。
ブラッドウルフの全身を赤黒い光が包み込む。
筋肉が膨張する。
骨格が変化する。
魔力が急激に増大する。
スイの進化とはまた違う。
獣としての力が純粋に研ぎ澄まされていくような感覚だった。
数分後。
光が収束する。
そこに立っていたのは、以前より一回り大きくなった狼だった。
漆黒の毛並みに赤い紋様。
鋭く輝く双眸。
そして漂う威圧感。
【進化完了】
【ブラッドファング】
「ほう」
思わず感心する。
強い。
間違いなく強くなっている。
ブラッドファングは自分の脚を見下ろしたあと、軽く地面を蹴った。
次の瞬間。
姿が消える。
いや、速すぎて見えなかっただけだ。
離れた岩壁へ一瞬で到達していた。
「速いな」
リリスが目を細める。
スイも興味津々だった。
「かけっこする?」
ブラッドファングは無言で顔を逸らした。
どうやら乗り気ではないらしい。
少し賢くなった気がする。
その時だった。
シャドウバットから情報が届く。
かなり遠方。
人間の街だ。
そしてその中央。
広場に大量の人間が集まっていた。
俺は映像を拡大する。
そこで見覚えのある顔を見つけた。
「領主か」
黒狼の牙で逃げた男だった。
演説している。
かなり慌てた様子で。
「何言ってるんです?」
フィリアが覗き込む。
俺は集中して音を拾う。
そして数秒後。
思わず笑った。
「面白いな」
「え?」
「俺たちが化け物扱いされてる」
フィリアが頭を抱えた。
当然だった。
正体不明の勢力。
ダンジョン吸収。
黒狼の牙壊滅。
普通に考えれば脅威だ。
領主は必死に援軍を求めていた。
そして、その援軍の名前を聞いた瞬間。
フィリアの顔色が変わる。
「まずい」
「またそれか」
「今度は本当にまずい!」
最近よく聞く台詞だった。
「誰だ」
フィリアは少し迷ってから答える。
「英雄候補」
空気が変わる。
リリスも反応した。
英雄。
以前施設化した女剣士エレナを思い出す。
だがフィリアは首を振った。
「違う」
「違う?」
「あの人は地方の強者だった」
そして続ける。
「今呼ばれてるのは王国最強クラス」
なるほど。
ようやく来たか。
俺はむしろ嬉しくなる。
英雄。
強い人間。
価値の高い魂。
施設化できれば大きい。
その時、システムが反応した。
【高適性個体を確認】
【対象:英雄候補】
【施設化時、高品質施設へ変換される可能性があります】
思わず笑う。
やはりそうだ。
強い者ほど価値が高い。
なら結論は簡単だった。
「捕まえる」
フィリアが絶句する。
「普通は逃げるんだよ!?」
「知らん」
むしろ向こうから来るなら好都合だった。
その時だった。
さらにシャドウバットから別の映像が届く。
森の奥。
山脈の向こう側。
巨大な魔力反応。
ダンジョンだ。
しかも黒狼の牙以上。
思わず目を細める。
【未吸収ダンジョンを確認】
【推定ランク:B】
静かに笑みが浮かぶ。
英雄。
Bランクダンジョン。
どちらも価値が高い。
そして俺には十分なDPがある。
俺はすぐにコア画面を開いた。
今まで我慢していた投資を始めるために。




