第57話 黒狼の牙を喰らう
【保有DP:2,663】
【侵食率:4.8%】
【ダンジョンランク:C】
【吸収ダンジョン数:2】
ブラックウルフロードが倒れた瞬間、戦場の空気が変わった。
先ほどまで統率されていた狼たちが動揺する。
王を失ったのだ。
当然だった。
逃げ出す者。
戦意を失う者。
混乱は瞬く間に広がっていく。
「掃討しろ」
俺が命令すると、スイが真っ先に飛び出した。
エルダースライムへ進化した影響は明らかだった。
速い。
強い。
そして何より魔力が桁違いだった。
狼型魔物を飲み込み、そのまま地面へ叩き付ける。
一撃で終わる。
以前のスイなら数手掛かっていた相手が、今では雑魚同然だった。
ブラッドウルフも暴れていた。
先ほどの戦いで何かを掴んだらしい。
ブラックウルフロードの動きを見た影響だろう。
以前より鋭い。
以前より獰猛だ。
その姿を見ながら、俺は洞窟の奥へ進んでいた。
ダンジョンマスターを探すためだ。
フィリアの時。
コボルトダンジョンの時。
どちらもコアの近くにいた。
今回も同じだろう。
予想は当たった。
最深部。
巨大な広間。
そこには黒いコアが浮かんでいた。
そして、その前に一人の男が立っている。
狼耳を持つ獣人だった。
年齢は三十代くらい。
武装はしている。
だが戦士には見えない。
ダンジョンマスターだ。
「待て」
男が言う。
「交渉しよう」
「断る」
即答だった。
男の顔が引きつる。
「お前もダンジョンマスターなんだろ!?」
「そうだ」
「なら分かるはずだ! 俺たちは同じ立場だ! 互いに争わず、協力することだってできる!」
「分かっている」
俺は淡々と答える。
「だから吸収する」
「は……?」
「ダンジョンマスター同士だからこそ分かる。ダンジョンは力そのものだ。お前を生かせば、いずれ俺の敵になる」
男の顔から血の気が引いた。
「待て……本気で言っているのか?」
「もちろんだ」
「俺は降伏する! DPも資源も渡す! だから――」
「必要ない」
俺は遮った。
「お前の命ごと奪った方が得だ」
男は絶句した。
「お前……狂ってるぞ」
「よく言われる」
スイが隣でうんうんと頷いていた。
余計なお世話だ。
男は剣を抜く。
だが遅い。
リリスの蜘蛛糸が腕を拘束する。
スイが背後へ回る。
そして毒を流し込んだ。
数秒後。
男は膝をつく。
そのまま倒れた。
終わりだった。
命乞いの言葉すら最後まで聞く気はなかった。
俺はコアへ手を伸ばす。
⸻
【ダンジョンコアを確認】
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【吸収可能】
⸻
迷わず実行する。
黒いコアに触れた瞬間、耳鳴りのような振動が頭蓋の奥で響いた。
次の瞬間――コアが砕け散る。
砕けた破片は光となり、濁流のような魔力へ変わって俺の中へ流れ込んできた。
「っ……!」
思わず息を呑む。
熱い。
いや、熱いだけではない。
焼けた鉄を無理やり血管へ流し込まれているような圧迫感。
全身の内側が軋む。
魔力の奔流が容赦なく押し寄せ、俺のコアを内側から押し広げていく。
視界が揺れた。
一瞬だけ膝をつきそうになる。
これまで二度吸収してきた。
だが今回は規模が違う。
黒狼の牙が蓄えていた魔力は、過去の吸収を明らかに上回っていた。
受け止めきれなければどうなる。
そんな考えが脳裏をよぎる。
コアが耐え切れず崩壊するのか。
魔力に呑まれて自我を失うのか。
分からない。
だが危険だということだけは本能が理解していた。
それでも止める気はない。
ここで手放せば、この力は二度と手に入らない。
歯を食いしばり、流れ込む魔力を強引に受け入れる。
圧力が増す。
胸が苦しい。
全身の感覚が白く染まりそうになる。
それでも耐える。
耐えて、飲み込む。
やがて限界まで膨れ上がった感覚が弾けるように広がった。
コア容量が拡張される。
以前よりもはっきり分かった。
器そのものが作り変えられている。
俺自身が強くなっている。
⸻
【ダンジョン吸収完了】
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【DP獲得:2,417】
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【保有DP:5,080】
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【吸収ダンジョン数:3】
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荒くなっていた呼吸を整えながら、俺は通知を見つめた。
大きい。
今までで最大だ。
危険を感じるほどの魔力だったが、それに見合うだけの成果がある。
フィリアのダンジョン。
コボルトダンジョン。
そして黒狼の牙。
三つ目の吸収。
確実に成長している。
その時だった。
視界に新たな通知が表示される。
⸻
【配下進化条件を確認】
⸻
【ブラッドウルフ】
⸻
やはり来たか。
ブラックウルフロードとの戦闘。
そしてダンジョン吸収によるコア強化。
条件が揃ったのだろう。
ブラッドウルフの身体から魔力が溢れ出す。
進化だ。
だが、その前にもう一つ問題があった。
外だ。
領主軍。
まだ生き残りがいる。
俺はシャドウバットの視界を確認する。
撤退している。
かなり慌てて。
そして先頭には豪華な鎧を着た男がいた。
おそらく領主本人だ。
「逃がしたな」
フィリアが呟く。
だが俺は首を振った。
「構わない」
「え?」
「あいつらは勝手に噂を広める」
黒狼の牙が滅び、正体不明の勢力が現れ、ダンジョンを吸収した。
勝手に広まるだろう。
それも利用できる。
そして今はもっと重要なことがある。
俺は進化を始めたブラッドウルフを見る。
新たな戦力。
新たな力。
そして吸収数は三。
Bランクまであと二つ。
最強の魔王への道は、思った以上に順調だった。




