第48話 災厄の欠片
【保有DP:93】
【侵食率:3.5%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×11
・ポイズンスライム×3
・洞窟ネズミ×6
スイと侵食個体が激突した瞬間、最深部の空気が爆発した。
轟音と共に衝撃波が広がり、床を覆っていた砂塵が吹き飛ぶ。吹き飛ばされた少女はコアの根元へ転がり、そのまま動けずにいた。
だが俺の意識はそちらへ向いていない。
視線は侵食個体へ釘付けだった。
強い。
それが最初の感想だった。
スイは女剣士エレナの討伐隊を壊滅させた主力だ。進化を重ね、このダンジョン最強の配下と言っていい。
そのスイが正面から押し返されている。
侵食個体の腕が振るわれる。
黒い結晶の塊のような拳。
スイは咄嗟に身体を変形させて回避するが、掠っただけで紫色の肉体が抉れ飛んだ。
「あるじ」
スイの声が響く。
「へんなの」
その言葉と同時に反撃が始まる。
伸びた腕が鞭のようにしなり、侵食個体の首へ絡み付いた。普通の魔物ならそれだけで終わりだ。
だが――
嫌な音がした。
ぱきり。
ぱきぱき。
侵食個体の首から黒い結晶が増殖する。
次の瞬間、スイの腕へ黒い亀裂が走った。
「なっ……!?」
俺は思わず声を上げる。
侵されている。
スイの身体が。
黒い結晶が粘液の表面を這い、ゆっくりと広がっていく。
その異常を察知したスイは迷わず腕を切り離した。
紫色の腕が床へ落ちる。
すると切断された部分は瞬く間に結晶へ変貌し、ぼろぼろと崩れ去った。
危なかった。
もし反応が遅れていたら、侵食は全身へ広がっていたかもしれない。
だが、それで終わりではない。
侵食個体は止まらない。
感情も痛覚も存在しないかのように再び前へ出る。
その動きを止めたのはリリスだった。
天井から無数の糸が降り注ぐ。
鋼糸より強靭な蜘蛛糸。
侵食個体の四肢へ巻き付き、その動きを拘束する。
さらにリリス自身が飛び込んだ。
八本の脚が閃く。
鋭い爪が侵食個体の胴体を切り裂いた。
黒い結晶が砕け散る。
普通なら致命傷。
だが侵食個体は倒れない。
切断された部位から黒い結晶が増殖し、失われた部分を補っていく。
再生。
しかも異常な速度だ。
「面倒ですね」
リリスが眉をひそめる。
その声に余裕はある。
だが警戒もしている。
俺も同じだった。
強いというより厄介だ。
今まで戦ってきた敵とは根本的に違う。
その時、システムが新たな表示を出した。
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【侵食個体を解析中】
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初めて見る表示だった。
数秒後。
追加情報が現れる。
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【侵食個体】
【侵食率10%未満】
【災厄の欠片】
⸻
災厄の欠片。
意味は分からない。
だが一つだけ確実なことがある。
こんな化け物ですら欠片に過ぎないということだ。
それに、その名称を見た瞬間、侵食率の表示に感じていた不気味さとどこかで繋がった気がしてならず、既に世界のどこかで同じ脅威が静かに広がっているのではないかという得体の知れない恐怖が胸を締め付けた。
俺は背筋が冷えるのを感じた。
もし完全体が存在するなら――。
その思考を振り払う。
今は目の前の敵だ。
侵食個体は再び動き出そうとしていた。
しかし、その直後だった。
黒い結晶の身体に紫色の染みが広がる。
スイの毒だ。
最初の激突で既に侵入していたらしい。
侵食個体の動きが僅かに鈍る。
そしてリリスが見逃さなかった。
蜘蛛糸がさらに締め上げる。
関節が軋む。
結晶が砕ける。
そこへスイが飛び込んだ。
「こわれろ」
短い一言。
紫色の拳が侵食個体の胸部へ叩き込まれる。
轟音。
衝撃。
そして黒い身体が弾け飛んだ。
結晶片が周囲へ散乱する。
壁へ。
床へ。
天井へ。
だが今度は再生しない。
砕けた破片は紫色の煙を上げながら崩壊していく。
やがて最後の一片が消えた時、最深部へ静寂が戻った。
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【侵食個体を撃破】
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【DP獲得失敗】
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俺は目を細める。
DPが入らない。
魔物でも人間でもない証拠だった。
だが、その直後。
別の通知が現れる。
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【侵食情報を取得】
【侵食率:3.5%→4.0%】
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俺は思わず固まった。
増えた。
侵食率が。
敵を倒しただけなのに。
その意味を考えるより早く、俺の視界に別の表示が現れる。
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【新機能解放条件の一部を満たしました】
⸻
意味深な表示だった。
だが確認する時間はない。
最深部にはまだ問題が残っている。
俺はゆっくりと視線を動かす。
そこには尻もちをついたまま震えている少女と、赤く輝くダンジョンコアがあった。
侵食個体は消えた。
邪魔者はいなくなった。
なら残る問題は一つだけだ。
俺は静かに告げる。
「さて、話を続けようか」
少女の顔から血の気が引いた。




