第45話 侵略計画
【保有DP:143】
【侵食率:3.5%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×8
・ポイズンスライム×3
・洞窟ネズミ×5
他のダンジョンを発見してから数日が経過した。
その間、シャドウバットによる偵察は継続している。相手のダンジョン構造、配下の配置、冒険者への対応、そしてダンジョンマスター本人の行動まで、観察できる範囲はほぼ調べ尽くした。
結論から言えば、俺の判断は変わらない。
勝てる。
それも高い確率で。
もっとも、それは油断していいという意味ではない。勝てる戦いだからこそ、可能な限り損害を減らして勝つべきだ。
真正面から戦う必要はない。
有利な状況を作り、その上で叩き潰せばいい。
まず行ったのは戦力の増強だ。
管理画面を開き、現在のDPを確認する。
【保有DP:143】
十分な数字だった。
高額召喚を狙うこともできる。
だが今回は選ばない。
相手は深層主ではない。
討伐隊でもない。
弱小ダンジョンだ。
必要なのは一騎当千の強者ではなく、使い潰せる駒だった。
俺は迷わず10DP召喚を選択する。
【10DP召喚】
光が弾ける。
・ゴブリン
当たりだ。
運が良いのか、やはり効率が良い。
続けて回す。
・劣化魔石
・ゴブリン
・洞窟ネズミ
・ゴブリン
結果として50DPを消費し、新たなゴブリン三体と洞窟ネズミ一体を獲得した。
派手なレア個体は出ない。
だが不満はなかった。
むしろ理想的だ。
今の俺に必要なのは数だからである。
【保有DP:93】
【配下モンスター】
・スイ×1
・リリス×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×11
・ポイズンスライム×3
・洞窟ネズミ×6
こうして並べると、ようやく軍勢と呼べる規模になってきた。
ダンジョンを手に入れたばかりの頃は、スイ一体しかいなかった。そこから考えれば大きな進歩だ。
だが俺が満足したのは数だけではない。
第二階層にある剣術訓練場も、確実に成果を出し始めていた。
訓練場では、今日も半透明の女剣士が木剣を振り続けている。
エレナの魂から生まれた施設。
彼女自身に意思はない。
だが剣技だけは残り続ける。
その動きを真似しながら、ゴブリンたちも訓練を続けていた。
以前なら棍棒を振り回すだけだった連中だ。
しかし今は違う。
前へ出る者。
側面へ回る者。
仲間を庇う者。
少しずつだが役割を理解し始めている。
最初の頃は悲惨だった。前衛役のゴブリンが踏み込みの勢い余って転び、その背中に後続が次々とぶつかって将棋倒しになったこともある。
だが何度も繰り返すうちに動きは変わった。今では一体が木剣で正面を牽制すると、別の一体が自然に横へ回り込み、挟み込むように攻撃を仕掛ける。
訓練用の藁人形相手とはいえ、以前なら一撃も当てられず空振りしていた連中が、連携して次々と打撃を叩き込んでいた。
ぎこちなさはまだ残る。それでも確実に強くなっている。見ているだけで分かるほどに。
その様子を見ながら、俺は侵略作戦を頭の中で組み立てていく。
今回の目的は殲滅ではない。
コアの奪取だ。
相手のゴブリンを全て倒す必要はない。
コアさえ手に入れば終わる。
ならば真正面から軍勢同士をぶつけるのは悪手だ。
俺は地面へ簡単な配置図を描きながら考える。
まず先行するのはゴブリン部隊。
役目は単純だ。
敵ゴブリンを引き付けること。
倒せれば理想だが、それは必須ではない。
数を止めてくれるだけで十分だった。
その後ろにポイズンスライムを配置する。
混戦になれば毒は厄介だ。
相手がゴブリンだろうが関係ない。
数が多いほど効果を発揮する。
そして本命。
スイとリリスだ。
この二人がコアへ向かう。
敵のゴブリン軍団と遊ぶ必要はない。
一直線に奥へ進み、ダンジョンマスターとコアを制圧する。
シャドウバットは上空から全体を監視。
位置情報を共有し続ける。
考えれば考えるほど勝率は高かった。
そもそも相手は冒険者すらまともに殺していない。
戦う覚悟そのものが足りていない。
だから弱い。
そして弱い者は奪われる。
それがこの世界のルールだ。
その日の夜、シャドウバットから最後の報告が届いた。
新たな戦力は確認できない。
見張りの数も変化なし。
少女も相変わらずコアの近くにいる。
伏兵の気配もない。
報告を聞き終えた俺は静かに頷いた。
十分だ。
これ以上待っても大きな変化はないだろう。
なら先に動く。
待っている間に相手が強くなる可能性だってあるのだから。
「あるじ?」
スイがこちらを見る。
「明日だ」
「たべる?」
「そうだ」
スイは嬉しそうに笑った。
隣ではリリスも静かに微笑んでいる。
初めてのダンジョン侵略。
初めてのコア奪取。
そして初めて、自分と同じダンジョンマスターを獲物にする戦い。
俺はダンジョンコアの淡い光を見つめながら、静かに翌日の戦いを待った。




