第44話 値踏み
【保有DP:143】
【侵食率:3.5%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×8
・ポイズンスライム×3
・洞窟ネズミ×5
他のダンジョン。
その存在を確認した俺は、すぐに侵略へ動かなかった。
理由は単純だ。
情報が足りない。
相手が弱い保証はない。
深層主のような怪物を抱えている可能性だってある。
だから調べる。
まずはそれからだ。
シャドウバットによる偵察は順調だった。
相手は警戒していない。
少なくとも今のところは。
見張りのゴブリンはいる。
だがシャドウバットには全く気付いていない。
俺は毎日のように映像を確認した。
そして少しずつ全体像が見えてくる。
「……弱いな」
それが率直な感想だった。
ダンジョンの規模は小さい。
構造も単純。
通路が一本。
小部屋がいくつか。
罠らしい罠も見当たらない。
配下は大量のゴブリン。
数だけは多い。
だが訓練されている様子はなかった。
統率はされている。
しかし連携がない。
ただ集めただけだ。
新人冒険者でも数人いれば突破できそうだった。
「数ばかりですね」
リリスも呆れたように言う。
「ああ」
ゴブリンは悪くない。
俺も使っている。
だが運用が違う。
うちのゴブリンは誘導する。
罠へ追い込む。
時間を稼ぐ。
死ぬ時ですら役割がある。
だが向こうは違った。
ただ前へ出る。
殴る。
死ぬ。
それだけだ。
効率があまりにも悪い。
そして数日後。
さらに決定的なものを見た。
冒険者だ。
四人組だった。
新人だろう。
ゴブリンたちと戦っている。
そして――生きて帰った。
俺は思わず眉をひそめる。
「またか」
これで三度目だった。
何人もの冒険者が出入りしている。
死ぬ者もいる。
だが全滅しない。
必ず誰かが帰っている。
「理解できませんね」
リリスも首を傾げる。
俺も同感だった。
冒険者を帰せば情報が漏れる。
危険性が広まる。
強い冒険者が来る。
だから殺す。
それが当たり前だ。
少なくとも俺ならそうする。
だが相手は違うらしい。
まるで追い返すことが目的のように見える。
その時だった。
シャドウバットの視界に、見知らぬ少女が映る。
小柄な身体。
緑色の髪。
額に小さな角。
ダンジョンコアの近くに座り込み、退屈そうに足を揺らしていた。
そして。
冒険者が帰る姿を見て。
笑った。
「よかったぁ」
小さな声だった。
だが確かに聞こえた。
「死ななかった」
俺は黙る。
リリスも何も言わない。
少女は続ける。
「また来てくれるかな」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを理解した。
こいつは馬鹿だ。
冒険者を餌としても見ていない。
敵としてすら見ていない。
客だ。
ダンジョンへ来る客。
そんな感覚なのだろう。
だから殺さない。
だから弱い。
だから成長できない。
俺は呆れる。
同時に確信する。
勝てる。
いや。
既に勝っている。
そのくらい差があった。
「あるじ」
スイが不思議そうに首を傾げる。
「どうする?」
俺は少し考える。
そして管理画面を開いた。
【保有DP:143】
現在の戦力。
ゴブリン八体。
ポイズンスライム三体。
洞窟ネズミ五体。
スイ。
リリス。
シャドウバット。
十分とは言わない。
だが相手よりは上だ。
少なくとも指揮官は。
「リリス」
「はい」
「勝てると思うか?」
リリスは即答した。
「勝てます」
迷いもない。
当然だ。
俺も同意見だった。
だからこそ慎重になる。
今までも調べ、観察した。
罠を用意した。
そして勝った。
今回も同じだ。
油断しない。
徹底的に調べ、その上で奪う。
相手がダンジョンなら尚更だ。
コア。
配下。
DP。
全てが価値を持つ。
冒険者より遥かに大きな価値だ。
俺は赤く輝くコアを見つめる。
あの中には、どれほどの資源が詰まっているのだろう。
考えるだけで楽しくなってくる。
「シャドウバット」
『キィ』
「監視を続けろ」
まだ襲わない。
だが決めた。
あのダンジョンは俺のものにする。
問題はいつ奪うかだけだ。




