第43話 隣人
【保有DP:143】
【侵食率:3.5%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×8
・ポイズンスライム×3
・洞窟ネズミ×5
森の奥を移動するゴブリンたち。
その映像を見ながら、俺は考え込んでいた。
冒険者ではない。
野生の魔物とも違う。
明らかに集団行動をしていた。
しかも見張りまでいる。
統率されているのだ。
「自然発生の群れではないな」
「そうですね」
リリスも同意する。
俺はシャドウバットの映像をもう一度確認した。
五体のゴブリン。
装備は粗末だ。
棍棒。
石斧。
木盾。
だが重要なのはそこではない。
隊列を組んでいた。
先頭。
中央。
最後尾。
最低限ではあるが警戒しながら移動している。
あれは訓練された動きだ。
少なくとも偶然ではない。
「誰かが管理している」
そう考えるのが自然だった。
俺は思い出す。
今まで警戒してきた相手は二種類だった。
冒険者。
そして深層主。
ダンジョンの外から来る敵と、ダンジョン最深部に存在する怪物。
だが、それ以外は考えたこともなかった。
この世界にダンジョンが一つしかない保証などない。
むしろ複数ある方が自然だ。
俺が存在するのだから。
他にも存在するはずだ。
「リリス」
「はい」
「ダンジョンマスターは珍しいのか?」
少し考えた後、彼女は首を振った。
「分かりません」
「知らないのか」
それもそうだ。
リリスは外の世界を知らない。
スイなどもっと知らないだろう。
「あるじ」
スイが手を挙げる。
「なんだ」
「ごはん?」
「違う」
即答した。
スイは少し残念そうだった。
最近は何でも食事へ結び付ける。
その発想は嫌いではないが。
俺は再び映像を見る。
そして気付いた。
ゴブリンたちの移動経路。
一定だ。
まるで決められた道を通っているように見える。
「帰っているのか」
拠点へ。
巣へ。
あるいは――ダンジョンへ。
その可能性が頭をよぎる。
もし本当に他のダンジョンだとしたら。
俺は少し興奮した。
冒険者は資源だ。
だがダンジョンは違う。
そこにはDPがある。
魔物がいる。
そしてコアがある。
つまり大きな価値が眠っている。
普通なら警戒する場面だろう。
未知の敵。
正体不明の存在。
危険かもしれない。
だが俺が最初に考えたのは利益だった。
何を得られるか。
どれだけ強くなれるか。
それだけだった。
「あるじ、顔こわい」
スイが言う。
「そうか?」
「うん」
リリスも小さく頷いた。
どうやら無意識に笑っていたらしい。
俺は咳払いをする。
少し落ち着こう。
相手がダンジョンと決まったわけではない。
まずは情報だ。
情報なくして勝利はない。
女剣士の討伐隊から学んだことでもある。
「シャドウバット」
『キィ』
「追跡しろ」
命令を受けた黒い蝙蝠は即座に飛び立った。
静かに。
音もなく。
森の影へ溶け込んでいく。
索敵能力なら配下の中でも最高だ。
見つかることはないだろう。
一時間。
二時間。
三時間。
その間もダンジョンは動き続ける。
ゴブリンたちは訓練する。
ネズミは巡回する。
ポイズンスライムは待ち伏せ位置を覚える。
以前なら考えられなかった光景だった。
少し前まで、まともな戦力はスイしかいなかったのだから。
軍勢は着実に育っている。
その事実に満足しながら待つ。
そして夕方。
ついにシャドウバットが戻ってきた。
『キィッ!』
興奮している。
珍しい。
俺は即座に視界を共有した。
映像が流れ込む。
森。
岩場。
崖。
そして――。
洞窟。
大きな洞窟だった。
入口の前には見張りのゴブリン。
中へ入っていくゴブリン。
さらに奥。
暗闇の先。
そこにあった。
淡く赤く輝く結晶。
俺は息を呑む。
見間違えるはずがない。
毎日見ている。
俺自身でもある。
「ダンジョンコア……」
間違いない。
他のダンジョンだ。
その瞬間、俺の胸の奥で何かが高鳴った。
恐怖ではない。
期待だった。
冒険者以外の敵。
そして未知の存在。
世界は思っていたより広い。
そして俺は、自分以外のダンジョンを初めて見つけた。
奪うかどうかは後で決めればいい。
まずは知ることだ。
相手の戦力。
構造。
配下。
弱点。
全て調べる。
情報は力になる。
それは人間から学んだことだった。
俺は赤く輝くダンジョンコアを見つめながら、静かに次の計画を立て始める。
新たな獲物か。
あるいは新たな脅威か。
その答えは、まだ分からなかった。




