第39話 収穫
【保有DP:54】
【侵食率:3.2%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×2
・ポイズンスライム×1
・洞窟ネズミ×2
新人冒険者たちは逃げるゴブリンを追い掛けていた。
「待て!」
「逃がすな!」
剣士が先頭を走る。
足にはまだ毒が残っている。
軽いものだ。
だが確実に動きを鈍らせていた。
それでも本人は気付いていない。
新人だからだ。
経験が足りない。
だから追う。
だから罠に掛かる。
ここまでは想定通りだった。焦りを煽り、判断力を削れば足元への注意は薄れる。
先頭のゴブリンが角を曲がった。
剣士も続く。
その瞬間。
床が消えた。
「え?」
間抜けな声だった。
次の瞬間には落下していた。
ドガッ!
鈍い音。
悲鳴。
「ぎゃあああああっ!!」
落とし穴。
深くはない。
だが十分だ。
脚は折れたらしい。
立ち上がれない。
新人パーティーの前衛が一瞬で戦闘不能になった。
前衛を穴に落とし、後衛を救助へ向かわせる。連携を逆手に取るための配置だ。
「大丈夫か!?」
弓使いが叫ぶ。
魔術師も慌てて駆け寄る。
その隙。
天井から紫色の影が落ちた。
スイだ。
人型となったスイは音もなく降下する。
着地。
そして伸びる。
腕が。
いや、身体そのものが。
粘液の鞭が魔術師の首へ巻き付いた。
「なっ――」
引く。
一瞬だった。
魔術師の身体が宙へ浮く。
そのまま暗闇へ消える。
「うわああああっ!」
悲鳴。
短い。
数秒後には静かになった。
孤立した後衛から狩る。反撃手段を減らせば後は崩れるだけだ。
俺はDP表示を見る。
⸻
【冒険者を捕食】
【DP+41】
【保有DP:95】
⸻
良い。
やはり新人でもそれなりのDPになる。
記憶も流れ込んできた。
だが大したものはない。
新人の知識だ。
今となっては価値が低い。
俺は即座に整理を終える。
弓使いの顔色が変わった。
「逃げるぞ!」
正しい判断だった。
新人としては百点だ。
だが遅い。
既にダンジョンの中に入り過ぎている。
洞窟ネズミが走る。
視線を誘導する。
ゴブリンが姿を見せる。
逃げる。
追わせる。
単純だ。
だが効果的だった。
冷静さを失っていた。
見える獲物を用意し続ければ、人は安全な退路より目の前の脅威を追ってしまう。
「くそっ!」
弓使いが矢を放つ。
命中。
ゴブリンが倒れる。
「ギャッ!」
死んだ。
だが問題ない。
十分働いた。
むしろ期待以上だ。
囮の役目は果たした。ここで足を止めさせれば十分だ。
その隙をスイは見逃さない。
床を滑る。
一瞬で距離を詰める。
弓使いが振り向く。
遅い。
紫色の腕が胸を貫いた。
「がっ……」
口から血が溢れる。
そのまま身体が取り込まれていく。
⸻
【冒険者を捕食】
【DP+38】
【保有DP:133】
⸻
残るは一人。
落とし穴の底にいる剣士だった。
脚は折れている。
逃げられない。
戦えない。
生き残る方法もない。
剣士はようやく理解したらしい。
青ざめた顔で周囲を見回す。
「なんなんだよ……」
返事はない。
あるわけがない。
俺はダンジョンだ。
侵入者へ説明する義務などない。
ここまで来れば狩りは終盤だ。逃げ道も仲間も残していない。
スイが穴の縁へ立つ。
見下ろす。
剣士が震える。
「やめろ……」
スイは首を傾げた。
「ごはん?」
そして飛び降りた。
悲鳴。
数秒。
それで終わりだった。
⸻
【冒険者を捕食】
【DP+42】
【保有DP:175】
⸻
新人三人。
全滅。
こちらの損害はゴブリン二体。
十分すぎる結果だった。
俺は戦場を見渡す。
血。
悲鳴。
恐怖。
そして捕食。
全てが予定通りだった。
以前ならスイ一体に頼るしかなかった。
だが今回は違う。
ゴブリンが誘導した。
ポイズンスライムが足を止めた。
洞窟ネズミが視線を逸らした。
そしてスイが仕留めた。
誰か一人の力ではない。
ダンジョン全体で殺したのだ。
その事実に満足する。
「あるじ」
スイが戻ってくる。
少し嬉しそうだった。
俺は頷いた。
「ああ。よくやった」
そして視線をゴブリンの死体へ向ける。
いや。
死体ではない。
既にDPへ還元されている。
失ったのは二体。
だが人間から得たDPは121。
十分黒字だった。
むしろ安い。
思った以上に安い。
配下を失ったのに、何も感じない。
悲しみはない。
怒りもない。
必要な損失だった。
ただそれだけだ。
ゴブリンは駒だ。
優秀な駒だ。
ならば増やせばいい。
もっと。
もっと大量に。
もっと効率よく。
俺は管理画面を開く。
⸻
【保有DP:175】
⸻
数字を見て自然と笑みが浮かんだ。
次は何を増やそうか。
ゴブリンか。
ポイズンスライムか。
それとも別の何かか。
考えるだけで楽しい。
どうやら俺は、人間だった頃には戻れないらしい。
だが構わない。
今の俺はダンジョンマスターだ。
侵入者を資源へ変え。
配下を増やし。
ダンジョンを育てる。
そのためなら何人死のうが関係ない。
俺は次の投資先を考えながら、静かに管理画面を眺め続けた。




