第38話 初陣
【保有DP:54】
【侵食率:3.2%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×3
・ポイズンスライム×1
・洞窟ネズミ×2
新人冒険者三人がダンジョンへ近付いていた。
剣士。
弓使い。
魔術師。
典型的な新人パーティーだ。
装備も安物。
歩き方も未熟。
女剣士の討伐隊とは比べるまでもない。
正直、スイだけで終わる相手だった。
だが今回は違う。
目的は討伐ではない。
実験だ。
訓練の成果を確認する。
使える駒かどうか見極める。
そのための初陣だった。
「スイは待機だ」
「わかった」
少し不満そうだった。
だが従う。
リリスも静かに壁際へ下がる。
今回の主役ではない。
新人冒険者たちは何も知らず第一階層へ入ってきた。
ひんやりと湿った空気が肌にまとわりつく。
岩壁からは水滴がぽたり、ぽたりと落ち、薄暗い通路に反響していた。
「普通のダンジョンだな」
「失踪者が出てるって聞いたけど」
「噂だろ」
笑いながら進む。
警戒心が薄い。
実に新人らしい。
先頭の剣士が通路を進む。
靴底が湿った地面を踏むたび、ぺちゃりと小さな音が響く。
その直後。
足元から小さな影が飛び出した。
「うおっ!?」
洞窟ネズミだ。
攻撃ではない。
ただ横切っただけ。
だが新人には十分だった。
耳元をかすめるような素早い足音に、一瞬だけ視線が逸れる。
その隙。
通路脇へ潜んでいたポイズンスライムが飛び出した。
ぶより、と粘つく音を立てながら剣士の足へ絡み付く。
「なっ!?」
剣士の足へ張り付く。
毒そのものは弱い。
だが新人には脅威だ。
鼻をつく刺激臭が立ち上り、剣士の顔が引きつった。
「離れろ!」
弓使いが叫ぶ。
慌てて剣で叩き落とす。
ぐしゃり、と嫌な感触と音が通路に響いた。
その時には隊列が崩れていた。
俺は少し感心した。
訓練の成果が出ている。
単体では雑魚だが、連携すると違う。
そこへゴブリンたちが現れた。
暗がりの奥から荒い息遣いが聞こえ、湿った獣臭が流れてくる。
「ギャッ!」
「ゴブッ!」
三体同時。
訓練前なら突撃して終わりだっただろう。
だが今は違う。
二体が前へ出る。
一体が回り込む。
新人剣士が対応に追われた。
「くそっ!」
棍棒が風を切る。
ぶん、と鈍い音を立てて振り下ろされた一撃を、剣士は慌てて受け止めた。
金属と木がぶつかり、甲高い衝突音が狭い通路に響く。
威力は低い。
だが数がある。
弓使いも援護へ回る。
弦が鳴り、矢が空気を裂いて飛ぶ。
魔術師は詠唱を始める。
新人たちは完全にゴブリンへ意識を向けていた。
そこで俺は理解する。
使える。
十分に使える。
新人相手なら戦力になる。
もちろん限界もあった。
魔術師の火球が飛ぶ。
熱風を伴った赤い光が薄暗い通路を照らした。
直撃。
ゴブリン一体が吹き飛ばされた。
「ギャアッ!」
断末魔が響き、焦げた肉の臭いが広がる。
壁へ叩き付けられる。
動かない。
死んだ。
だが俺は何も感じなかった。
悲しみもない。
怒りもない。
期待通りだったからだ。
新人三人を相手に一体で時間を稼いだ。
十分仕事をした。
むしろ優秀だ。
「なるほど」
損失一。
だが敵は消耗した。
剣士は毒を受けている。
魔術師は魔力を消費した。
弓使いも矢を使った。
収支は悪くない。
残った二体のゴブリンも下がる。
無理に戦わない。
訓練で覚えた行動だった。
新人たちは追い掛ける。
当然だ。
逃げる雑魚を見逃す理由がない。
足音が通路に反響し、焦り混じりの呼吸が湿った空気を震わせる。
そして、その先にあるものも知らない。
俺は静かに笑った。
落とし穴。
そしてスイ。
ようやく出番だ。
雑魚が削る。
罠が削る。
最後に強者が狩る。
理想通りの流れだった。
新人冒険者たちは気付いていない。
自分たちが戦っている相手がゴブリンではないことを。
このダンジョンそのものと戦っていることを。
冷たく淀んだ空気、闇に潜む気配、通路そのものが牙を剥いていることを。
その事実にまだ誰も気付いていなかった。




