第37話 使える駒
【保有DP:54】
【侵食率:3.2%】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヒューマノイドスライム)×1
・リリス(原初のアラクネ)×1
・シャドウバット×1
・ゴブリン×3
・ポイズンスライム×1
・洞窟ネズミ×2
訓練施設を起動してから数日が経過した。
最初は半信半疑だったが、効果は予想以上だった。
ゴブリンたちは以前とは別物になっている。
棍棒を振り回して遊ぶだけだった連中が、今では連携して動くようになった。
二体が前へ出る。
一体が後ろへ回る。
単純な動きだ。
だが冒険者相手なら十分嫌らしい。
少なくとも以前のように突撃して死ぬだけではない。
「へぇ」
思わず感心する。
施設化された女剣士は伊達ではなかったらしい。
洞窟ネズミも変化していた。
以前は好き勝手に走り回るだけだったが、今は決められた巡回路を移動している。
侵入者を発見した場合はシャドウバットへ伝達。
そしてシャドウバットから俺へ報告。
簡易的な警戒網だ。
小規模ながら、確実にダンジョンらしくなっている。
さらにポイズンスライム。
こいつは通路脇へ潜み続ける訓練をしていた。
動かない。
ひたすら動かない。
だが侵入者が近付くと飛び出す。
地味だが厄介だ。
新人冒険者程度なら十分脅威になる。
俺は満足していた。
強者一体より雑魚十体。
今の俺にはその方が価値がある。
スイやリリスは切り札だ。
切り札を使う前に消耗させるべきだ。
雑魚が削る。
罠が削る。
そして最後に強者が仕留める。
それが理想だった。
より正確に言えば、消耗を前提とした駒である。
一体失えば損失は出る。
だが損失と成果が釣り合うなら問題はない。
駒は盤面を有利にするために存在する。
生かすためではなく、使うために。
その時だった。
『キィッ』
シャドウバットが戻ってくる。
視界共有。
森の景色が流れ込んできた。
木々の隙間を吹き抜ける風は弱く、葉擦れの音さえ妙に遠い。
鳥の鳴き声も途絶え、森全体が息を潜めているようだった。
湿った土の匂いと、張り詰めた空気だけがそこにある。
人影。
三人。
武装は軽い。
年齢も若い。
どう見ても新人冒険者だった。
その姿を捉えた瞬間、巡回中だった洞窟ネズミがぴたりと動きを止める。
通路脇に潜むポイズンスライムも、わずかに体表を震わせた。
ゴブリンたちは棍棒を握り直し、興奮と緊張の入り混じった息を漏らしている。
初めての実戦を前に、配下たちの空気が目に見えて変わった。
訓練の成果を試すにはちょうどいい。
スイも気付いたらしい。
「ごはん?」
「そうだ」
新人三人。
以前ならスイ一人でも終わっていた相手だ。
だが今回は違う。
まずはゴブリンを使う。
ネズミを使う。
ポイズンスライムを使う。
どこまで削れるか試してみる。
勝てるかどうかではない。
どの駒がどれだけ機能し、どこで壊れるのか。
それを見極める方が重要だった。
死んでも構わない。
駒とはそういうものだ。
使い潰されることに意味がある。
一体が倒れて得られる情報は、一体を温存して得られない情報より価値が高い。
躊躇する理由はない。
必要なら全て切る。
盤面を有利にできるなら、それが最も合理的だ。
新人冒険者たちはまだ何も知らない。
自分たちが見られていることも。
既に狩場へ足を踏み入れていることも。
静まり返った森の奥で、見えない糸がゆっくりと締まっていくような感覚があった。
俺は静かに命令を下した。
「迎撃準備を開始しろ」
ゴブリンたちが一斉に立ち上がる。
その動きに合わせるように、ダンジョン内の空気がさらに重く沈んだ。
初めての実戦が始まろうとしていた。




