第35話 資源
【保有DP:24】
【侵食率:3.2%】
新人冒険者3人組は、第1階層の最奥部まで到達していた。
監視画面の中で、3人は上機嫌に会話を続けている。
「思ったより当たりだったな」
「ああ、魔石も手に入ったし」
「新人向けって聞いてたけど、結構いいダンジョンかも」
俺は静かにその様子を見ていた。
改装は成功だった。
宝箱は機能している。
小部屋も機能している。
蜘蛛糸による演出も悪くない。
少なくとも冒険者を奥へ誘導する効果は十分に証明された。
そして、それが確認できた以上――。
もう用はない。
「確認は終わりましたね」
リリスが言う。
「ああ」
俺は頷いた。
「全員回収する」
スイが嬉しそうに跳ねる。
『ぷるっ!』
シャドウバットが翼を広げる。
『キィィッ』
次の瞬間だった。
天井付近に潜んでいたシャドウバットが急降下する。
黒い影が剣士の視界を塞いだ。
「なっ――!?」
反応した時には遅い。
その隙を突いてスイが足元へ滑り込む。
『ぷるるっ!』
紫色の身体が槍使いへ絡み付く。
「しまっ――」
毒が流し込まれる。
顔色が変わる。
足が震える。
戦闘経験の浅い新人では対処できない。
魔術師が慌てて杖を構えた。
しかしその腕へ白い糸が巻き付く。
「え?」
振り向いた先にいたのはリリスだった。
巨大な蜘蛛の下半身。
人の上半身。
赤い瞳。
新人冒険者が相手にするには絶望的な存在だった。
「ば、化け物……」
魔術師の声が震える。
その時点で勝負は決まった。
数分後。
3人は床へ倒れていた。
戦闘と呼ぶには一方的すぎる。
女剣士たちのパーティと比べれば、話にもならなかった。
「終了です」
リリスが報告する。
俺は短く頷いた。
「捕食する」
それだけだった。
生かしておく理由はない。
逃がす理由もない。
資源は回収するためにある。
倒れた3人の身体から黒い霧が立ち昇る。
その霧は床を伝い、ゆっくりとコアへ流れ込んできた。
捕食。
ダンジョンマスターである俺の本質。
肉体。
魔力。
魂の欠片。
すべてを喰らい、自らの糧にする。
新人冒険者たちの記憶も同時に流れ込んでくる。
断片的な人生。
冒険者登録の日。
酒場で仲間を集めた日。
初めて依頼を達成した日。
小さな成功。
小さな夢。
だが――。
価値はなかった。
強者の戦闘技術はない。
特別な知識もない。
貴族の情報もない。
世界の秘密もない。
手に入ったのは平凡な記憶ばかりだった。
「なるほどな」
俺は呟く。
「弱者は情報にならないか」
女剣士を捕食した時は違った。
戦闘技術。
知識。
経験。
多くのものが手に入った。
だが新人では話にならない。
もちろん不満はなかった。
今の俺に必要なのは知識ではない。
資源だ。
【DPを獲得しました】
+40DP ×3
「120DP……」
現在保有DP。
144。
ゴブリンなど比較にならない。
弱い。
情報もない。
だがDPだけは十分だった。
つまり――。
冒険者は優秀な資源ということだ。
「面白い」
自然と笑みが浮かぶ。
新人3人だけで120DP。
これを繰り返せば成長速度は比較にならない。
1000DP。
10000DP。
その先ですら見えてくる。
「ご主人様」
リリスが声を掛ける。
「どう使いますか?」
俺は少し考えた。
そして答える。
「増やす」
「増やす?」
「ああ」
スイ1人では足りない。
リリス1人でも足りない。
シャドウバットだけでも足りない。
もっと必要だ。
もっと大量に。
もっと安価に。
もっと使い潰せる戦力が。
ダンジョンとは本来そういうものだ。
1体の強者ではない。
無数の魔物が侵入者を削り、追い詰め、喰らう場所。
なら俺もそうする。
「次はモンスターを増やすぞ」
その言葉にリリスが笑う。
スイも嬉しそうに跳ねた。
シャドウバットも鳴く。
そして俺は改めて理解した。
冒険者は敵ではない。
獲物ですらない。
資源だ。
強くなるための材料。高みへ至るための糧。
なら遠慮する理由などない。
俺は全てを喰らう。
もっと強くなるために。




