第33話 改装開始
【保有DP:37】
【侵食率:3.2%】
翌日。
俺たちはさっそく第一階層の改装へ取り掛かっていた。
もっとも、職人がいるわけではない。
資材が潤沢なわけでもない。
予算は相変わらずギリギリだ。
だから派手な工事ではなく、今あるものを活かした改装になる。
「まずは小部屋だな」
第一階層にはいくつかの小部屋が存在する。
ダンジョン拡張時に増設したものだが、今まではほとんど活用されていなかった。
ただ岩壁に穴を開けただけの空間。
薄暗く、何もなく、冒険者から見れば通り過ぎる理由しかない場所だった。
それではもったいない。
「宝箱置く?」
スイが期待に満ちた目で聞いてくる。
「置く」
「やった!」
ぴょんぴょん跳ね始めた。
よほど気に入ったらしい。
俺は小部屋の一つへ意識を向ける。
DPを消費し、木箱を生成する。
豪華な宝箱ではない。
ごく普通の木箱だ。
しかし冒険者から見れば違う。
さっきまで何もなかった殺風景な空間に、ひとつの目的が生まれる。
ダンジョンの中で見つける箱には特別な価値がある。
「中身はどうします?」
リリスが尋ねる。
そこが問題だった。
高価な報酬を入れる余裕はない。
だからといって空箱では意味がない。
俺は少し考える。
そして何かに使えるだろうと保管していた魔石へ意識を向けた。
魔物が倒されると、ごく稀に魔石が残る。
小さな結晶だが、魔道具の材料として売却できるため、冒険者にとっては立派な戦利品だった。
幸い、これまで討伐されたゴブリンや魔物たちの分がいくつか保管されている。
価値は高くない。
だが初心者向けの報酬としては十分だろう。
「まずはこれでいい」
「利益より集客ですね」
「ああ」
今は客を呼ぶ方が重要だ。
利益を追うのはその後でいい。
リリスも納得したようだった。
その間、シャドウバットは第一階層を飛び回っている。
偵察だけでなく、意外と器用に作業を手伝っていた。
天井付近の確認。
蜘蛛糸を張る位置の確認。
狭い場所の点検。
こういう仕事は得意らしい。
『キィ』
「そこか?」
鳴き声に従って確認すると、天井の一部が少し崩れかけていた。
なるほど。
確かに見落としていた。
「助かる」
『キィ』
少し誇らしげだった。
地味だが頼りになる。
その後はリリスの出番だった。
第三階層から運び込まれた蜘蛛糸。
それを壁や天井へ丁寧に配置していく。
ベタベタと張り巡らせるわけではない。
本当に薄く。
目立ちすぎない程度に。
だが完成した光景を見て、俺は思わず感心した。
「雰囲気変わるな」
「そうでしょう?」
松明の光を受けた蜘蛛糸が微かに輝いている。
以前の第一階層は、ただ岩肌が続くだけの無機質な洞窟だった。
どこを見ても似た景色で、先へ進む理由も期待も薄い。
だが今は違う。
光を反射する細い糸が視線を誘導し、小部屋の奥には宝箱がちらりと見える。
曲がり角の先に何かありそうだと思わせる演出が生まれていた。
普通の洞窟ではない。
どこか神秘的で、少し不気味だ。
そして何より、「次は何があるのだろう」と足を進めたくなる。
探索したくなる空気が生まれていた。
スイも感心したように周囲を見回している。
「なんか凄い!」
「凄いだろう?」
珍しくリリスが少し胸を張った。
そんなやり取りをしながら改装は進む。
次は第二の小部屋。
次は通路。
次は罠の周辺。
少しずつ。
本当に少しずつだ。
だが確実に第一階層は変わっていった。
気付けば数時間が過ぎていた。
作業を終えた俺たちは入口付近から第一階層全体を見渡す。
構造そのものは変わっていない。
一本道のままだ。
小部屋の数も同じ。
罠の配置も大きくは変えていない。
それでも以前とは印象がまるで違った。
改装前は、入った瞬間に「ただの洞窟だ」と判断されても仕方のない景色だった。
だが今は、小部屋や光る蜘蛛糸が要所に配置され、奥へ進むほど何か見つかりそうな期待感がある。
何もない洞窟ではない。
探索する場所になっている。
「どうだ?」
俺が聞く。
最初に答えたのはスイだった。
「入りたい!」
即答だった。
リリスも静かに頷く。
「少なくとも以前よりは遥かに」
シャドウバットも翼を広げて鳴く。
『キィ!』
どうやら評判は悪くないらしい。
もちろん、これで完璧ではない。
まだ足りない部分は山ほどある。
だが今の予算でできることはやった。
あとは結果を待つだけだ。
冒険者は来るのか。
奥まで進むのか。
DPは増えるのか。
その答えは近いうちに分かるだろう。
強い魔物を集めるのも楽しい。
だがこうしてダンジョンを育てるのも悪くない。
むしろ、こちらこそがダンジョンマスターの本業なのかもしれなかった。




