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『最凶進化ダンジョンマスター ~冒険者を餌に最強を目指す』  作者: もかどら


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32/80

第32話 改装会議

【保有DP:37】


【侵食率:3.1%】


 深層主との一件が終わってから数日。

 ダンジョンには久しぶりに平穏な時間が流れていた。


 侵入者はいない。

 戦闘もない。

 悲鳴も聞こえない。

 静かなものだ。


 だが、ダンジョンマスターとしては喜んでばかりもいられなかった。


「DPが増えないな……」


 思わず呟く。

 保有DPは37。

 命名で1000DPを消費した影響はまだ大きい。

 もちろん後悔はしていない。

 スイもリリスも、それだけの価値があった。

 だが現実問題として、今は慢性的な資金不足だった。

 監視画面を眺めていると、天井付近から小さな影が降りてくる。


『キィ』


 シャドウバットだった。


 傷を負っていたが、今ではすっかり回復している。

 黒い翼を広げながら俺の近くへ降り立つ姿を見て、少し安心した。


 スイほど目立たない。

 リリスほど存在感もない。

 だがここでは数少ない古参戦力だ。


「調子はどうだ?」


『キィ』


 元気そうで何よりだった。


「怪我、完全に治ったみたいですね」


 リリスもそう言って頷く。

 シャドウバットは少し得意げに胸を張った。

 いや、胸を張ったように見えただけかもしれない。

 だが機嫌は良さそうだった。

 その様子を見ていたスイが笑う。


「よかったね!」


『キィ!』


 スイ。

 シャドウバット。

 そしてリリス。

 数は少ない。


 だが全員に役割がある。

 昔の俺なら考えられなかったことだ。

 感慨に浸りかけたところで、リリスが地図を広げた。


「ご主人様」


「ああ、そうだったな」


 今やるべきことは感傷ではない。


 ダンジョン改装だ。


 第一階層の改装計画。

 それが現在の最優先事項だった。

 地図を開く。

 入口から続く一本道。

 途中に配置された小部屋。

 奥へ向かう通路。

 新人向けダンジョンとしては悪くない。

 しかし魅力的かと言われると微妙だった。


「正直どう思う?」


 俺が尋ねる。

 するとリリスは迷いなく答えた。


「地味です」


 即答だった。

 スイも大きく頷く。


「地味!」


 シャドウバットまで鳴く。


『キィ』


 全会一致だった。

 俺も否定できない。

 実際、入口から見える景色はただの洞窟だ。

 奥へ進めば罠もある。

 ダンジョンコアもある。


 しかし、多くの冒険者は、そこへ辿り着く前に帰ってしまう。調査隊でも無い限り。


「問題は入口か」


「そうですね」


 リリスが頷く。


「冒険者は最初の印象で判断します」


 その言葉には説得力があった。

 命を懸ける場所なのだ。

 面白そうな場所へ行きたい。

 何もなさそうな場所は避けたい。

 それは当然だろう。


「じゃあ冒険者は何を求める?」


 そう尋ねた瞬間、スイが勢いよく手を挙げた。


「宝物!」


「やっぱりそれか」


「絶対そう!」


 満面の笑みだった。

 確かに間違ってはいない。

 宝箱を見つける。

 中身を確認する。

 その瞬間は誰だって楽しい。

 俺も前世のゲームで何度経験したか分からない。


「中身はまだ豪華じゃなくてもいい」


 俺は呟く。


「重要なのは見つけることだ」


 リリスが感心したように目を細める。


「探索そのものを楽しませるんですね」


「そういうことだ」


 だから小部屋を活用する。

 今までただ存在していただけの空間に意味を持たせる。

 それだけでもかなり変わるはずだった。

 すると今度はリリスが提案する。


「蜘蛛糸も使いましょう」


「装飾か?」


「はい」


 第三階層から定期的に譲り受けている蜘蛛糸。

 壁や天井へ薄く張れば、洞窟の雰囲気は大きく変わる。

 普通の洞窟ではない。

 何かありそうな洞窟になる。


「採用だな」


「ありがとうございます」


 少しだけ嬉しそうだった。

 そんな中、シャドウバットが監視画面の方へ飛んでいく。

 周囲の偵察をしたいらしい。

 もともと偵察能力は高い。

 ダンジョン経営が軌道に乗れば、外の情報収集でも活躍してくれるだろう。


「お前にも仕事が増えそうだな」


『キィ』


 返事はやる気十分だった。

 その後も会議は続いた。

 罠の位置。

 部屋の用途。

 冒険者の導線。

 少ないDPで何ができるか。

 議論は予想以上に盛り上がった。


「入口に落とし穴!」


 スイ。


「帰る」


 俺。

「帰りますね」


 リリス。


 即却下だった。

 スイが不満そうに膨れる。

 だが目的は討伐ではない。

 探索してもらうことだ。

 奥へ進んでもらうことだ。

 そしてDPを落としてもらうことだ。

 ようやくダンジョンマスターらしい発想が身に付いてきた気がする。


 気付けば会議は数時間に及んでいた。

 設計図には大量の書き込みが増えている。

 予算は少ない。

 できることも限られている。

 それでも未来は少し明るく見えた。


「よし」


 俺は設計図を閉じる。


「明日から改装開始だ」


「おー!」


 スイが飛び跳ねる。


『キィ!』


 シャドウバットも翼を広げる。

 リリスも静かに頷いた。

 派手な戦いはない。

 強敵もいない。

 だがダンジョンを育てるという実感があった。

 そして、その時だった。


【侵食率が上昇しました】


 不意に見慣れた表示が浮かび上がる。

【侵食率】

3.1%

3.2%


「ん?」


 思わず首を傾げた。

 侵食率。

 謎の数値。

 増える条件は分からない。

 意味も分からない。


「どうしましたか?」


 リリスが尋ねる。


「いや」


 俺は表示を閉じた。


「侵食率というのが増えただけだ」


 それだけだった。

 今はDPの方が重要だ。

 第一階層の改装の方が重要だ。

 意味の分からない数字を気にしている余裕はない。

 だから俺は深く考えなかった。


 この時はまだ。

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