第30話 原初に次ぐ者
爆発した魔力が地下空間を揺らした。
人面蜘蛛たちが悲鳴を上げる。
女王ですら数歩後退していた。
その中心にいるのはアラクネだ。
金色に輝く瞳。
渦を巻く魔力。
そして全身を包み込む白銀の光。
「ご主人様……!」
苦しそうな声が響く。
だが俺にはどうすることもできない。
命名は始まってしまった。
あとは見届けるしかない。
【命名を実行中】
【対象:アラクネ】
【個体情報を再構築します】
再構築。
その文字を見た瞬間、アラクネの身体が大きく震えた。
蜘蛛脚が光へ溶ける。
長い銀髪がさらに伸びる。
肌は雪のように白く変わり、漂う魔力は明らかに別次元へ到達していた。
人面蜘蛛たちが跪く。
本能的に格の違いを感じているのだろう。
女王も無言だった。
その変化を見守ることしかできない。
やがて光が収束する。
静寂が訪れた。
そして。
そこに立っていたのは、以前のアラクネでありながら、明らかに別の存在だった。
上半身は美しい女性。
腰から下には白銀の蜘蛛体。
だが以前の禍々しさは消えている。
どこか神秘的ですらあった。
ゆっくりと瞳が開く。
金色の瞳が俺を見る。
「ご主人様」
その声は変わらない。
だが響きが違った。
以前よりも深く。
以前よりも力強い。
【命名完了】
【個体名:リリス】
【種族:原初の魔蛛】
原初。
思わず表示を見返す。
スイだけが持つ特別な称号だと思っていた。
だが詳細を確認すると違った。
【原初の眷属:スイ】
【命名個体:リリス】
別枠だった。
スイは唯一。
リリスは命名によって生まれた上位存在。
似ているようで違う。
それを確認して少し安心する。
スイの特別さは失われていない。
「ありがとうございます、ご主人様」
リリスが深く頭を下げた。
その仕草は以前と変わらない。
だが周囲の反応は違った。
人面蜘蛛たちが完全に畏怖している。
女王でさえ警戒を隠せない。
それだけの進化だった。
そして次の瞬間。
システムが新たな情報を表示する。
【命名特典】
【眷属管理機能を解放】
さらに続く。
【眷属施設】
【建設可能】
俺の目が見開かれる。
施設。
また新しい機能だ。
詳細を確認する。
【眷属の居住区を建設できます】
【眷属の成長速度が上昇します】
【配下管理効率が向上します】
思わず笑みが漏れた。
強い。
派手な戦闘能力ではない。
だがダンジョン経営においては最高クラスの機能だった。
リリスも表示を覗き込む。
「これで配下を増やしやすくなりますね」
「そうだな」
むしろここからが本番だ。
強い個体を一体作るより。
強い組織を作る方が価値がある。
その考えは変わらない。
女王がこちらへ歩いてくる。
「約束通りです」
彼女は静かに頭を下げた。
「今回の件で我々は救われました」
第三階層の人面蜘蛛たちも続く。
敵意はない。
むしろ感謝に近い。
「今後も交流を続けたい」
女王はそう言った。
支配ではない。
同盟だ。
今の段階ではそれで十分だった。
「こちらも異論はない」
俺は頷く。
第三階層との関係はこれで安定した。
無理に争う必要もない。
今はもっと優先するべきことがある。
ダンジョンの成長だ。
帰還した俺は早速コアを開いた。
【DP:37】
命名で綺麗に消えた。
だが後悔はない。
むしろ安いくらいだ。
そして新たな選択肢が並ぶ。
【ダンジョン拡張】
【眷属居住区】
【モンスター召喚】
【施設建設】
第四階層。
深層主。
その先に待つ未知の脅威。
今の戦力ではまだ届かない。
だからこそ、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
スイとリリスが俺の隣に立つ。
最強の駒は揃い始めている。
次はダンジョンそのものを強くする番だ。
俺はコアへ手を伸ばした。




