第3話 価値
「お願い……殺さないで……」
ミリアは杖を落とし、その場にへたり込んでいた。顔面は真っ青で、瞳は恐怖に揺れている。仲間二人が目の前で死んだのだ。無理もない。
数時間前の俺なら同情していたかもしれない。
だが今は違う。
俺の頭の中には二人分の人生がある。アルドの記憶もロイドの記憶も知っている。その上で思う。
弱い。
この世界では弱い奴から死ぬ。
それだけだ。
「お願い……帰るから……もう二度と来ないから……」
俺は考える。
殺せば強くなれる。
生かせば何か利用できるかもしれない。
どちらが得か。
そこに善悪はなかった。
損得しかない。
【保有DP:110】
スライムを失った分を差し引いても増えている。
人間二人。
たった二人でこれだけ成長できたんだ、もし十人なら。
百人なら。
千人なら。
俺はどこまで強くなれる?
そんな考えが自然に浮かんでいた。
自分でも驚くほど冷静だった。
「ひっ……」
ミリアが何かを感じ取ったのか、さらに後ずさる。
俺はその反応を見て思った。
面白い。
人間はこうやって追い詰められるのか。
アルドやロイドの記憶で知っている恐怖を、今度は外側から見ている。
妙な気分だった。
【新機能解放条件を達成】
【人類三名以上の討伐で解放されます】
システムメッセージが表示された。
三名以上。
つまりあと一人。
あと一人殺せば新機能が手に入る。
俺はミリアを見る。
このシステムは悪魔か何かか?分かっていて表示したのだろうか。
まるで誘惑しているようだった。
「お願い……」
ミリアの声は震えていた。
「助けて……」
その時、俺の中で何かが切り替わった。
助ける理由がない。
俺を殺そうとした相手だ。
もし立場が逆なら、こいつらは迷わずコアを破壊していた。
なら俺だけが躊躇う必要はない。生き残るためだ。
それに。
強くなりたい。
その欲求が、罪悪感より少しだけ大きくなっていた。
「いやあああああ!」
スライムが飛びかかる。
ミリアは必死に杖を振った。
「ファイアボルト!」
火球が放たれる。
一体のスライムが焼ける。
だがそこまで、、残ったスライムが脚に絡みついた。
「離して!」
転倒。
杖が転がる。
そこへ飛びかかる。
悲鳴。
抵抗。
そして静寂。
【侵入者を撃破】
【DP+120】
【捕食進化が発動します】
大量の記憶が流れ込む。
魔術学院
友人たち
初恋
冒険者になる夢
家族との別れ
そして将来への希望
全部が俺の中へ流れ込んでくる。
気分は悪い。
だが前回ほどではない。
慣れ始めていた。
【火属性魔法Lv2を獲得】
【魔力操作Lv1を獲得】
【知識を吸収しました】
その瞬間、俺は理解した。
魔法の理論
魔力の流れ
詠唱の意味
さっきまで知らなかった知識が当たり前のように存在している。
「これが捕食進化か」
強い。
あまりにも強い。
殺せば殺すほど強くなる。
知識も経験も奪える。
成長速度が異常だ。
そして何より恐ろしいのは。
俺自身が人を殺すことに慣れ始めていることだった。
【条件達成】
【討伐数:3】
【新機能解放】
【モンスター進化機能を解放します】
視界に新たな画面が現れる。
俺は思わず笑った。
三人殺した。
その結果がこれだ。
罪悪感はある。
だが後悔はなかった。
むしろ次は何が手に入るのか気になっている。
そんな自分に気付いても、もう驚かなかった。
ダンジョンの奥で青白いコアが静かに輝く。
その光は、まるで獲物を待つ捕食者の瞳のようだった。




