第2話 捕食進化
【侵入者を撃破】
【DP+80】
【捕食進化が発動します】
「ぐっ……!?」
突然、膨大な情報が頭の中へ流れ込んできた。見覚えのない村。畑を耕す男。病弱そうな女。元気に走り回る少女。そして、それを見つめる少年。
知らない。知らないはずなのに知っている。俺はその少年の名前を知っていた。
アルド。
さっき落とし穴に落ちて死んだ冒険者だ。
アルドは貧しい農村の出身だった。病気の母親を治療するため、危険を承知で冒険者になった。稼いだ金を家に送り、いつか妹を学校へ通わせたいと思っていた。
そして死んだ。
俺に殺された。
「これが……記憶?」
気分が悪い。人を殺した実感が遅れて押し寄せてくる。家族も夢もあった普通の人間だ。それを俺は生きるために殺した。
だが、それだけでは終わらなかった。
【剣術Lv1を獲得】
【身体強化Lv1を獲得】
「は?」
理解できる。剣の握り方や重心移動。力の流し方。俺は剣なんて一度も触ったことがない。それなのに自然と分かる。まるで何年も訓練してきたみたいに。
記憶だけじゃない。経験まで奪っている。
「とんでもない能力だな……」
その時、洞窟の奥から声が聞こえた。
「おい!返事しろ!」
残った二人の冒険者だ。
俺は意識を向ける。すると自然に情報が浮かんできた。アルドの記憶だ。
槍使いの男はロイド。短気で突っ込み癖がある。
女魔術師はミリア。いつもは慎重だが追い詰められると判断を誤る。
なるほど。記憶を奪うということは、敵の情報も奪えるということか。
俺はステータスを確認した。
【保有DP:100】
よし!まだ戦える。
「スライムを五体生成」
床が淡く光り、半透明のスライムが現れる。
全然可愛くはない。
【DP:50】
「さらに落とし穴を設置」
【DP:20】
通路の床に新たな罠が完成した。
しばらくして二人が姿を現す。
「嘘だろ...やられたのか……?」
「ロイド、戻ろう。何かおかしい」
「初心者ダンジョンだぞ?そんなわけあるか」
俺は思わず感心した。
記憶通りだ。
ミリアは撤退を提案するがロイドは聞かない。
アルドの記憶にあった通りの反応だった。
「コアさえ手に入れば大金だ。ここで帰れるか」
「でも…」
「俺が前に出る!」
ロイドが走る。
同時にスライムたちが飛び出した。
「邪魔だ!」
槍が振るわれる。一体目が潰される。二体目も吹き飛ぶ。三体目も貫かれる。
だが十分だった。
ロイドの意識は完全にスライムへ向いている。
足元への注意が消えていた。
次の瞬間、床が崩れる。
「なっ――」
ロイドの身体が闇へ落ちた。
絶叫。
落下音。
そして鈍い衝撃音。
それで終わった。
【侵入者を撃破】
【DP+90】
【捕食進化が発動します】
再び記憶が流れ込む。
酒場
喧嘩
戦闘訓練
女
金
欲望
アルドとはまるで違う人生だった。
気分が悪い。
俺の頭の中には今、二人分の人生が存在している。
だが不思議と混乱はしてはいない。むしろ理解してしまう。
強くなった。
確実に。
「いや……」
小さな声が聞こえた。
ミリアだ。
顔面は真っ青だった。仲間は全滅。生き残ったのは自分だけ。恐怖で身体が震えている。
俺はそんな彼女を見つめ、そして思った。
…この女を殺せばもっと強くなれる…
もっと知識を奪える。
もっと進化できる。
「……」
自分の考えに寒気がした。
さっきまで人を殺したことに罪悪感を抱いていたはずだ。なのに今は違う。目の前の人間が経験値に見えている。
その時、ミリアが震える声で言った。
「お願い……殺さないで……」
俺は沈黙する。
殺すか。
生かすか。
ダンジョンマスターになって初めての選択が、目の前にあった。




