第1話 死んだ俺はダンジョンになっていた
冷たい。
そう思った瞬間、俺の意識は浮上した。
目を開こうとして、、できない。
まぶたが、、ない!?
手を動かそうとして、、できない。
手も足もない、、
代わりに、妙な感覚があった。
周囲の空間すべてを見渡しているような、不思議な感覚だ。
「……なんだ、これ」
声を出したつもりだった。
しかし音は響かない。
俺は焦った。
ついさっきまで、仕事をしていて、
会社帰り。たしか雨が降っていたような、、
目の前に迫る大型トラック。
強烈な衝撃。
そこで記憶は途切れている。
「死んだ……のか?」
その瞬間。
頭の中に機械的な音声が響いた。
【個体認証完了】
【新規ダンジョンマスターを確認】
【初期化を開始します】
「は?」
【名称:未設定】
【種族:ダンジョンコア】
【階位:F】
【保有DP:100】
【保有魔物:0】
【保有罠:0】
【生存優先プロトコル起動】
意味がわからない。
だが一つだけなぜだか理解できることがある。
俺はもう人間ではない。
その証拠に、視界には水で反射して映る青白い結晶が浮かんでいた。
直径一メートルほどの巨大な水晶。
なぜかわかる。
あれが俺だ。
「……冗談だろ」
周囲は薄暗い洞窟だった。
岩壁。湿った地面。天井から滴る水滴。
ゲームで見たことのあるような、洞窟。
そして中央に鎮座する結晶。
それが俺自身。
どう考えても異常だった。
【チュートリアルを開始します】
【ダンジョンマスターはダンジョンを成長させる存在です】
【DPを消費して魔物や罠を生成できます】
【侵入者を排除してください】
【コアが破壊されると死亡します】
「侵入者?」
【説明終了】
雑すぎる。
俺が混乱していることなどお構いなしに、システムは沈黙した。
洞窟には静寂だけが残る。
「待て待て待て……」
整理しよう。
まず俺は死んだんだよな、、
そして謎のダンジョンコアになった。
コアを壊されると死ぬ。
つまり――
「これ、二周目の人生どころか、ゲームのボス側じゃねぇか……」
笑えない。
異世界転生なら勇者とか貴族とかが普通じゃないのか、、
なぜダンジョンマスターなのか。いや、それ以前に。
「侵入者って誰だよ」
そう呟いた瞬間だった。
【警告】
【生命反応を検知】
【侵入者接近】
洞窟入口付近に赤い光点が三つ表示される。
まるでレーダーだった。
その光点はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
嫌な予感がした。
そして数分後に洞窟の入口から人影が現れる。
「おっ、本当にあったな」
「初心者向けダンジョンか」
「コア持ちなら金になるぞ」
三人組だった。
革鎧。剣。槍。背中の荷物。どう見ても冒険者である。
男二人と女一人で、年齢は全員二十代前半くらい。
彼らは警戒もせずに奥へ進んでくる。
「魔物ゼロじゃん」
「楽勝だな」
「コア壊して帰ろうぜ」
その言葉で理解した。血の気が引くとはこの事か。
いや、今の俺に血はないが。
あいつらは...俺を...殺しに来た...
「ふざけんな……」
会ったこともない、恨みもない。それなのにあいつらは当然のように俺を破壊しようとしている。
冒険者たちにとってダンジョンコアは資源なのだろう。だが俺にとっては命そのものだ。
殺されたくない。
せっかく意識が戻ったのに。こんなところで終われるか。
【保有DP:100】
【生成可能】
【ゴブリン:50DP】
【スライム:10DP】
【落とし穴:30DP】
「……生成」
反射的に叫んだ。
次の瞬間。
洞窟の床が淡く光る。
そこから緑色の小柄な人型が現れた。
ゴブリン。
ファンタジーではおなじみの雑魚モンスター。
見た目からして頼りないのだが、今の俺には唯一の戦力だった。
残りDP50。
「頼むぞ……」
ゴブリンはギギッと鳴きながら棍棒を握る。
そして入口へ小走りで向かって行った。
「いたぞ!」
冒険者が笑っていた。
「ゴブリン一匹だけか!」
「経験値のたしにもならないな!」
剣士が飛び出す。
一閃。
俺の配下は一秒で首を飛ばされた。
ゴブリンの頭が床を転がる。
「えっ、、」
DP50が一瞬で消えた。
それだけだった。
「…………」
終わった。
弱すぎる。
あまりにも弱すぎる。
冒険者たちは笑いながら近づいてくる。
十メートル。
九メートル。
八メートル。
俺まで一直線。
「クソが……!」
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
その時だった。
【緊急条件を確認】
【ダンジョンマスターの強い生存意志を検知】
【固有スキルを解放します】
視界に赤い文字が浮かぶ。
【固有スキル】
・捕食進化
【対象を殺害した際、その能力の一部を奪う】
俺は息を呑んだ。理解が追いつかない。
「こういう時は強い魔物とか、魔法とかだろ...どうする...考えろ!! またゴブリンを出すか...」
いや、DPが足りないし、出したところで変わらない。
「クソッ!! 落とし穴ッ!!」
そして同時に冒険者たちの足元が光る。
【落とし穴生成】
残りDP20。
床が崩壊する。
「なっ――!?」
「うわあああっ!?」
先頭の剣士が悲鳴を上げながら闇へ落ちていった。
直後、岩盤に叩きつけられる鈍い音が響く。
骨の砕ける音。
少し後に血の臭い。
【侵入者を撃破】
【DP+80】
【捕食進化が発動します】
俺の意識に、誰かの記憶が流れ込んできた。
名前
恐怖
絶望
人生
すべてが、一瞬で。
「――――ッ!?」
そして、、
それだけでは終わらないことを。




