表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最凶進化ダンジョンマスター ~冒険者を餌に最強を目指す』  作者: もかどら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/80

第28話 名を与える資格

地下湖の対岸で、深層主はなおも裂け目を睨み続けていた。


 その巨体は岩山のように動かず、しかし周囲には張り詰めた緊張が漂っている。第三階層最強の怪物が明確な敵意を見せているにもかかわらず、その矛先は俺たちではなく裂け目の奥へ向いていた。


 女王の話では、深層主は縄張りの外へほとんど出ない存在らしい。

 そんな怪物が自ら地下湖の境界まで移動し、侵入者を待ち構えている。


 それだけで異常事態だった。

 そして、その異常はすぐに形となって現れる。

 裂け目の奥から黒い影が飛び出したのだ。

 巨大な蜥蜴のような魔物だった。

 全身を黒い外殻で覆われ、異様に発達した前脚を持つ見たことのない種族。


 一体だけではない。

 二体。

 三体。

 さらに五体。

 次々と姿を現し、まるで逃げるように裂け目から飛び出してくる。


 その瞬間、深層主が咆哮した。

 地下世界そのものを揺るがすような轟音と共に巨大な腕が振り下ろされる。

 一体が潰れた。

 岩盤ごと砕け散り、魔物の身体が肉片へ変わる。

 だが後続は止まらない。

 まるで何かに追われているかのように、我先にと裂け目から溢れ出してくる。


「第四階層の魔物だ!」


 女王が叫ぶ。

 その声には明らかな焦りが混じっていた。


「こんな数……あり得ない!」


 つまり女王でさえ見たことがない状況ということだ。

 俺も戦闘に加わるよう指示を飛ばす。


「スイ! アラクネ!」


「はい!」


「任せて!」


 二人が同時に飛び出した。

 スイは身体を変形させながら魔物へ絡みつき、アラクネは死角へ回り込んで関節を狙う。

 すでに息は合っていた。

 長年ではない。

 だが数々の戦闘を共に乗り越えた経験がある。

 互いの動きを理解しているからこその連携だった。

 黒い魔物が暴れる。

 しかしアラクネが動きを止め、スイが首を締め上げる。

 鈍い音と共に頸骨が砕けた。


【DPを獲得しました】

【120DP】


 表示を見て思わず目を見開く。

 明らかに高い。

 今まで相手にしてきた魔物とは桁が違う。

 第四階層。

 それだけで価値が跳ね上がるらしい。

 だが喜んでいる余裕はなかった。

 裂け目からは今も魔物が現れ続けている。

 そして、そのさらに奥。

 闇の向こうから流れ込む魔力はむしろ強まっていた。


 まだ何かいる。

 もっと危険な存在が。

 その時だった。

 視界の端でシステムが明滅する。


【新権能解放】

・命名


 俺は即座に詳細を開いた。


【命名】

対象へ真名を与える

存在を固定する

進化限界を拡張する

ユニーク個体へ変異する可能性があります


 さらに下へ視線を向ける。


【必要DP:1000】


 思わず息を呑む。

 1000DP。

 眷属召喚二回分どころではない。

 これまで解放してきた機能と比べても、明らかに別格の重さだった。

 だが、本当に重要なのはその数字ではなかった。


【命名個体はダンジョンと運命を共有します】

【死亡時、再召喚不可】


 その一文を見た瞬間、背筋が冷える。

 眷属は死んでも再召喚できる。

 それが今までの常識だった。

 だが命名された個体だけは違う。


 一度失えば終わり。


 二度と戻らない。


 代わりは存在しない。


 つまりこれは単なる強化ではない。

 一体の魔物を、取り替えの利かない存在へ変える権能だ。


 だからDPが重い。

 だから覚悟も重い。

 さらにスクロールする。

 そこで俺は思わず足を止めた。


【原初の眷属】


【個体名:スイ】


「……何だこれ」


 詳細を開く。


【状態:命名済】


 その瞬間、全てが繋がった。

 さらに表示が続く。


【ダンジョン生成初期においてのみ発生】

【最初の眷属への命名は無償で実行されます】

【対象は原初の眷属へ変化します】


 俺は思わず隣で戦うスイを見る。

 最初に召喚したスライム。

 何気なく付けた名前。

 だがあれは偶然ではなかった。

 システムが認めた、最初で最後の特例だったのだ。


【原初の眷属は一体のみです】


 一体のみ。

 二体目は存在しない。

 どれほどDPを積もうと、この枠だけは増やせない。

 スイはダンジョンにおいて唯一無二の存在だった。

 だから異常な成長を遂げた。

 だから普通のスライムではあり得ない強さを手に入れた。

 だから今も最前線で戦えている。

 全て納得だった。


「あるじー!」


 ちょうどその時、スイが魔物を吹き飛ばしながらこちらへ手を振る。

 本人は何も知らないらしい。

 だが確かに特別な存在だった。

 俺にとっても。

 システムにとっても。

 そして視線は自然ともう一人へ向かう。


 アラクネ。


 スイほど付き合いは長くない。

 だが眷属召喚で現れて以来、探索、偵察、情報収集、交渉と期待以上の成果を積み重ねてきた。

 第三階層との接触も。

 女王との会談も。

 ここまで順調に進んだ理由の一つは間違いなく彼女だ。

 もし次に命名するなら。

 候補は一人しかいなかった。


 その時だった。


 アラクネの身体が吹き飛ぶ。

 大型個体の一撃だった。

 岩壁へ叩き付けられ、蜘蛛脚の一本が大きく歪む。


「アラクネ!」


 スイが叫ぶ。

 だがアラクネは倒れなかった。

 すぐに立ち上がり、痛みを押して再び戦列へ戻ろうとする。

 その姿を見ながら、俺は保有DPを確認した。


【保有DP:287】


 足りない。

 命名に必要な1000DPには、まるで届かない。

 だが逆に言えば、それほどの代償を要求される権能だということだ。


 唯一無二となり。

 死ねば二度と戻らず。

 その運命を背負わせるための1000DP。

 軽々しく使えるはずがない。


 それでも希望はあった。

 第四階層の魔物は高額DPを持っている。

 この戦いを生き残れば届くかもしれない。

 

 そして、その先にある進化へ。


 俺がそう考えた瞬間だった。

 裂け目の奥で何かが動いた。

 今までとは比較にならない魔力が流れ込んでくる。

 深層主が咆哮する。

 女王の顔色が変わる。

 そしてシステムが警告を表示した。


【警告】

【高位個体接近】


 次の瞬間、裂け目の奥で巨大な二つの瞳が開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ