第12話 投資
【保有DP:50】
【ダンジョンランク:D】
【配下モンスター】
・スイ(ヴェノムスライム)×1
短剣使いの死体を挟むようにして、戦士と神官はしばらく動けずにいた。
目の前で仲間が死んだ。しかも敵の姿すらまともに見えないまま。
新人なら逃げ出していてもおかしくない状況だったが、二人はまだ踏みとどまっている。恐怖に押し潰されそうになりながらも周囲を警戒し、武器を構え続けていた。
だが俺から見れば、その時点でもう半分死んでいるようなものだった。
恐怖した人間は弱い。冷静な判断ができなくなる。視野が狭くなる。そして何より、仲間を失った人間は仲間に執着する。
だから利用できる。
俺は死体へ視線を向ける。少し前まで生きていた男。名前もあった。家族もいたかもしれないが今の俺には関係ない。
死体は死体だ。
資源だ。
肉だ。
DPの原料だ。
その考えに違和感を覚えなくなっている。
だが嫌悪感は湧かなかった。
人間だった頃の価値観は、少しずつ削り取られている。代わりに残っているのは、生き残るための合理性だけだった。
俺は短剣使いの死体を資源化する。
【死体を回収します】
【DP+20】
【保有DP:70】
思ったより大きい。なら使うべきだ。温存する理由はない。強くなるために使う。殺すために使う。それがダンジョンマスターの正しい金の使い方だ。
【ゴブリン召喚】
【DP-50】
【保有DP:20】
光が集まり、一体のゴブリンが姿を現す。
これで二体目。
新しいゴブリンは周囲を見回しながら跪く。
知能は低い。戦力としても大したことはない。
だが問題ない。
こいつに期待しているのは強さではなかった。
餌だ。
囮だ。
使い潰すための駒だ。
そう考えた瞬間、俺は少し笑ってしまう。
人間を資源扱いしていたが、今では配下に対しても似たような考え方をしている。
昔の俺が見たら軽蔑しただろう。しかし、勝つためには必要な発想だ。
スイだけは別だが。
あいつだけは最初から共にいた。ただ生き残っただけの弱いスライムだった。それが今ではダンジョン最強戦力になっている。
だからスイは駒ではない。
大切な戦力だ。
それ以外は違う。
消耗品だ。
死んでも構わない。
役目を果たせば十分だった。
そして、その駒を使う時が来た。戦士と神官はまだ第一階層にいる。撤退するか迷っているのだろう。
仲間の死体を回収したい。
だが怖い。
逃げたい。
その葛藤が手に取るように分かる。だから背中を押してやる。
地獄の方へ。
俺は新しいゴブリンへ命令を出した。短剣使いの死体を担ぎ、奥へ逃げろ。
それだけだ。
ゴブリンは命令通り死体を抱え、通路の奥へ走り出す。
「いたぞ!」
戦士が叫ぶ。
「ゴブリンだ!」
予想通りだった。仲間の死体を持ち去る魔物を見れば追い掛ける。人間はそういう生き物だ。
怒り。
責任感。
仲間意識。
そういった感情に振り回される。だから弱い。だから狩りやすい。
ゴブリンは逃げる。
戦士が追う。
神官も続く。
そのまま通路を進み、やがて第二階層への階段が見えてくる。俺はその様子を眺めながら静かに笑った。
来い。
もっと奥へ。
もっと深く。
お前たちは仲間を助けているつもりだろう。だが実際は違う。自分の足で処刑場へ向かっているだけだ。
そして俺は考える。
どう殺すかを。
どう苦しめるかを。
どうすれば最大効率でDPへ変えられるかを。
かつて人間だった男は、もうそんなことしか考えなくなっていた。




