第6話 「実験台になってもらいます」「悪役令嬢め!」
「かわいそうな、ミノタウロスさん。わたくしが助けて──」
「施しならいらねぇぞ!」
魔獣は唾を飛ばした。
「俺は腐っても魔王軍の兵士だ! 情けは受けねぇ!」
(ダメですよ、ヴィクトリアさま)
肩のティーシャがひそひそ。
(魔王と大公さまは犬猿の仲。ボクたちが彼を助ければ、この人は良くて追放、最悪死です。心を鬼にしてください)
──なんて面倒なのだろう!
ヴィクトリアは渋い顔をした。
自分が城関係者なだけに、下手な施しで相手にスパイ容疑をかけてしまう。
彼女は手を顎に当て、ちょっと考えてから、
「だったら、情け無用でいきましょう」
人差し指をピンと伸ばした。
「はい?」
「だーかーら、〝情けは人のナントヤラ〟なんでしょ? だったら〝手厳しく〟施せば万事解決!」
「あの、ヴィクトリアさま、……温かいアイスクリームみたいな言い方でごまかさないでください。彼はほっとくべきです。そのうち食料をたっぷり持った冒険者が来るかも——」
「そこのミノタウロス!」
胸を張り、
金髪縦ロールをサッとなびかせ、
左うちわでミノタウロスに叫んだのは、
我らがお嬢、ヴィクトリア。
「な、なんだ! 殺すなら殺せ!」
「あなたは今から、新しい武器の実験台になってもらいます!」
「はあ?」「へえ?」
猛牛と黒猫が同時に疑問符を浮かべた。
「実験台?」
「ええ、そうよ。それはそれは恐ろしい武器の実験台なの。震えてお待ちなさい!」
♢ ♢ ♢
「はい、あーんして」
ヴィクトリアは、リュックのリンゴをミノタウロスの口に詰め込んでいた。
「これは『毒りんご』よ。食べれば即死。残念だったわね! オッホッホ!」
「くそ、汚いぞ! 食べてなるものか!」
イヤイヤする魔獣の口を力づくで開けさせ、
流れるようにリンゴを放り込む。
のどが大きく鳴り、
ミノタウロスは『毒リンゴ』を飲み込んで、
そして、
「……おいしい!」
敵は目を輝かせた。
「毒じゃないのか? どういうことだ?」
「おかしいわねえ。しっかり毒を仕込んだはずなのに。わたくしの計算がおかしかったのかしら!」
続けてウインク。
ああ、なるほど。
そういうことか、とティーシャが頷いた。
ヴィクトリアは、
「毒は必ずきくわ! 絶対よ。ぜーったいに効果があるわ。だから、あなたはこの毒リンゴを持って、自分の奥さまや子供たちに、しっかりと食べさせなければなりません。あなたに拒否権はありませんからね!」
——なんという女なのか。
自分を偉そうに見下す金髪女は、
火山マップに舞い降りた天使のよう。
すべてを理解した敵は、
目に涙を浮かべ、
何度も頷き、
「くそう! 毒リンゴの実験台にされちまった! 縛られてる手前、拒否することもできねぇ! この悪役令嬢め! 覚えとけ!」
ミノタウロスは両手にリンゴを抱え、森の中へ消えていった。
♢ ♢ ♢
「これでよかったんですか? リュックのリンゴは残りわずかですよ」
ティーシャが訊いた。
「なんとかなるわよ。火山帯の土は栄養も豊富だし、畑を作ればリンゴの収穫なんてすぐよ。
それに、
スローライフの攻略法は、敵を倒すことじゃなくて、〝友達を作ること〟だと思うの」
「先行投資ってヤツですか。ヴィクトリアさまらしいです。嫌いじゃないですよ」
♢ ♢ ♢
——次の日。
「よう、そこの悪役令嬢!」
ヴィクトリアとティーシャが自宅の設計について話し合っていると、
見慣れた風貌の魔獣が来た。
「ミノタウロスさん!」
「テメェら、自宅が欲しいんだって? 勝手なことすんじゃねぇ」
「えっ?」
「ここは俺様の土地だ。今日から俺様のものにしたんだ」
「そんな乱暴な!」
「ごちゃごちゃ喚くな! 俺様の土地に建つものは、何であれ、俺様のもの!」
(お前の家は俺のもの。……って、どこのガキ大将ですか)
ティーシャは苦笑いを浮かべた。
ミノタウロスは、斧をビシッと二人に向け、
「だから、俺様が自分の家を建てるため、テメェらの仕事を肩代わりするのは当然のことだ!
肉体労働は俺様のもの。大木の伐採、運搬、石材の調達。全部俺様の仕事だ。
テメェらは茶でもすすりながら、俺様の仕事ぶりを微笑ましく見ていやがれ!」




