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第18話 ヴィクトリアの夢

 一騎当千で腕を広げた彼女に、領主たちが叫んだ。


「ヴィクトリア! あなたは強いけど、一人で立ち向かうなんて無茶よ!」


 彼女の瞳が潤む。

 笑顔になる。


(あなたたちはそこで見てなさい。若い人には未来があるの。わたくしはもう十分に人生を楽しんだわ。

 あなたたちが無駄に命を散らす必要はない。

 こんな汚れ仕事は、わたくしのような老人にぴったりよ)


 彼女は、

 ——大きな声で言った。


「領主さんたち!」

 あまりの声量。


 領主たちは動きを止めた。

「あなたちに手柄は渡させませんわよ! こーんな戦闘、わたくし一人で十分すぎますもの。そこでじっと見てなさい。オーホッホッ!」

「人格まで別人になってますよ」とティーシャ。





「やっぱり独り占めする気だわ!」

「あんの悪役令嬢!」

「そこまで言うなら、あの女一人に任せましょうよ」

「そうね。死んでもらってせいせいするわ」





「わたくしはね、小さいころから夢があったのよ」

 迫りくる古代兵器を前に、ヴィクトリアは詠唱を始めた。


「夢、ですか」

「小さい頃はよく言ってた。ママのようなシワシワにならない! ずっとピチピチでいるって」

「子供らしいですね」

 ティーシャがほほ笑んだ。


 古代兵器がヴィクトリア目がけ、ビームをためにかかる。


「小学校のときの夢は、王子様と結婚することだった」

「はい、何度も聞きました」

「大人になると子供がほしくなった」

「八人でしたっけ?」


 ——ピューン! ズガガガーーン!


 ビームがヴィクトリアの頬をかすめ、地平線で爆発する。

 彼女は、——跳んだ。


 手にはゲートボールのスティック。それを力いっぱい振り上げて、鉄の胴体にめり込ませる。鈍い音が鳴って、ロボットの片腕が吹っ飛んだ。

 古代兵器はそれでも倒れない。


「ママになればどんな素敵な毎日になるだろうって、しょっちゅう考えてたわね。


 かわいい赤ちゃんに小さい服を選んで、おしめを替えてあげる。

 離乳食を作るのも楽しそうに見えた。

 一緒に手をつないでお買い物したり、

 誕生日におもちゃを買ってあげて、『ママ、ありがとう、大好き!』って言われたかった」


「ええ」


「老後は旦那様と一緒に趣味を楽しみたかった。

 九十歳は生きたかった。

 九十になったら、

 旦那様と子供たちに見守られながら、

 安らかな最期を迎えたかった」


 ヴィクトリアは目から出る透明の液体をぬぐった。


 これまで貯めていた、感情、

 これまで我慢していた感情の大津波が、

 溢れてきて、とまりそうにない。


「だから——だからね」

 彼女は描いていた夢を、八ミリビデオのように思い出しながら、

 子供のごとく嗚咽した。





「だから結局、

 何一つ、夢をかなえられない人生だったなって」





 若くいる。

 素敵な人と結婚。

 子だくさん。

 安らかな最期。


 どの夢も、あと少しだった。あと少しで、手が届きそうだった。

 だけど、

 手のひらから砂が零れ落ちていくように、

 すべての夢は目の前で立ち消える。


 まるで、

 踊り狂う、影絵の亡霊のようだと彼女は感じた。


 ——ガッ!

 ロボットの腕がヴィクトリアを荒々しく掴んだ。

「ヴィクトリアさま!」

 ティーシャが叫ぶ。


 ——キュイーーン!

 古代兵器のビームがたまる。


「ありがとう、ティーシャ。もういいから、あなたは逃げなさい」





 そのとき、


「一つくらい、俺が夢を叶えさせてやる!」


 ——うおぉぉおおお!


 大きな斧をブン回しながら、一人の男が古代兵器に向かってきた。

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