第17話 ヴィクトリアは古代兵器に向かっていく
「ヴィクトリアじゃないの!」
走っていると、悪徳領主ゼミロアとアズキナに出会った。
二人は古代兵器討伐のために駆り出されたらしい。
「ご機嫌うるわしゅう」
「うるわしくないわよ! この状況わかってるの?」
ヴィクトリアがドレスの両端をつまんでお辞儀すると、二人の領主は目を吊り上げて怒った。
「悪役令嬢の三羽烏ですね」
肩でティーシャが思ったことをつぶやく。
「あの古代兵器、放っておくと、魔王領全部焼き払われて終わる! ヴィクトリア、あなたのせいよね! あんたなんか大っ嫌い!」
アズキナが釘を刺した。
若い二人は、魔王との未来を思い描いているのだろう。
その未来が、今、
この金髪縦ロールのおばあちゃまの引き起こした災害によって奪われそうになっているのだ。
(そこまで言わなくても)
とティーシャ。
ヴィクトリアは黙った。
彼女は静かに息を吸い、
政治にかかわってきた何十年もの年月と、
貴族令嬢たるプライド、
誰にも負けないカンスト魔力のすべてを拳にこめて——
「——ごめんなさい」
彼女は謝った。深々と頭を下げて。
「えっ……? ヴィクトリア、そこはあなたらしく言い返しても……」
「わたくしはもともと悪役令嬢じゃないの。お城で仕える、普通の女。八十五歳の老婆。大公に振り捨てられた残り物。あなたの言うように、ただのNPCよ」
彼女は——悲しそうに笑った。
(若い人の指摘はすごいわね。そうよ、わたくしのせい。伝説のモンスターをわたくしが狩ったから、古代兵器を蘇らせてしまったの)
——バチーン!
男が——ヴィクトリアの頬を叩いた。
「魔王様!」
そこには鎧姿の魔王がいた。
「たわけ! 捨てられた残り物が、我を怯えさせることなどあるか! こんなときに自意識を失ってもらったら戦力にならん! 自信を持て!」
その言葉には温かさがあった。
向こうから城の兵士たちもやってきた。
馬に乗った大公、屈強な兵士たち、特使の三人。
放っておくと、自陣にまで被害が拡大すると悟ってのことであろう。
「た、大公……さま」
ヴィクトリアは震えた。
「ヴィクトリア! 会えてうれしいぞ!」
「えっ?」
大公から意外な言葉が発せられた。
兵士の一人が彼女に近づき、
「リリーさまは城が攻撃されると踏み、真っ先に王国から逃げてしまわれたのです」
「ああ、それで……」
計略的なあの女らしい。
「だから、また一緒に暮らそう!」
——なにを呑気な。
ヴィクトリアはこんな状況になっても、自分のことしか関心のない大公に、心底呆れた。
「血も好きなだけ分け与えてあげるし。そうすれば、その皺だってなくなるよ。いいだろう? なっ? なっ?」
大公がすり寄ってきた。
今月で、城を出てちょうど半年になる。
彼女の皺は増えるばかりだ。
「——だけど」
女性と再会して、最初の観察眼が『皺』ときた。
もう無理だ。
本当に無理だ。
「ヴィ、ヴィクトリアさま……?」
ティーシャが、小刻みに震えるヴィクトリアを見て、そのあまりの怒りのオーラに飛びのく。
彼女は、水を得た魚のように、
悪役令嬢っぷりを込めに込め、
最高に〝慈悲深い〟表情で言ってのけた。
「あーら、どなたか存じませんわ。どこの誰でしたかしら?」
「ヴィ、ヴィクトリア! 僕だよ! 隣の王国の大公だよ!」
「大公さま? はて、そんな方は存じませんけれど。
ああ、遠い過去のことで、すっかり忘れておりましたわ!
隣の王国の大公さまといえば、懐に税金をたんまりと着服し、兵士さんたちに薄給を強いていた、あの大公さまですよね。
これはこれは、おめもじ叶って光栄でございますわ」
それだけで十分だった。
国が滅びかけている最中、
そんな悪行を働いていた過去があったとは。
兵士たち全員の目が、赤く吊り上がっていく。
ヴィクトリアは続けた。
「確か金額は、十兆ゴールドくらいじゃありませんでした? 兵士さんたちに分け与えると、一人、五千万ゴールドくらいにはなるんじゃありませんか?」
「ヴィ、ヴィクトリア、なぜそれを知って……」
「帳簿の管理もわたくしの仕事でしたからね」
「大公を捕らえろー!」
兵士たちの中から、声が上がる。
「ぎゃぁああ! 助けてくれぇええ!」
大公は身ぐるみをはがれて、野原を走っていった。
厄介者がいなくなり、ヴィクトリアは安堵。
「さあ、本物の敵と戦うわよ」
彼女は古代兵器の前で腕を広げた。
ティーシャが首をかしげる。
「……ヴィクトリアさま?」




