第14話 迫りくる隕石 → おばあちゃま「チョットはやるじゃない」
「フレーフレー! ヴィクトリア!」
ミノさんがベンチで応援している。
ヴィクトリアは手を振って笑顔。
ティーシャとゼミロアは、仲良く渋い顔。
「ヴィクトリアですって?」
大会主催者であり、氷マップの領主、アズキナがここで動いた。
(魔王様が一目置くって、あのヴィクトリア?)
「——あんの、泥棒猫!」
アズキナは盛大に勘違いし、ハンカチを噛んだ。
どうやら魔王城での一件が噂になっているらしい。
——と、
大勢の手下とともに、異彩を放つ男が会場に入ってきた。
「魔王様よ!」「魔王様だわ!」「うわっ、俺、本物見るの初めてかも」
アズキナが主催する大会とあり、
しかも、決勝戦の『氷マップVS火山マップ』とあり、
魔王は会場へと足を運んだのだ。
アズキナは——ニヤついた。
(ここでヴィクトリアとの格の違いを見せつければ、魔王様があのNPCに靡くこともなくなる……!)
「オーッホッホッ!」
景気の良い高笑いとともに、
アズキナはドレスを振り乱しながらマウンドへ立った。
手にはグローブとボール。
「ヴィクトリア。あなたは特別に、この私が相手をしてあげるわ!」
魔法陣をユラリと背に映し、
パワー全開のアズキナが彼女へ指を向ける。
(なんてことだ!)
ミノさんが焦り始めた。
「彼女はスポーツが得意なんですか?」とティーシャ。
「違う。あの領主は投射魔法の使い手なんだ」
氷塊と投射魔法は相性が良い。
ゼミロアが関心なさそうに、
「先月の領主会議のとき、出された冷製スープがまずくて、シェフもろとも会場を氷漬けにしたの。短気は治ってないのね」
巨大な棚氷を投げるのなら、野球ボールなんて光の速さで飛ばしてくるだろう。
ティーシャは額に汗を垂らす。
「ヴィクトリアさま! 気を付けてください!」
「ストラーイク!」
おばあちゃまはゲートボールのスティックをブン回したけれど、
案の定、
アズキナの剛速球に手も足も出ない様子。
「オーホッホッホッ! ヴィクトリア、あなた全然大したことないじゃないの!」
(——仕方ないわね)
ヴィクトリアはキャップをかぶり直し、
スティックへ魔力を込めた。
黒い炎がボワッと揺れて、おばあちゃまの目が赤く光る。
カキーン!
二球目はファウル。
球速一六〇キロ。
だんだんとタイミングが合ってきた。
(——な、なんなの、あの女! 私の球についてこれるっていうの?)
「これも交渉術ですか!」
ティーシャが叫ぶ。
「どういうこと?」とゼミロア。
「ヴィクトリアさまは長年の交渉で、相手の〝息を読む〟能力に目覚められまして」
「息を読む? 空気を感じ取るみたいなこと?」
「相手の呼吸法なんかを分析して、次の一手を推し量る能力です」
——んなチートな!
ゼミロアは半ば呆れるようにヴィクトリアを見たが、
そういえば、自分との戦闘でもやけに強かったと思い直し、
なるほど、そういう能力だったのかと、
〝あの女ならありえる〟と自分を納得させて、しぶしぶ首を縦に振った。
カッキーン!
三球目。
ファール。
観客席に入る長打。
チッと舌打ちして、ヴィクトリアは鋭い視線でアズキナを睨む。
「や、やばくない?」
アズキナは汗が垂れてきた。
球速は一六五キロ。鋭いカーブにもタイミングが合っている。
(このままじゃホームラン。それだけは避けたい。仕方ないわ。フルパワーの魔法でいきましょう)
アズキナの魔法陣が輝きはじめた。
「メテオフォール!」
詠唱とともに、空が黒くなる。
ゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴ
「うえぇええ………?」とティーシャ。
「がっ……ごっ……?」とミノさん。
「始まったわ」とゼミロア。
——なんとボールは、
雲の高さまで浮き上がり、
氷漬けの巨大隕石に変身し、
ヴィクトリアめがけて落下してきたではないか!
「雹魔法よ。大会の主催者は私。ボールを隕石にしてダメなんて、言ってないわよね?」
屁理屈をこねまくったアズキナが薄ら笑い。
「みなさん! 避難してください!」
実況が声量を上げる。
隕石が落ちれば、会場もろとも潰されてしまうだろう。
「いやー!」「死にたくない!」「アズキナ様、全力出しすぎ!」
観戦者たちは慌てふためき、我先にと出口へ向かう。
荒々しい風が吹き抜ける。
二人の悪役令嬢の髪がなびく。
薄暗い会場を照らす、青白い隕石の閃光。
それは凄まじい轟音を伴って、元交渉役のご傘寿へと落下している。
「——へー、若い子もチョットはやるじゃないの」
ヴィクトリアは、
——余裕たっぷりに口角を上げた。




