第13話 「おばあちゃま、それはゲートボールです」「えっ」
「レディース・アンド・ジェントルメーン!
本日は、まつ毛も凍る野球大会によくぞ参加された!
スポーツマンシップを発揮し、正々堂々と勝負をしようじゃないかぁ!」
実況がマイクを握りながら言った。
マップ対抗、草野球大会。
毎年この季節に魔王領で開催されるイベントだ。
主催者は、氷マップの領主、アズキナ。
魔王が最も気に掛ける女だ。
「オーホッホッホ! 皆様ぁ、血で血を洗う野球大会にようこそ。
今日もみなさんの戦いを楽しませてもらいますわ」
アズキナは扇子をパタパタやりながら、
執事たちにホットレモンティーを持ってこさせ、
防寒具一式を着こみつつ、
会場を見下していた。
「どーして魔王軍の領主は、ああいう、いけ好かない感じが多いんですかね」
白い息を両手に吹きかけつつティーシャが言った。
「魔王領に聖人を求めてどうするのよ」
「それもそうですね」
「要は勝てばいいの。そうすれば小麦を奪い返せる。簡単だわ」
「なんで交渉しないんですか?」
ティーシャは首を傾げた。
「あの人は頭がいいから、普通に交渉しても長引くと思うの」
「へー」
「城のシークレットも、あの人に漏れてるらしいし。だから下手に交渉するより野球で決着をつける」
「よくわかりませんが、おばあちゃまは野球をしたことが?」
彼女はきょとんとして、
「あるわけないでしょ」
「やっぱり」
「知らないけど、クリケットは子供の頃にやったわ」
「それ、何のバットか知ってます?」
ティーシャがヴィクトリアの持つ〝バット〟をツンツンしながら訊いた。
ヴィクトリアが持っていたのは、
何を見まごう、
ご傘寿御用達の、
ゲートボールのスティック(※バットのこと)だった。
「これ、野球のバットでしょ。違うの?」
「はぁ。説明するのも面倒です。どうせ、新しい作業台でクラフトできそうなものをクラフトして、テキトーに持ってきたんでしょう」
「よくわかったわね」
「ぎゃっ! なんでアンタがいるの!」
チーム分けが終わり、
ベンチで座っていると、
目鼻立ちのぱっちりした女が声を荒げた。
「ゼミロアさん!」
そこには、食料の件で一悶着した相手、ゼミロアがいた。
今日のゼミロアは、やけに可愛いウェアを着ていた。
魔王に気に入られようとしてか、
リボンやフリルのついた〝量産型女子〟になっている。
「な、なによ! じろじろ見ないでよ! 別にアンタが魔王様に気に入られてるから、あたしが服装を合わせたなんて思わないでよね!」
(——ああ、そういうことか)
ティーシャが頷く。
「ヴィクトリアさま、若い子に変な誤解させちゃだめですよ」
「はーい」
♢ ♢ ♢
そんな言い合いをしていると、
遠くから黄色い声が聞こえてきた。
「あの人、カッコよくない?」「イケメン!」「高身長!」
女子たちの猛烈な視線にさらされていたのは、
ミノさんだった。
ミノさんのウェア姿は、控え目に言っても完璧だった。
素振りする姿が様になっている。
汗がキラキラと光って、バラの花が咲き乱れるよう。
「待たせたな」
ミノさんは颯爽とベンチにいるヴィクトリアのもとへ歩み寄った。
「なんだって? バットの使い方がわからない? 仕方ないな。俺は何度も大会に出てるから教えてやるよ」
周囲がキャイキャイ言う中、
ヴィクトリアは、
ミノさんと一緒にゲートボールのスティックを振るのであった。
ベンチでゼミロアが、
「あの女、男がいるんじゃないの! 二股ってわけ? ズルよズル!」
ジト目で歯噛みする。
ティーシャが「全然違いますよ」と言いかけて、やめて、
「やきもちは、若い人だけの特権です」
誰につぶやくわけでもなく言ってのけた。
♢ ♢ ♢
火山チームは順調に勝ち進んだ。
湖マップを撃破し、
荒野チームに圧勝し、
勝ちに勝つ。
ミノさんは野球がとても上手だった。
ゼミロアは「あーん、力が入らない」みたいに、弱系女子を演出して、わざとボールを外したりして、
ヴィクトリアの血管がピキピキと鳴った。
「姑みたいな顔になってますよ。笑顔です、笑顔」
ティーシャが、ドス黒いオーラを出すヴィクトリアを注意する。
「——次のバッターは、ヴィクトリアぁああ!」
実況が選手を紹介した。
「いよいよね!」
ヴィクトリアが立ち上がった。




