表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/19

第11話 魔王様は頭が上がりません

「まおーさまぁー!」

 ゼミロアは魔王城のポータルから出てくると、

 滝のように涙を流し、

 魔王のもとへすり寄った。


「マイハニー。お前をいじめるヤツがいるだと?」


「そーなんですよ! 

 ちょっと目の吊り上がってて、金髪縦ロールのお嬢系NPC!」


「そりゃ不運だったな」


 ゼミロアは男の腕の中に収まり、

 頭をナデナデされながら、安堵の表情を浮かべた。





 ——魔王。


 何百、何千、

 いや、何万もの命を血祭りにあげ、

 慈悲のかけらもない男。


 無数の冒険者を手にかけ、

 どのパーティーにも討伐されたことのない最強の存在。


 彼は長い牙をむき出しにし、

 鍛え抜かれた腕で、ゼミロアを抱きしめる。


「お前を困らせるヤツは、誰であれ、最強である我が許さない。安心しろ」


(それにしても——)

 彼の内心がざわついた。


(ゼミロアはレベル七十の手練れの魔女。

 そんな相手を軽々といなすとは、よほどの剣士なのか……)


 よかろう。


「久々に本気を出せそうだ」

 魔王は喉の奥でクツクツと笑った。


「さあ、来るなら来い!

 我の圧倒的魔力を前にひれ伏し、恐れおののくがよい!

 涙目になっているところを鞭打って、モンスターに襲わせて、骨までしゃぶりつくしてくれるわ!」





「だーれが、骨までしゃぶるんですって?」


「——どぅあはぁっ!」


 魔王は思わず変な声が出た。


 女の前でカッコつけていたところ、

 振り返ると、どこかで見た若作りの政敵がいて、

 彼は顔をゆがませながら、玉座からずり落ちた。


 金髪縦ロール。

 肩に黒猫。

 ふりふりのドレスに、ヒール。

 スコップ。


「コイツよ、魔王様! コイツがあたしをいじめるの!」

 ゼミロアが魔王の腕をしっかりと握りながら、

 涙目でヴィクトリアを指さす。


「どうも、魔王さん。先月の交渉以来でございますわね」

 彼女はドレスの端をつまみ、礼儀正しくバウダウン。


「ヴィ、ヴィクトリア!」

「魔王様、コイツ知ってるの?」


「知ってるも何も——」

 平和交渉でいつも『川向うの城』が送りこんでくる、最強の政敵。

 彼は言葉を飲み込んだ。


 魔王は明らかに動揺していて、

 右を向いたり左を向いたりして、目の焦点が合っていない。


「魔王様、こんな相手、握りつぶしちゃってよ!」

 ゼミロアがたける。


 魔力量では、どう考えても魔王様のほうが上だ。

 技術でも勝ってるハズ。


 なのに、

 ——ああ、なぜだ。


『交渉役』なんていう、不明な肩書のフリフリ女に、

 魔王領最強の存在が震えている、というのか。





 魔王は十秒くらい固まっていたが、

 ゼミロアの手前、余裕っぽい表情を見せた。


「誰だ貴様、お前など知らぬ」

 明らかに小汗が額を流れ落ちている。


「あーらあら。先月の和平交渉をお忘れになったの?」

 ヴィクトリアはギンとした瞳で魔王に寄った。


「あなたの〝人間関係〟をオープンリーにしないかわり、

 あなたは城へ攻め込まない。そうだったわね?」


 ヴィクトリアの意味深な発言。


「今ここで、すべてを暴露してもよろしいのですわよ?」

 ヴィクトリアの声が低くなる。


 魔王には愛人が二十人いる。

 ゼミロアは、そのうちの一人にすぎず、

 なんなら、一番どうでもよい相手。

 週一で温泉アンド卓球デートする、氷マップの領主こそが本命。


 元交渉役ヴィクトリアは、トップシークレットであるこの情報を、当然のこととして知っている。


 今ここで、

 二十人すべての名前を口に出されれば、

 領主の離反がはじまり、

 魔王軍の統率は乱れ、

 王国が分裂するかもしれない。


「フッ」

 魔王は余裕をかましたポーズで立ち上がり、

 魔王独特の強烈な視線でもって、

 ヴィクトリアをにらみつけてから——





「いやぁー! 誰かと思えば、幼馴染のヴィクトリアさんじゃないですかぁー!」


 魔王は、

 やっぱりヴィクトリアに頭が上がらなかった。


 とりあえず、ヴィクトリアを〝幼馴染〟という設定にして難を逃れようとした。


「幼馴染?」

「そうなんだゼミロア。この人は高校時代で同じクラスだった、ヴィクトリアさん。ちょっと不愛想なんだけど、悪い人じゃないからね」


 アセアセと、魔王は説明を試みる。


「じゃあ、人間関係っていうのは」

「学生時代はワルだったからさ、黒歴史っての? 女の子のスカートめくってたとか、更衣室を覗いてたとか、そういうのを全部知ってるってこと!」


 我ながら雑な言い訳だと、魔王は思った。


 ゼミロアは訝しそうにヴィクトリアを見て、

 魔王を見て、

 もう一度、なめ回すようにヴィクトリアを見た。


 三人と一匹。

 静かな時間。


 誰も話さず、

 誰も動かない。


 やがて、

「紅茶でもいただけますか?」

 肩のティーシャがつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ