山田社長の失踪
部屋についてみると扉は全開に開いていて、廊下から部屋の中が丸見えになっている。
部屋に入った浦河は、まず廊下から見えないように扉をしっかりと閉め、中を見渡した。
部屋には布団が3組ひいてあり、今まで3人が寝ていたような形になっている。
ひとつの布団の上で妻の恵子がへたり込んでおり、娘の理穂は浦河の顔をみるなり飛びついてきた。
「ち・父が・・」
浦河は、理穂の両肩を押さえ、ゆっくり言い聞かせるようにしゃべった。
「理穂さん、落ち着いて。・・はい、深呼吸して・・まず、状況を教えてください」
浦河の言葉に、少しは冷静さを取り戻したのか、取り乱した雰囲気は消えうせた。
「はい、計画通り、父は例の薬を飲んで寝ました。父の刺激にならないように電気を消して、とりあえず私たちもふとんに入りました。30分後に起きて父の様子をみることにしてました。10分ぐらい経つと、父が起き上がり「トイレ」と言って洗面所に行きました。トイレの流す音が聞こえ、戻ってくるかと思って待っていたんですが、なかなか戻ってきません。心配になって見に行ってみると、トイレと部屋の扉の両方が開いていて父の姿がありませんでした。それで、廊下に出てその辺を探したのですが見つからなくて・・浦河さんに電話したんです」
「お父さんがいなくなって何分経ちますか」
「10分だと思います」
「すると、薬を飲んでから20分位ですね」
浦河は、あごに手をあててちょっと考え、はっと気がついたように理穂を見返した。
「あの薬は、まれに副作用が出ます。仮死状態になる途中、意識が朦朧としてきて夢遊病のようにふらふらと歩き回る場合があるんです。多分お父さんは、そんな状態になり無意識のまま部屋を出てしまったのではないでしょうか。そうすると時間的にもそんなに遠くへは行ってないと思います。まだ旅館の中にいると思いますので、手分けして探しましょう。ただし、他のお客様には気付かれないよう静かに行動してください」
三人は、それぞれ場所を決めて探し始めた。
さほど大きくない旅館なので探す場所は限られている。10分もしないうちにそれぞれの持ち場を探しつくしてしまったが、見つけることができなかった。
三人は、フロントの前に集まり首をひねった。
「こうなると、外に出たとしか考えられません。しかし・・」
浦河はそう言うと旅館の玄関から外に目をやった。田舎のため街灯が少なく漆黒の闇が広がっている。
「とにかく、探しに行きましょう。薬を飲んでから30分は経過している。もうどこかで倒れているかもしれません」
浦河はあせっていた。
今まで35回実行してきたが、こんなケースは初めてだった。
確かに副作用の話は聞いていたが、今まで一度も起きたことはない。実際に起こるとは思ってもいなかった。
とにかく3時間以内に探し出し、解毒剤を打たなければ山田社長は本当にあの世行きである。
三人が、懐中電灯を持って外に出ようとしたとき、フロントの電話が鳴った。




