計画のスタート
浦河は、旅館のフロント後ろの事務室でめがねをかけて帳簿をつけていた。
浦河のはっぴ姿は実に板についていて昔から旅館の従業員のようだ。
事務室の柱時計が「ボーン・ボーン・・」と夜11時の鐘を撞いた。和風旅館に似合うひげぜんまいの鐘の音が心地よい。
浦河は確かめるように帳簿から目を離し、柱時計の文字盤に視線を移した。
時計の鐘が聞こえたかのように、事務室におかみが入ってきて、浦河に尋ねた。
「浦河さん、担当の山田様はどうですか。くつろいでいらっしゃいますか」
浦河は事務処理がひと段落ついたのか、帳簿を閉め、めがねをはずし鼻の付け根を指でほぐしながら答えた。
「ええ、お風呂にも入られましたし、先ほどお食事もすませたようです」
「そうですか。佐藤先生はいらっしゃるんですよね」
「はい、今日は夜勤していらっしゃるそうです」
「じゃあ、あとはよろしくお願いしますね」
「わかりました」
おかみはそう言うと、事務室を出て行った。
浦河は、時計の文字盤に目を戻し、つぶやいた。
「さて、11時か、もうそろそろかな」
浦河はこの後の段取りを思い返していた。
食事をすませた山田社長達は、もうそろそろ寝るはずである。
そこからが計画のはじまりである。
まず、山田社長は例の仮死状態になる薬を寝る直前に飲む。約30分後に家族が山田社長の仮死状態を確認し、フロントに電話をし浦河がかけつける。
浦河はびっくり(演技)して村唯一の診療所の医者(佐藤医師)に連絡し診察してもらう。死亡を確認。その後警察も来て検死、証拠写真撮影・事情聴取を行う。山田社長の仮遺体を診療所に運搬し死体安置所に置く。そこで解毒剤を注射。山田社長復活。・・
そこまで反復した時、電話のベルが鳴った。山田社長の部屋からの内線である。
予定よりちょっと早いかなと思いながら受話器をとった。
「はい、フロントです」
「う・浦河さんですね」
娘の理穂の声だった。
「ち・父が、、い・いないんです!」
「え・・山田さんがいなくなったんですか」
「はい、・・どうしたらいいか・・」
「落ち着いてください、すぐ部屋に行きますからそのまま待っていてください」
浦河は受話器を置くと、山田社長一行の部屋に急いだ。
(いなくなった?。どういうことだ。土壇場で逃げたのか?)




