若返温泉旅館
3人は旅館の部屋でひと休みしていた。
街には旅館は3軒しかないので間違えようがなく、浦河がすでに予約していたことから、なんのトラブルもなくチェックインできた。
3軒の旅館のうち、一番大きな建物で、純和風のつくりになっている。一番大きいとはいえ、部屋数は20位でこじんまりとした昭和の旅館という感じの建物である。
三人がくつろいでいると、部屋の扉をノックする音と「失礼します」という声が聞こえ、和服の女性とはっぴ姿の男性が部屋に入ってきた。
「ようこそいらっしゃいました。私、当『若返温泉旅館』のおかみでございます」
と言いながら、おかみと連れの男性は畳に手をついて深々とお辞儀をした。
「こちらは、この度お客様のお世話係りをさせていただきます、当館の担当者でございます」
どうやらこの旅館では、宿泊客にひとりづつ担当者を決めて接客するシステムをとっているらしい。
おかみは、まだお辞儀をしている男に面を上げるよう促した。
「よろしくお願いいたします」
そう言いながら顔を上げた男を見た三人はギョッとして固まってしまった。
「私、この度お客様を担当させていただきます 浦河 と申します」
あの浦河が、ニッと笑って三人に挨拶をしていた。
三人の表情の変化に気付かないのか、おかみは顔色ひとつ変えず
「では、なにかございましたら、この浦河へお申し付けくださいませ。ごゆっくりどうぞ」
というとそそくさと部屋を後にした。
残された三人+一人の間には、つかの間、無言の空気が広がった。
旅館のはっぴを着た浦河は別人に見える。
山田社長は、おかみが部屋を出て扉が閉まるのを待って三人を代表して聞いた。
「あ、あの浦河さんですよね」
「はい、そうです。確か、皆さんが旅館に到着したらお部屋にお邪魔しますと言っておいたはずですが」
「た、確かにそう言ってましたが、まさか旅館の従業員として来るなんて・・」
浦河は面白そうに目を細めながら
「実は、皆さんそう言って驚かれるんですよ。まあ、皆さんのびっくり顔は私のささやかな楽しみなんですけどね」
「どうやって旅館の従業員になったんですか」
「それは、企業秘密です。でも、この格好であれば皆さんと親しくお話していても不自然じゃありませんから一番都合がいいんですよね」
浦河は、はっぴの袖口を掴んで奴凧のようにはっぴを広げて見せた。
三人は、浦河の突然の登場に驚いたものの、計画の発案者である人物が身近にいてくれる安堵感に包まれていた。
「計画を実行するのは今夜、夕食と風呂を終えた後の寝る前ですから、それまでは三人でお楽しみください。ここの温泉は気持ちいいですよ。霊峰『飛峰岳』から直接湧き出している源泉かけながしの湯ですし、ミネラル分がお肌にもとてもいいんで旅館の名前のように若返りますよ。
さて、あまり長居して怪しまれてもなんですから私はいったん引き上げますが、御用の場合は、内線「0」のフロントを呼んで私の名前を言っていただければいつでも伺いますのでお呼びください」
浦河はそう言うと、部屋を出て行った。
部屋に残った三人は、互いに顔を見合わせ、一呼吸おいてから山田社長が口を開いた。
「さて、浦河さんのいうとおり若返り温泉に入りにいこうじゃないか」




