診療所にて
内線ではなく、外からの電話だった。フロントにはたまたま誰もいなかったので、浦河がでるしかなかった。
「もしもし・・」
「あーー、駐在の岩田ですが、お宅の浴衣を着た男の人が道っぱたで倒れとったんで、診療所に連れていったぞい」
「え、あ・ありがとうございます。その方の具合はどうですか」
「あ~、なんかあぶなそうだったなぁ、外傷はなかったようだが、とりあえず、今先生が診とるよ」
「わかりました。すぐ診療所へ伺います」
診療所は旅館から100メートルほど離れたところに建っている。小さな町の割には、意外と大きな白い建物であった。
浦河達三人は、取るものもとりあえず診療所へ急いだ。
診療所では、先ほど電話をくれた駐在の岩田が待っていた。
「どうも、どうも、浦川さん。また死人が出たようですなあ、もっとも今回は自殺ではなく病死のようですがのぉ」
「駐在さん、ご迷惑をおかけしました。こちらご家族の方々です」
「ああ、このたびはどうも。奥さんですかいのぉ。ご主人は、そちらの処置室におられるんでどうぞ」
妻の恵子はハンカチで口元を押さえ、泣きながら(泣く演技をしながら)そそくさと処置室に向かった。娘の理穂は、手を口に当て本当に泣きながら母の後を追った。
(娘のほうが演技がうまいな)
浦河はそう思ったが、口に出して言うわけにもいかず、駐在に会釈をして二人の後に続いて処置室に入った。
処置室のベッドの上には、山田社長が上半身裸になって寝ていた。ベッドのそばには、妻と娘が寄り添って肩を震わせている。
反対側に立っている白衣の男性が話しかけた。この村唯一の佐藤医師である。
「この度はご愁傷様です。ここに運びこまれた時にはすでに心停止していまして、手の施しようがありませんでした。なにか持病でもお持ちだったんでしょうか」
「はい、心臓を患っていまして、、注意はしてたんですが」
妻はそう言うと、ハンカチを目に当てより一層肩を震わせ、娘は「お父さん!」と叫んで、父の偽遺体にすがりついた。
浦河の後ろに立っている駐在の岩田は、その光景を見て目頭を押さえ、「くっくっ」と言いながら部屋を出て行った。
「そうでしたか。いたしかたありません。申し訳ございませんが、ご遺体を霊安室に移させていただきたいのですがよろしいでしょうか」
「はぃ」
蚊の鳴くような声で恵子はうなずいた。




