遺体安置所
霊安室は診療所の地下にあった。小さな村の設備にしては、似つかわしくないくらい、広い部屋だった。
山田社長の偽遺体を前に、三人は話し合っていた。
「ずいぶん広い安置所ですね」と理穂が言った。
「前にもお話しましたが、この村は自殺で有名なものですから、村の大きさの割りに遺体安置所が広いんですよ」
浦河は、ひんやりした広い部屋を見わたして言った。
「しかし、びっくりしましたね。まさか土壇場で山田社長がいなくなるなんて。あの薬の副作用は聞いてはいたものの実際におきたのは初めてですから。もっともそのおかげで、途中の旅館での工程がはぶけて計画が早く進みました。よかったですよ。・・それにしても理穂さん本当に涙を流すなんてたいしたものですね」
「実は、私、大学で演劇サークルに入ってるんです」
「なるほど、それで上手なわけだ。・・さて、死亡診断書もできたし、検死作業も終わりましたので、火葬場にいきましょうか」
「えっ」恵子と理穂は顔を見合わせた。
「冗談ですよ。さてお父さんに生き返ってもらいましょうか」
浦河は、ポケットから銀色のケースを取り出し蓋を開けた。中には、注射器と茶色い小瓶が入っていた。
憎まれ口をたたいた浦河だったが、実は計画の中で一番不安と緊張につつまれる時間帯だった。
(生き返らなかったらどうしよう)
そんな気持ちをおくびにも出さず、浦河は小瓶に注射器を刺して薬を吸い上げ、手馴れた手つきで山田社長の腕に薬を注入した。
10分後、山田社長は遺体安置所で無事息を吹き返した。
「う・う・・ふおぉぉぉ・・・、ど・どこだ、ここは・・・」
「あなた、大丈夫ですか?」「お父さん大丈夫?」
妻と娘は、今度は演技ではなく心の底から本当に心配している。
やはり家族とは良いものだ。
「ああ、お前たち、俺は生き返ったのか。計画は順調にいっているのか」
浦河は、山田社長の様子を見ながら言った。
「無事生還されたようですね。気分はいかがですか。しばらくの間、頭痛がしたり節々が痛かったりしますが、1・2日で治りますので気にしないでください」
浦河はそう言うと、部屋の奥に歩いていき、突き当りの壁面にある小さな扉を開け、一台のキャスターベッドを引っ張り出した。
そのベッドには、死体が一体乗っていた。
「山田さん、今からあなたは『柴田五郎』になります。そして、この方が『山田正一』つまり山田さんあなたになりかわって、これから火葬場で焼かれ骨になります。合掌願います」
4人は、新たに運ばれてきた遺体に対し、しばらくの間手を合わせた。




