新幹線にて
数日後、山田社長一家は新幹線の旅程にあった。
山田社長は、窓際の席で窓枠を枕にして寝息をたてている。
すでに500mm缶ビールを3本空けていた。会社が傾いてからほとんど酒を飲んでいなかったのでアルコールの廻りが速かった。
「もう、お父さんったら。いびきかいちゃって」
と娘の理穂が言った。
「まあ、いいんじゃない。旅館に着くまで何もすることがないんだから。それに、最近は全然お酒を飲んでなかったんだから好きにさせてあげましょう」
と妻がやさしい目付きで夫を見つめてフォローした。
「それに、旅館に着いてからが大変なんだから・・」
妻は、誰にも聞こえないように小さな呟きで自分自身に言い聞かせた。
計画を絶対他人に気取られてはいけない、という浦河の警告を頭の中で繰り返していた。
娘の理穂は、手提げ鞄からパンフレットを取り出した。
浦河から渡された、今3人が向かっている温泉旅館のパンフレットだった。数日前、浦河を含めた4人で穴が開くほどさんざん見つめたカラー印刷のパンフレットだ。
「理穂!」
妻は、一瞬ギクリとした表情で娘に話し掛けようとしたが、そのまま言葉を飲み込んだ。
その反応に気がついたのか、理穂は誰にも聞こえないような小さい声で言った。
「別にパンフレットぐらいいいでしょう?普通、旅行に行けば泊まる旅館のパンフレットくらい見るわよ」
そう言いながら、自分達の座っている3人掛けシートと同じ並びの二人がけのシートのほうをチラリと見た。
「ほら、一番見えるそこの席の人だって寝ているし、誰も不自然に思わないわ」
確かに、二人がけシートを一人で占有して座っている太ったおばさんは、一人旅なのか周りに仲間らしき人は見当たらず、さっきから口を半開きにして寝ていた。
「えーっと、新幹線で約1時間、そのあと鈍行で30分、さらにバスで2時間だったよね」
「そうね・・」
大事を控えた心持ちなのか、妻は口数が少なかった。




