山田家での説明
翌朝、約束どおり浦河は山田社長を訪ねてきた。
山田社長の目は、昨夜家族と徹夜で話し合ったため赤く充血していたが、眠気は一切なかった。
「山田社長、お決めになられましたか?」
「うむ、君の提案を受けようと思う。ついては、詳細を打ち合わせたいのだが、家族も入れて話したいので、自宅に来てはくれんかね」
「わかりました。受けていただけるのであれば、私からご家族も一緒にと言おうと思っていました。早速伺いましょう」
先に浦河が会社を離れ、しばらく経ってから山田社長が会社から出てきた。
二人が親密な関係だと社員に気付かれないよう配慮した浦河からの指示だった。
二人は同行することなく、ばらばらに山田社長の自宅に到着した。
家では、山田の妻と娘が待っていた。二人とも昨日の徹夜がたたったのか、幾分むくんだような顔つきになっていた。
浦河は、居間に通されソファーに座るよう促された。
「はじめまして、私、浦河と申します」
浦河はそう言って挨拶したが、名刺は出さなかった。
「この度はよろしくお願いします。山田の妻、恵子です。こちらは、娘の理穂です。」
二人とも、じっくり品定めをするように、本当に大丈夫なのかという不安と猜疑心の入り混じった目つきで浦河の人となりを観察していた。
浦川は、「失礼します」と言って黒いかばんをそばに置き、ソファーに浅く腰掛けた。
家族構成については、既に調査済みであった浦河にとって、この二人には初めて会った気がしなかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。今回の計画は、ご家族の皆様の一致団結したご協力がないとうまくいきません。」
浦河は、これ以上無いくらいのやさしい笑顔と穏やかな抑揚の中にも一本ピリッと筋の通ったしゃべり方で二人に話し始めた。
「計画の概要は、ご主人様からお聞きになっていらっしゃると思いますが、これは、皆さんも、私の方も非常に危険な内容です。世間にばれたら間違いなく双方ともブタ箱行きになります。つまり一蓮托生という訳です」
不安と猜疑心の輝きを放っていた社長夫人と娘の目は、すでに浦河の品定めの段階を通り過ぎ、一言も聞き漏らすまいという真剣な眼差しに変わっている。
浦河は続けた。
「ですが、うまくいけば、1億4千万円はあなた達のものになります。1千万円は私どもの手数料ということでいただくことになります。」
山田社長達3人は大きくうなずいた。
「まず一番重要なことをお話します。今回のこの計画は、お解かりのように法に触れることです。ですので当然のことですが今後死ぬまで一切他言無用です。親類縁者、親友だろうが誰にも例外なくこの4人以外にしゃべってはなりません。一生の秘密として墓場まで持っていっていただきます。万が一警察等この4人以外から聞かれても一切知らぬ存ぜぬを通してください。またご家族で話す時も、周りを十分注意し、誰にも聞かれないよう小声で話してください。お解かりですね」
山田社長たちは、先程よりも若干血の気の失せた顔色になったが、より大きくうなずいた。
「はい、では計画の段取りをお話しましょう。先程もお話しましたがとにかく秘密にしないといけませんので、証拠を残すわけにはいきません。メモは取らないで下さい。3人で記憶してください。正確に覚えるまで何度も説明しますので判らないことがあったら、全部質問してください。よろしいですね。」
浦河はそう言うと、黒いかばんから一枚の三つ折パンフレットを取り出し、テーブルの上に3人に見えるように広げた。
『雲霞温泉』と書いてある温泉旅館のパンフレットだった。
「ここが今回の計画を実行する舞台となる雲霞温泉の「若返温泉旅館」です。」
山田社長達3人は食い入るようにそのパンフレットを見つめている。
「まず旅行の準備をしてください。そして親子3人水入らずでこの温泉旅館に泊まって普通に観光していただきます。山田社長としては、最後の親子旅行になるはずですので、ゆっくりとお楽しみください。・・・」
浦河の説明は昼ごろまで続いた。途中、何度もお互いに質問を行い、計画が確実に実行できるよう何度も確認を繰り返した。




