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裏葬儀屋  作者: 燕兄さん
3/12

山田社長の決断

「それからもうひとつ、ここが非常に重要なところですので、よ~くお聞きいただいて判断していただきたいことがございます。よろしいですか」


 山田社長と話をしたここ数十分の間で、浦河の表情は一番真剣になった。

 山田社長もそれに気付き、まだ内容も聞いていないのに思わずごくりとつばを飲み込んだ。


「今回の件がうまく行き、無事1億4千万円を手に入れましたら、山田社長、あなたはこの社会からいなくなることになります」

「はあ?俺は死んでしまうのか?だったら詐欺じゃないじゃないですか」

「いえいえ、そうではありません。山田という戸籍の人が死んでしまう、ということです。考えても見てください。死亡保険金を受け取るのですよ。誰かが死ななければ保険金は出ないんです。今回死ぬのは、あなた、山田社長なんです」

「・・・」

「山田社長、あなたは、今回死んでご家族が保険金を受け取ることになります。ですが、実際には、この薬であなたは死んでいない。復活した後は、奥様を社長に立てるなどしてあなたは裏から指示をして会社を再建すればよい。では、山田さん、あなた自身は生き返った後どうなるのか。山田は死んでいるので、山田としては生きていけない。あなたには、別の人間の名前を名乗っていただきます。つまり別の人間として生きていくわけです。この先寿命がきて死ぬまで一生その別人になりすまして生きていくことになります。わかりますか?」

 山田社長は、浦河の顔から視線をはずし、軽く目をつぶって腕組みをした。

 そのままソファーの背もたれに背をあずけ、目をつぶったまま顔を真上に向けた。

 熟考するときの山田社長のくせだった。


「うぅぅーーむぅ」

(なるほど、たしかに俺が死ねば保険金が手に入るが、俺は死んでしまうわけだから山田としては誰の前にも出れなくなる・・か)


 究極の選択である。この話に乗らなければ、会社は倒産、一家離散となるかもしれない、が、それが本来の事業主の姿である。

 この話に乗れば、会社は助かり、家族も幸せになれるかもしれない。

 しかし、一歩間違えれば俺は犯罪者になってしまう。しかもたとえ誰にもばれなくても、一生俺は山田には戻れない。親戚や友人・知人には二度と会えないのだ。


「ちょっと時間をもらっても良いかな」

「はい、ですが不渡りを出したのであればあまり時間もありませんよ。明日の朝もう一度お邪魔いたしますので、それまでご家族の方々とも十分相談してお決めください。この計画はご家族のご協力なくしては実行できませんから。よろしいですね」

「わ、わかった」


「あ、それから、大変申し訳ありませんが、先程お渡ししました名刺をお返し願えませんでしょうか。もうお分かりのように、かなりあぶないお話ですので、証拠を残すわけにはいきませんものですから・・」

 そういわれた山田社長は、机の上に置いてあった電話番号も無い名刺を持つと、もう一度しげしげと見つめ直した。


「不思議な名刺だとお思いでしょうが、私のご提案を断られた場合に証拠を残さないための工夫なんです。この裏の番号は通し番号でしてね。計画を受けられた方にのみ再度お渡ししているんですよ」

「ということは、私が36番目ということですか」

「はい、いままで35人の方が実行されていらっしゃいます」

「その人たちは今は・・」

「基本的に計画を完了した後は、一切コンタクトをとらないことにしていますが、風のうわさに聞きますと、人それぞれのようですね。

 事業が復活しさらに拡大した会社もあれば、結局再生できず、手に入れたお金は、きれいに清算するための資金に使った方もいらっしゃいるようです。まあそれでも、文字通り死ぬ思いをして手に入れた金ですので、無駄に使ってしまったという話は聞きませんね。

 もっとも、私どもが提案させていただくお客様は、人間性に於いてもこの計画にふさわしいかどうか調査させていただいております。山田社長につきましても私どものご提案にふさわしいと判断しましたのでこのお話を持ってまいりました。その点はご心配なく」


 どの点が心配ないのかいまいちよく判らない感じがしたが、山田社長は浦河の名刺を本人に返しながら、心の中ではこの計画を受けることをほぼ決めていた。


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