ご近所ダンジョンさん 20
意識を取り戻して、私はミズモチさんに人外に身だけでなく心も落とすことを宣言しました。
目を閉じると今までの私では考えられないほどに闘走本能が湧き上がってくるのを感じます。
白鬼乙女さんがこちらに向かってくる。
「ご主人!」
ミズモチさんが白鬼乙女さんの相手をしてくれて、私は銀杖さんと鬼切丸さんを両手に構えて走り出しました。
「うおおおおおおお!!!!!!」
枷を外す。そう思った瞬間から気づいていました。
私はもう人ではありません。
跳躍して、何十メートル跳べることも、走って景色が見えなくなることもミズモチさんに乗ってしか経験したことはありませんでした。
「私はあなたを倒す」
服は破れて、全身がツルツルの私の肉体が、白鬼乙女さんに襲い掛かります。
「ぎゃああああああ!!!!」
迫る私に悲鳴のような奇声を上げる白鬼乙女さん。
私の下半身を隠してくれるミズモチさん。
ミズモチさんに乗って最後の決戦をします。
心はどこか自分ではないように暴力的に、そして理性的に相手を倒すことばかりが頭の中を駆け巡っていきます。
「行きますよ!!!」
全身から光を放って「アベレーザー!!!!」が放出されます。
それは白鬼乙女さんが作り出した、攻撃を相殺して吹き飛ばしていきます。
「アイスジャベリン!!!」
私に合わせるようにミズモチさんも氷の槍を大量に作り出して、レーザーの隙間を埋めてくれます。
攻撃が効くのか効かないのかなんて関係ありません。
出来ることをできるだけ大量にやり切るだけです。
「うおおおおおおおおお!!!!!」
魔力が尽きようと、肉体が吹き飛ばされようと関係ありません。
白鬼乙女さんの腕が吹き飛んで、私の足が吹き飛んでも、体は再生していきます。
回復薬は再生能力もあったのですね。
ミズモチさんも私たちと同じようにダメージは受けていますが、次第に私とミズモチさんの物量が増えて、白鬼乙女さんの体が下がりました。
「まだまだいきますよ!!! 合体魔法!!!ホーリーポイズン!!!」
聖なる毒は闇に属する鬼を祓う力を宿す。
私自身の人外ボディーも聖なる魔法の攻撃を受けることになりますが、そんなことで攻撃を止めることなどできません。
私の体が溶けて、回復薬で癒し。白鬼乙女さんの体が溶け切るまで耐えて見せます。
互いに体を蝕む聖なる毒によって、全てが洗い流されていきます。
「うおおおおおお!!!!!!!」
最後の悪あがきをするように、白鬼乙女さんが口に溜めたレーザーを私に向かって放ちました。すでに何重にも魔法を使っている私には防ぐ術がありません。
ミズモチさんも私と同じで魔法を発動しているので動けません。
「くっ!」
不意に私の左手に持っていた銀杖さんがレーザーに向かって大きくなりました。
「なっ!」
白鬼乙女さんが言っていました。
武器にも主人を選ぶ権利があると、まだ名前をつけて一緒に戦うのは初めてだというのに銀杖さんがその身を持って私たちを守ってくれたのです。
「ギンさん!!!」
私は名付けた名を呼びますが、ギンさんはレーザーの高熱量によって消滅してしまいました。
銀杖さんの後ろから、白鬼乙女さんが決死の突撃を仕掛けてきます。
物量で押し切るところを、先ほど私の心臓を貫いたように瞬間移動するつもりです。
「そのパターンは先ほど見ましたよ。ミズモチさん、魔法をお願いします」
「はい!」
私は合体魔法の制御をミズモチさんに託して、鬼切丸さんを構えます。
あとはタイミング次第。
使う技は一つ。
「うおおおおおお!!!!!!!」
「秘奥義 鬼殺し!!!」
阿修羅さんを倒した私の最終奥義が人外の体を使って、全身から放たれます。
これま多くの鬼を切ってきた鬼切丸さんは、私の一撃に耐えられなかったようです。
白鬼乙女さんに一撃を放つと同時に真っ二つに折れてしまいます。
互いに全身が溶け始めた私たち。
これは本当に最後の一刀です。
白鬼乙女さんの爪が私の胸を貫き、私の一刀が白鬼乙女さんの体を真っ二つにする。
「これでダメなら、もう何もできません」
痛みも、恐怖も、体の酷使も全てを捨てて、白鬼乙女さんを倒すことだけを考える人外阿部秀雄の最後の一撃です。
互いに体を交差させて、痛みが全身を走り抜けました。
魔石を確認して、傷ついています。
はは、これで正真正銘の終わりですね。
白鬼乙女さん。
どうやら私はあなたを倒すことはできなかったようです。
「ご主人」
「ミズモチさん」
私の上に乗ったミズモチさんが悲しそうに名を呼んでくれます。
ミズモチさんの頭に手を伸ばして撫でてあげました。
「すいません。ミズモチさん。私はここまでのようです。カオリさんに謝っておいてください。帰れなくてすいませんと……」
白鬼乙女さんに視線を向けると、溶けていた体は真っ二つになり再生することなく倒れていかれます。
どうやら倒すことはできたようですね。
ミズモチさんだけでも、カオリさんの元へ帰って知らせてくれると嬉しいです。
「今までありがとうございます。ミズモチさん。どうやら人外になっても、私の心は戻って来れたようです。愛していますよ。ミズモチさん」
「ご主人!!!」
私は最後の力が抜けて、ミズモチさんを撫でていた手が地面に落ちました。
目も重たくて……。




