ご近所ダンジョンさん 16
目が覚める少し前に夢をみました。
カオリさんが小さな子供と手を繋いでいて、ミズモチさんと白鬼乙女さんも一緒に遊んでいて、みんなが笑顔でいる光景です。
「ご主人」
意識を覚醒させる私の上にミズモチさんが乗っていました。
「ミズモチさん、おはようございます。起こしてくださったのですか?」
「うん」
ふふ、ミズモチさんと会話ができるようになったので、和みますね。
今まで念話さんを通してしか話せていませんでしたので、こうやって普通に話せることが幸せでしね。
「それでは少し準備運動をしてからいきましょうか
「はい!」
ミズモチさんが出してくれた水を飲んで、私たち軽く準備運動をして小屋を出ました。
魔物が現れることも考えていましたが、どうやら昨日の阿修羅さんを倒したことでエリアをクリアできたようです。
「さて、残すは白鬼乙女さんがいるこの扉だけですね」
Sランクダンジョンと聞いてたくさんの覚悟をしてきました。
白金さんを失ってはしまいましたが、なんとか五体満足でここまで辿り着けました。
「行きますよ。ミズモチさん」
「はい!」
私は巨大な扉に手を置いて、ぐっと押し込みました。
真っ赤な扉は重たいながらも、私が押し込むと開いていきます。
完全に開いた扉は私とミズモチさんが入ると自然に扉を閉めて、戦いが終わるまでは出ることが許されません。
扉が閉まると松明の灯りがついて、日本のお城の中みたいな作りでした。
謁見の間を表現した上座には、簾が下されて顔が見えなくなっている。
左右には三人ずつ鬼が座っています。
白鬼乙女さんがいるのは、上座でしょうか?
ふと、鬼たちの顔を見れば、右奥に酒呑童子さんが、左奥に黒鬼ガンキさんの姿が見えます。
今まで戦ってきた鬼さんたちが座っておられる光景に、胸を締め付けられるような思いがします。
彼らを倒してダンジョンを閉鎖してきました。
家を奪われたようなものだと思います。
私を恨んでいるでしょうか?
私は白鬼乙女さんに会うために、彼らの間を通って上座の前に辿り着きました。
「よくぞ来たな。阿部秀雄よ」
それはかつて、私の命を救ってくれた際に聞いたことがある声です。
「白鬼乙女さん。ここまでたどり着くことができました」
「うむ。妾との約束をよくぞ果たした」
「はい。ここからはあなただけです」
「そうじゃな。こやつらを倒したことも見事であった。鬼の長として感謝しておる」
「鬼の長?」
白鬼乙女さんは、本当は白夜叉姫と呼ばれています。
姫とついているので、偉いのだと思っておりましたが、鬼の王様だったのですね。
「なんじゃ妾のことを調べなんだのか? ふふ、お前は初めて来た時も散歩気分で入って来よったからな。面白いやつじゃと見ておったが、ここまできてもとぼけたやつじゃ」
白鬼乙女さんに笑われてしまいましたね。
「さて、そろそろ始めようかのう」
「はい。あなたを私はテイムします」
「ふん、出来るものならやってみろ。妾は簡単に男に体を許す女ではないぞ」
「そうですね。よく知っています。ここまでたどり着くのに、とても長い時間がかかりましたから」
いつの間にか、両脇を固めていた鬼たちは姿を消していました。
私はゆっくりと距離をとって、鬼切丸さんを抜きます。
銀杖さんは背中に抱えてもしもの時に使用させていただきます。
城の中にいると思えば、西折さんが作ってくれた風貌がマッチしているように感じますね。
簾から出てきた白鬼乙女さんは、巫女衣装を着ておりました。
真っ白な髪に真っ白な肌。
可愛いツノが見えております。
「この姿は、戦いには相応しくないのう」
パチンと指が鳴らされると白鬼乙女さんの衣装が巫女衣装から、真っ白な着物へと変化しました。
「まずは小手調べじゃ。どれほど強くなったのか試してやろう」
「胸をお借りします」
「くくく、お主はどこまでも謙虚じゃの。まんじゅうよ。まだ手を出すなよ」
白鬼乙女さんが、肩紐で袖を捲り薙刀を構えます。
ミズモチさんはそっと、私の後に控えて見守ってくれるようです。
「行きます!」
「よいぞ」
私が正眼に構えて一歩踏み出して、鬼切丸さんを振います。
白鬼乙女さんは、指導するように私の攻撃を受け流して互いに型をなぞるように何合か武器をぶつけ合います。
「ふふ、本当に強くなったのう」
「ありがとうございます。多分ですが、自分でも一年前にここにきた時よりは強くなったと思います」
あの頃の私は戦うこともできない素人でした。
ミズモチさんに守ってもらって、なんとか生き延びることができました。
初めての戦いもご近所ダンジョンさんで経験させてもらいましたからね。
「私の冒険者としての戦いはここから始まりました」
「妾がお主の初めてか?」
「そうです」
一撃に力を込めると白鬼乙女さんに同じ程度の力で弾き返されました。
「面白いのう〜。いつぶりだろうか? 妾と打ち合える者と出会ったのは」
「いつもは撃ち合えないのですか?」
「うむ。まず妾の前に立つと誰も呼吸もできぬ」
「えっ?」
「次に、立つことも、話すことも、意識を保つこともできぬ」
どうやら本当にヤバい存在だったんですね!
白鬼乙女さん。
「だから、楽しくていつまでも遊んでいたいと思ってしまうのう」
「私も楽しくはありますが、いつかは終わりが来ます」
「じゃのう。そろそろ本気で打ち合うかねぇ!」
一気に白鬼乙女さんの速さと力が強くなる。
「グッ!」
「どうしたどうした! そんなことで妾をテイムできるのか?!」
遊びは終わりを迎えて、ここからが本番ですね。




