逃げ道
私が懸念していたカオリさんへの報道関係の人がやってくるということは起きませんでした。
その理由として、闇金をしていた亀津さんが警察の中でも特殊なところへ逮捕されたことで、公にできない逮捕であったからだそうです。
お義父さんにはカオリさんへの接近禁止令が言い渡され、カオリさんからは一通の手紙をマリアさんを通して渡してもらうことになりました。
内容を、私は聞いていませんが、カオリさん曰く。
「良くもやってくれたなこの野郎!って書いてやりました」
と言われていました。
カオリさんはあの日の帰りに私へ逆プロポーズをしてから、何だか男前なところが増えたように思います。
一番懸念していたお義母さんのことですが、こちらは冒険者ギルドや弁護団、そして長さんが 警察の方に手を回してくれたそうです。
カオリさんのことを徹底的に伏せてくれたようです。
実際にカオリさん両親は離婚が成立しています。
そして、お義父さんと絶縁したことで、もっと昔にカオリさんとの親子関係が切れているということになったそうです。
そのためカオリさんと、お義母さんとの間に親子関係は戸籍上見られないと判断してもらえるそうです。
それでも調査する人はいるかもしれませんが、その際には長さん、もしくは冒険者ギルドに報告してくれれば対処してくれることになりました。
私は大勢の方々に助けていただいていることがわかり、今後も皆さんのお役に立てれば良いと思っています。
「お久しぶりです」
「阿部さんからご連絡をいただけるとは思っていませんでした」
「一つの可能性として、必要だと思ったから利害の一致だと思ってください」
「それでも私には希望の光に見えます」
私は久しぶりにブラック商事の社長室を訪れました。
辞めたことで、会社はどうなるのかと思っていましたが、意外にもテレスさんが社長業を引き継いで会社を継続しています。
それも外資系の物流企業である我が社の強みを活かして、冒険者ギルドのアイテムを輸入したら、逆に輸出することで成功を収め、会社の規模としては中小企業だったものが大企業になりつつあるそうです。
A国の冒険者ギルドとしても、テレスさんが払った購入費用は安くなかったようですが、損もなかったようです
「あなたがどうして私にそこまでのこだわりを持っているのかわかりませんが、私は家族を守るために伝手を作っておこうと思いました」
これから先の未来で、カオリさんを傷つけようとする輩が現れるかもしれません。
ですから、逃げ道の一つを考えておきたいのです。
テレスさんが持ってきてくれた資料は、マリアさんや長さんにも見せることになりました。
今回の事件を決めるきっかけになったのです。
正直な話を言えば、テレスさんの考え方は今でも好きになれません。
ですが、事前に資料をもらっていたからこそ、長さんに詳しい説明ができたこと。
マリアさんが迅速な対応を行えたことは事実なのです。
「どんな理由があろうと、私にとってはかまいません」
「所属は日本のまま、A国で一度だけテレスさんの仕事を受けることを承諾します」
「感謝します! 阿部さんの希望は私の全てを賭して叶えます」
私の言葉を聞いたテレスさんは、いつものクールで、無表情な顔ではなく。
心から感謝していることがわかる顔で涙を浮かべていました。
「これまでの非礼をお詫び致します。申し訳ありませんでした」
テレスさんからの心からの謝罪でした。
許せるかと言えばわかりませんが、今後は仕事を受ける身として接することにします。
「私は間違っていました。自分の願望を叶えるために強引なやり方をしました。ですが、一つだけわかって欲しいのです。決して阿部さんを害するつもりも、あなたの奥様に気分を悪くされて欲しいと思ったわけではないのです」
どこかで私たちは行き違いがあったのだと思います。
彼女はエージェントとして、自分の思う最高の仕事をしたつもりだった。
ですが、私への配慮が違っていた。
「テレスさん。あなたの常識と私の常識は違う。また同じような行き違いが起きてしまうかもしれない」
「そんなことは決して」
「いえ、それは仕方ないことだと思います」
「えっ?」
私の言葉に彼女は驚いた顔を見せます。
「それは私では阿部さんの役に立てないという事でしょうか?」
「少し違います。先ほども言いましたが、常識が違う者が接するのです。ですから、何か事を起こす前に私の報告、連絡、相談をお願いします」
「報連相?」
「はい。私もいつもユイさんやカオリさんに怒られるのですが、何かを成すとき、誰にも知らせずに行って成功して絶賛されることは確かに自分の成果として喜ばしいかもしれない。ですが、報告をしないまま危険な事をして心配をかけたり、勝手にやって相手の気分を害してしまうことがあるかもしれません」
事前に報告しても、こちらの言葉を聞いてくれない課長のような人もいます。
ですが、私は報告してくれれば、テレスさんのことをこんなにも嫌いだとは思わなかったと思います。
「わかりました。今後は、阿部さんやその周囲の人に関することで、私が何かをする際には事前に報告をさせていただきます。これは契約です」
「はい」
すぐにA国に行くわけではないですが、もしもカオリさんに危険なことが迫ったり、カオリさんを傷つけようとする人がいた場合。
A国を拠点にほとぼりが覚めるのを待ってもいいと思っています。




