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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
第二部3.前半戦

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第136話 「褒めてもヒットしか出ねェっすよ」

 三回裏。

 布施猿彦にとっては緊張の一軍初打席だ。

 が、結果はセカンドゴロ。

 へっぴり腰になって何とか変化球をバットに当てるだけが精いっぱいだった。


 猿彦は一応二軍では.250ほどの率を残している。

 しかし、現状は器用さを生かしたバットコントロールくらいしか強みがない。

 相手の投球レベルが上がったら、同じようにはいかないのだ。


「これも、普通はこんなもん……?」

「そりゃま、そーだな。いきなり打って守って大活躍!なんて、でかい期待はしちゃいないよ」


 野々香の呟きに監督が答える。

 いきなりスタメンで抜擢している以上、十分に期待はしていると思うが、そうそう思うようにはいかない。

 野々香や樹、椎菜や南があまりにも特別なのだ。


 4回にタイムリーを打たれ1点を失うも、5回を野々香は無難に切り抜ける。

 有人も、5回は先頭バッターでなかったため仕事をさせなかった。

 その間に本瀬と樹に連続タイムリーが飛び出し、試合は2-2の同点。

 猿彦は守備自体はミスなくこなしたが、二打席目も凡退した。


「うーん、野々香さんみたいにバシッ!と活躍出来ないんよ……」

「サルくんあんま凹まなくていいよー、とりあえず一軍上がって経験を積めてるだけでも十分って、監督も言ってたよ」

「けど俺、野々香さんに並んで、大諭さんに勝たんといけないんよ」

「俺ぇ?ポジション違うじゃねえか、布施はとりあえずショートだったらまずは守備だろ。打撃で競われても」


 突然名指しされて首を傾げる樹だが、猿彦はそれをじっと睨みつける。

 どうも、樹と初対面の時に対抗心を燃やしたままらしい。タイプワイルドな顔でライバル視されてて笑いながら話が出来ないよ。


「まぁ、俺はともかく、コイツが特にやばいだけなんだから、急いで追いつこうとすんな。高卒で活躍するプロなんてほとんどいねぇんだし」

「ちょっと樹くん、それではまるであたしが異常者みたいじゃないかね」

「普通だとでも思ってたのか?」

「それはそう」

「野々香先輩は凄いんよ!けど、大諭さんと同じくらいには俺もならないと、後輩として示しがつかないんよ」

「サルくん……じーん。うんうん素晴らしい後輩くんであたしゃ幸せだよ。手を叩くよ」


 当たり前だが、高校で野球の付き合いがなく、ニャンキース1年、ネイチャーズ1年目の野々香はまだずっと新人だ。

 後輩と呼べるのは、この猿彦だけ。野々香にとっては猿彦が可愛くて仕方がない。

 なんとかして、活躍を土産に二軍に帰ってもらいたいものだ。


 七回表に野々香はさらに1点を失う。自責2、失点3。

 トライアルズの得点効率は本当に良い。ちょっとした不運が重なりポテンヒットでも許せば、粘り強く四球を稼ぎ、進塁を上手く使ってゴロや犠打で加点する。

 送りバントで1死2・3塁からまたもボテボテゴロを転がされた。

 そして迎えるバッターは、2死3塁で日暮有人。


「姉さん、悪ィけど初安打、初打点も貰ってくぜ」


 ノリノリで打席に立つ。

 この場面では、一番厄介な相手だ。内野安打でも打たせるわけにはいかないし、元同僚だけに球筋や性格も概ね知られている。

 160km台の速球も比較的見慣れているのだ。

 今は3-2とトライアルズが1点リード。4点目は与えられない。


「ボール!」


 となると、有人の打撃の性質上、流し打ちをさせないためのインコースが主体の配球となる。

 しかし、これが裏目。有人はそれをも読んでいたとばかりに見逃し、カウントは3-1まで持ってこられてしまった。


 ……けど、歩かせるのはなんか寂しい。

 野々香は思ってしまった。それが災いし、5球目は外のストライクゾーンへ吸い込まれる。

 しまった、と思った瞬間。キィン、と流し打ちの綺麗な音がして、打球はレフトへ……


「おあああああっ!」


 抜けた、かと思われたその打球。パァン、とグラブのいい音がする。

 強いライナーで三遊間を襲ったヒット性の打球は、ショート布施猿彦のジャンピングキャッチにより阻まれる。

 先ほどエラーした有人のヒットを逆にもぎ取る、見事なファインプレーだった。

 歓声が沸き起こる。


「サルくんナイスプレー!」


 前の守備で取られた1点分を取り返す素晴らしい仕事。

 野々香に肩を叩かれ称賛された猿彦は、「ありがとうなんよ」と言いながら、充実感あふれる表情でベンチへ帰って行った。


 さらにその裏、ファインプレーに喜ぶ野々香は取られた1点を自力で取り返すタイムリーツーベース。

 8・9番の打者を見てトムが敬遠気味に歩かされると、送りバントで1死2・3塁とし、打席は9番猿彦に回る。


「ここでプロ、初安打ぁぁっ!」


 猿彦が気合とともにスイングした打球は……

 またもボテボテのセカンドゴロ。やはり、ヒットとはいかない。何とかバットに当てただけの打球で……


「これだけは、意地でも帰るっ!」


 三塁走者の野々香は、ためらいなくホームに突っ込んだ。

 野々香の足の遅さだけは既に周知の事実。当然、バックホームされる。

 しかし……


「セーフ!」


 勇者のカンがもたらした絶妙なタッチ回避で、野々香は生還。

 記録はフィルダースチョイスとなり、ヒット扱いにはならないものの、猿彦に打点1が記録される。

 これで4-3とリードしたので、このまま勝てば勝利打点だ。


 こうなれば野々香も気合が乗る。しぶといトライアルズ打線相手に8回まで110球を投げ切り、3失点で降板。

 最後は間宮が抑え、試合は5-3でネイチャーズが勝利した。


 新人ショート対決の結果は両者とも無安打、猿彦はエラーがあったもののファインプレーで帳消し。

 猿彦は打点1、有人が得点1。


「地味……」

「こんなもんだって。次も頑張れよ」


 猿彦は渋い顔だったが、新見監督からはしっかり「次」が明言されていた。

 評価は、決して悪くなかったようだ。




「有人くん、初スタメンおめでとーう!」


 試合後、少し時間を作って有人、樹と軽い集まり。

 ファストフード店でのプチ同窓会だ。時間は深夜だが、有人のスタメン獲得祝いに少しでも会っておきたい!と、野々香と有人が盛り上がってしまった。


「いやでも、姉さんはやっぱやべェっすわ。規格外っすわ」

「こっちのサルくんも後輩で初出場だったんだけど、監督は評価してたよ。有人くんのことも褒めてた」

「お前、無理やりコメント貰いに行ってたじゃねーか」


 猿彦のこともだが、野々香があの人も同期なんです!なんです!へるなんです!

 とグイグイ行ったことで、監督から有人の評価もいただいておいた。やはり、野々香の当たりを好捕されたことや走塁センスを評価してくれたようだ。


「まーこっちは、普通……かな。それよりこっちも姉さんの投球の話題で持ち切りなんすよォ、規格外だっつって」

「そりゃな。一軍のプロから見ても、こいつは規格外だろうよ」

「樹、なんかお前、姉さんの強火オタ感隠さなくなったな……」


 褒められた当人より先にドヤ顔をする樹に、有人は若干ひきつり笑いを浮かべている。

 昨年のヘタレ日和りぶりはどこへやら、開き直った樹はなんかその辺を恥ずかしがることがなくなった。

 正直、ちょっとうぜェな。と、有人は思った。


「ありがたいけど、今日は普通はこうで、お前は規格外。異常者。変態。学名ゴリラゴリラゴリラ。バナナで釘が打てます。って言われてるみたいでちょっと食傷気味だよぉ」

「お前が野球に関して規格外なのは事実だし」

「それでもですね、なんというか、乙女心的なアレなのですよ」


 野々香は異世界勇者だ。

 異世界の力を借りたので、プロになれた。

 ただ、だからこそ、異常という表現は少し複雑だ。あくまで皆とは対等でいたい、それは最初から望んでいた。

 そんな、何となくしっくりこない言い回しに、有人が答える。


「あー、言いたいこたァわかるよ。けど姉さん違う違う。女子選手としちゃあ異常なくれェ優れてる、っていう話ではあるけどさ。姉さん野球してない時は普通の女の子じゃん?まぁいるよなって感じの」

「え?」

「まぁ、そうだな」


 有人と樹が、戸惑う野々香をフォローする。

 素直に受け止めたいが、野々香個人としてはそこに関して何と言っていいやら。


「それが、ボール投げれば日本最速、バット振り回しゃホームランってェ、そのギャップが人気の理由だと思うんすよね。高嶺の花感あっても鼻につくし、どう見てもゴリマッチョ、みてぇな子でも、ただの才能、って感じに見えるし」

「……ニャンキースに新しく入ってたな、そういうのが」

「月ちゃんのこと言われると、そうですね……」


 衛久藤月(えくとう るな)の姿を思い出し、樹と野々香は苦笑い。

 あれは生まれつき、スポーツをするか人類を滅ぼすかの二択しかないくらい、凄まじい天啓持ちだった。


「だから、ぱっと見普通だなーってくれェだからこそ、凄いんすよ。だから異常とかやべェとかもそう捉えてください。樹もそういうとこに惚れちまッたわけで」

「ぶっ。おい、有人てめぇ余計なことを掘り返すな」

「いいだろォが、ここの間じゃ公認フラれ野郎だろぉ?」


 樹と有人がじゃれ合っている姿を見て、野々香はどこか懐かしい気分になる。

 有人は考え方が肯定的でわかりやすい。なるほど、と思わざるを得なかった。


「有人くんって、言ってほしいことを言ってほしい時に言ってくれる人だねぇ」

「なんすか、褒めてもヒットしか出ねェっすよ」

「出てないじゃねーか」

「明日! 明日出す! ちくしょう覚えてろよ!」


 そう言ってからかい合っている間は、プロの重圧を忘れられる。

 重圧。六花に挑まれたことで、どこか勝ち急いでいた部分もあるかもしれない。

 そんな焦りをすっと忘れさせてくれる、旧友との間柄が、野々香は心地良かった。


「じゃあ、プロ生活できついこととか、ニャンキースの素人だった頃に戻りたい気分になったら、また話そう!」

「おう、俺たちにとっちゃ、姉さんはずっとかっけェ姉さんのままだから。次会った時ブルジョワ姉さんになってたりしないでくださいよ」

「紅伊倉六花ちゃんみたいになってくるわ」

「それはちょっと見てみてェ!」


 そう約束して、ニャンキース同窓会は終了した。

 翌日、有人はキッチリ第一打席でヒットを打ってみせてくれた。


姫宮野々香

 投球成績 8登板 56回 17自責点 53奪三振 防御率2.73 4勝0敗

 打撃成績 打率.280 11本塁打 38打点 出塁率.354 OPS .929

前回、131話の野々香の登板数を間違えておりましたので修正しました。

4ではなく5でした。

4登板35回ってなんやねん高橋遥人かよ。

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― 新着の感想 ―
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第136話 「褒めてもヒットしか出ねェっすよ」」拝読致しました。  サル君。初打席。凡退。  うん、ここまで、いい所がないねぇ。 …
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