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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
第二部3.前半戦

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第134話 「椎菜さんサイドにも問題がある④」

「ナイスバウト。あなたには気高き聖女の資質(アビリティ)がある」


 見事に試合を支配した椎菜。

 試合翌日、まずは監督から称賛の言葉(?)をもらった。

 元々先発としては合格点の椎菜だが、この実績をもって起用法についても見直す……というか、信じてもらえる運びとなった。

 今後は、状況によって続投を選択してくれるとのこと。


「だがしかし、体の時を刻みし運命の振り子は大丈夫なのか」

「体力は平気なのか、ってことですか? 大丈夫ですよ、まだまだいけます」

「ふむ、バイタリティの面では、浅利南(サウス・クラム)の方が問題であったか」

「さうす……なんて? 南くん?」


 野々香の体力が異常値なだけで、椎菜は普通に疲労してはいる。しかし、まだまだ平気だ。

 ……だがそういえば、南は最後の打席時に少しぐったりしている様子があった。

 そして、今日は練習に遅れてきたらしい。


「やーすみません。ちょっと昨日から、体の動きがおかしくて」

「あれ、てっきり、春堅さんの熱視線にクラクラしちゃったのかと」

「椎菜。お前それ色々と野々香さんの悪影響があるからやめるんだ、帰って来てお願い」


 疲れて遅れたというのに、いきなりツッコミ役にさせるのはやめてほしい。南は思う。

 あらぬ誤解をするにしても、誤解の方向性が斜め右上と斜め左上がクロスした感じになっているので南は慌てた。

 実際、春堅の視線に嫌なものを感じて表情が冴えなかったのも事実ではあるが。


 今の南は、確かに疲労の色が濃いようだった。

 椎菜の目が、すぅっと細くなる。


「……大丈夫なんですか?」

「……大丈夫だよ。うちは、お前や野々香さんと違って、男のくせによわっちいんだ。ついて行くだけでも精一杯で情けない。もっと、頑張らなきゃ」

「でも、やりすぎなんじゃ」

「ヤりすぎィ!?」


 心配する椎菜に対して、唐突に背後から声が上がる。

 平原怒竜(ひらはら どりゅう)だ。

 キャリアの長い先発投手でも、驕らず、必要な時にはしっかり練習に来て、また後輩の世話も焼いてくれる。

 少し騒がしいが、いい人である。


 ……だが、今の不意打ちは驚いた。

 一体なにごとか。


「おま、おままままおまえら、やっぱり」

「へ?」

「付き合っとるんじゃな!?」

「へえ!?」


 平原の心配は、想像をさらに絶する不意打ちだった。

 急に顔が真っ赤になる南と椎菜。

 途中から話を聞いていたのだと思うが、どこにそんな要素が。


「じゃから今、疲れとって、男のくせによわっちくて情けないもっと頑張らなきゃ、って南が言うて、ほんで椎菜がヤりすぎって言うたじゃろ。そういうことじゃろ!?」

「ちーがーう、違います!うちが単に体力なくって」

「そりゃお前さん体力ないのはいかんのぉ、彼女に恥をかかせちゃ」

「試合! 試合で、疲れちゃったの!」

「ほぉ試合だなんてこじゃれた言い方するのぉ」

「野球の、試合!」


 平原は明らかに暴走している。

 それも、素だ。悪意なく部分的に切り取り誤解しているのだ。

 椎菜は大方の予想通りこういう話にはめっちゃ弱い。

 赤面しながらも、かろうじてツッコミと反論をする南の横で、真っ赤になって震えている。


「なんじゃ、恥ずかしがらんでもええじゃろ。ちゅーかどっちみちお前さんら、結構ずっと一緒におるしなぁ。ほとんどべったりじゃから、普通にそんな気はしてたわ。かっかっか!」

「そ、それを言われるとそうかもしれない……」


 投手で出場する際の助守とは良く相談をするが、それ以外では南と椎菜は一緒にいることが多い。

 野々香と違って(失礼)椎菜を男だらけの場に飛び込ませるのは、やはり心配が強かった。

 そのため南が、昔の仲間として守るから、と名乗り出た……くらいの話なのだが。

 でもはたから見れば、昔から知り合いで練習に試合に、いつも仲良くやって来たら……まぁ、察するものはある。


「けど、うちらはあくまで昔のよしみで、まだそんな深い仲とかじゃないですから」

「かっかっか、まぁ隠したい気持ちとかもあるじゃろしのぅ、わしも皆には秘密にしとくから安心しとき」

「だから、そうじゃなくてぇ」


 面倒見がいい先輩ではあるが、お節介で暴走するのが平原の難点だ。

 もはや誤解したまま正すことが出来ない……そう、南が思った瞬間。

 南と、平原の背筋が凍った。


「平原先輩?」


 その声は、可愛さを持ちながらも、有無を言わせぬ迫力がある。

 ごくまれに、正しくないものを見た時に発動する、静かな怒りモードだ。野々香も以前怒らせてピンクのフリフリを着せられた。

 今回は、照れ隠しも含まれていそうだが。


「そろそろ良いのではないでしょうか?」

「ひっ」

「たとえ善意でも、"そういった"話をあまり続けるのは、好ましくないと思うんです」


 平原怒竜は見た。いや、見た気がした。

 声の主、涼城椎菜の背後にいる、真に"怒"れる"竜"を。

 凍れる白き竜の幻を見た平原は、冷気を浴びせられたように急速に心が冷え、大きな体が縮こまっていく。


「す、すません……調子乗りやした……」

「気を付けてくださいね。こちらこそ、誤解を生んだ行動はあるかもしれません、改めます」


 えっ、改めるの!?

 南はその言葉にこっそりショックを受けたが、今そこに踏み込む勇気は沸かなかった。


 椎菜が南の方にも、冷えた視線を送ってきている気がしたから。




 南の方は、疲労を見て少し休養日を与えられ、翌週から試合に復帰。

 椎菜はその間から翌週にかけても野手出場を続け、次の先発登板は8回2失点、見事に勝利投手となった。


 新人、まして高卒新人にとって、生活環境が丸ごと変わった状況で一年野球の試合と練習のぶっ通し。

 普通は、疲労で持たなくなるものである。

 監督たちも思っているが、椎菜が持つことの方がおかしいのだ。


 しかし、この椎菜と南の二人が加わったことで、チームには着実に好影響が出始めている。

 元より昨季、最下位を爆走したチームだ。

 椎菜をいったん二軍へ……などと気を遣っている間にチームはばんばん負けて、4月中旬までは7勝13敗。

 あと少し借金が増えれば優勝はほぼ不可能というラインまで追い詰められていた。


 そこに、椎菜と南が加わったことで、投打に厚みが増し、5月の半ばで15勝17敗。

 早い段階で、勝率五割に近いところまで戻している。

 何より、椎菜が出塁率が高く、南がチャンスで殊勲打が多いのが大きい。


「なので、僕が塁に出て、南くんが返す……って感じで、チームも徐々に強くなってきました」

「良かった! イラブションズ、悪いけど選手がぱっとしないしスターはいないしで、長年優勝できてないからキツそうだなって」

「今年はやれそうな気がしますよ。優勝が遠ざかってるのは、ネイチャーズもでしたっけ?」

「あー、はは、うん。セで一番遠いのはうちだね。最近はチーム成績自体は良いけど」


 登板後の夜。

 お互い金曜登板でローテを回っているため、何となく野々香と椎菜はその夜に少し通話をするようになった。

 情報交換もあるが、お互い顔を見ると疲れが吹き飛ぶからだ。

 欠点は野々香が疲労に負けて「あっ椎菜ちゃんとか言うさいつよASMRがあたしを安らぎに導く」とかのたまって寝ることがあるので、起こすのが大変なことだ。疲れたボディ目覚めさせて。


「お互い同じ曜日で回っていけたら、交流戦最後のカードで当たることになるね」

「そうですね、それはもう絶対ずらさないで、って監督にお願いしてあります。『その通りでございます(イグザクトリィ)』って返って来たので賛成していただけたのだと」

「そりゃ、絶対盛り上がるもん。こっちも監督や馬鈴ちゃんが、絶対対戦させるって張り切ってるよ」


 野々香と真逆の軟投派投手・守備走塁型野手の二刀流を務める椎菜。


 対極的な史上初女子野球選手、二人の対戦。

 その公式戦唯一のチャンス、交流戦は、6月。

 椎菜が努力して長いイニングを投げることを認めさせたのも、この日のためだ。


 その日の対戦に、お互い全力を。

 二人の考えが共通していることを、この場でしっかり確かめ合うことができた。


「それと野々香さん、最近聞いたとっておきの情報があるんです」

「ほうほう、どしたどした?」

「あのですね、イラブションズの親会社の、パイを重ねたチョコ菓子の、パイ生地層の数なんですけど……」

「……ごめん椎菜ちゃん、それ選手が入団するたびに何度もやってる鉄板ネタだから、あたしもう知ってる……」


 冷静沈着で頭脳明晰なのに、日本での生活時間が短いせいで時折見せる椎菜のド天然。

 それを見るのも、野々香の元気の源になっていた。



涼城椎菜

 投球成績 6登板 42回 9自責点 29奪三振 防御率1.93 4勝0敗

 打撃成績 打率.297 0本塁打 15打点 出塁率.374 OPS .763 7盗塁


浅利南

 打撃成績 打率.255 9本塁打 27打点 出塁率.304 OPS .807

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 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 第134話 「椎菜さんサイドにも問題がある④」」拝読致しました。  監督から認められて、とりあえず一安心のシーナ嬢。  しかし、南…
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