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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
第二部3.前半戦

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第133話 「椎菜さんサイドにも問題がある③」

「完封目指す!? 何考えてるノ、大きく出すぎなノ」

「けど、野々香さんと長く対戦したいんです。出来れば互いに勝敗がつくまで」

「あんた、いつも冷静で謙虚なくせに、野々香さんのことになると熱くなりすぎなノ……」


 試合前の準備中、唐突に宣言した椎菜にサポート役の秋明華(しゅう めいか)が呆れ顔だ。

 その明華は丁寧に椎菜の髪をとかしてくれている。


「髪を整えるの、試合に関係あります?」といぶかしむ椎菜だが、

「アリアリなノ。あんたは"見映えがいい"っていう商品価値があるんだから。それこそ、長く試合に出るには、長く映しておきたくなるキャラクター性があると有利なんじゃないノ?」


 明華からの指摘に、椎菜は反論しづらくなってうめく。

 過度のアイドル扱いは苦手だが、明華の意見は極論や暴論ではない。野球にはあまり関係ないとは言いたいが、そういう所で初の女子という利点を生かすことを否定はしきれなかった。

 勝手に恋敵にされているという妙な関係だが、椎菜はこうして明華と話すのが案外落ち着く。不思議なものである。


「明華さん、今までにいない、僕にダメ出しをしてくれる方なので、助かります」

「はいはい、悔しいけど今日も可愛いノ。せいぜい頑張ってきなさいなノ」


 お次は、バッテリーを組む助守との相談だ。


「よりによって、今日? ビジターのサルガッソーズ戦、相手は春堅さんだよ?」

「そのくらいの気合で、臨みたいんです。もう六回までの保護対象は、卒業したくて」


 相手先発、サルガッソーズの春堅房具(はるかた ふさぐ)は、ニャンキース時代、野々香と組んだ際に対戦経験がある。

 基本、投手戦必至の強敵だ。二軍で対戦した時は、奇跡的に助守の本塁打の1点のみで勝利したが、打ち倒したとはとても言えない。

 その時も8回まで両チーム無得点のガチガチの投手戦だった。


「姫宮さんと、勝敗がつくまでかぁ。そう言われちゃ否定しづらいけど」

「僕が0に抑えれば、また助守さんがホームラン打ってくれると信じて」

「あんな奇跡、あてにされても困っちゃうなぁ」

「魂が叫ぶと奇跡は何度でも起こるって聞いたことが」

「涼城さんって、姫宮さんが関わるとけっこー無茶苦茶言い出すよね」


 助守の現在の本塁打はゼロ。打率も二割強、と捕手ならそこそこ程度の成績。

 捕手も難しいポジションだ。投手のリードや戦術を考えていると打撃がおろそかになるし、とはいえ野手として機能しなければ正捕手にはなりづらい。

 現在の助守は椎菜の登板時が主なサブ捕手、買われているのは野々香と組んでた経験だけ、という立ち位置だ。


「目指す方向性は一緒……かぁ。僕も、涼城さんと組んだ試合で結果が残せないと出番が貰えないからね。じゃあこの試合、気合入れていこう。今のままだと女の子専属みたいな謎ポジションになる」

「プレイボーイというやつですね」

「涼城さんたまに知識が偏ってるよね?」

「けど、野々香さんのことを知ってくれている助守さんだから、話しやすくて助かってますよ。野々香さんの魅力を語る会をしたいです」

「筋金入りだなこれ……彼女は自然体でいるのに勝手に仲間もファン増えるから凄いよね。有人くんが"絶妙な俺でも行けそう感がある"とか言ってたなぁ」

「わかりますー。僕でも友達になってくれそうって」


 微妙に噛み合っていない会話をしながらバッテリーは話し合いを続ける。

 目指すは、完封勝利。


春堅(ファルク)を打ち崩すは、至難。遥かに突き進めよ、苦難」

「ありがとうございます、監督。今日もよくわからないです」

「……椎菜」

「はい。皆さん、本日はエース級の春堅投手相手。特に結果を出さないといけない日だと思ってます。必ず抑えるので、がんばりましょう」

『おー!』


 監督の号令と共に、選手たちが気合を……入れられていないので、代わりに椎菜がやらされた。

 でも椎菜の声の方が効果は高かった。



「ちょっとォーッ! 一番の彼、美少年じゃないのォーッ! BI・SHOU・NEN・じゃないのォーッ!」


 試合開始、南が打席に立った途端、先発・春堅の様子がおかしい。

 南が軽く会釈をしてみたものの、その様子を見て突然悶え始めた。どうやら南のことが気に入ったらしい。

 異世界でのギルドや酒場のことを思い出し、南は少しぞくっとした。

 この投手からは、同じ気配を感じる。なんか舌なめずりしてる。


「ストラーイク!バッターアウト!」


 調子を崩されたのもあるかもしれないが、南は術中にはまったように空振りの連続で、三振となった。

 ベンチに戻る前にふと見たらばちこんばちこんウインクしてた。

 逃げた。


「ごめん何か、凄くやりづらい相手だった。ああいう人なの?」

「ああいう人だぜ」


 去年もレギュラーだった寝歩足(ねふたり)が、ベンチで頷く。

 キャリアの長い選手からすると、春堅の性格性質も割と周知の事実らしい。

 とにかく、うっかりお気に入りの美少年が登場したことで彼はノリにノってしまった。初回は強い形相でガンガン速球を投げ込み、三者三振。


 これ、本当に完封しないと勝てなさそう……

 冷静に分析し、椎菜は気持ちを入れ直した。


 椎菜と助守の頭脳型バッテリーは、基本相手のデータを元に理詰めで投球を組み立てる。

 三者三振の春堅とは対照的に、こちらは打たせて取るピッチングを展開した。

 奪三振はないが、着実に小さな変化球でゴロを打たせ、フライを上げさせる。


 しかし、誤算が春堅の絶好調ぶりだ。

 椎菜も打席で足を使った揺さぶりをかけようと試みたが、バットに当て損ね三振。

 春堅は三回パーフェクト、椎菜も二安打を許すが無失点。試合は0-0のまま進行した。


「やべー、手が付けらんないぜ、あれ」

「浅利くんのこと気に入っちゃったせいみたいだね」

「南くん……何してるんですか」

「ちょっと待って椎菜、いくらなんでもうちに責任なくない!?」


 椎菜が困った顔で南を睨むが、実際見た目で気に入られただけの南はどうしようもない。

 美少女無罪ならぬ美少年有罪だった。


 イラブションズ打線はなすすべもなく春堅相手に凡退の山。

 しかし、椎菜もそういう緊迫した状況でこそ集中が増すタイプだ。

 逆に相手が完璧な状況が椎菜の挑戦心を後押しした。


 春堅はパーフェクト、椎菜は三安打。

 どちらも球数90足らずで試合は八回まで0-0のまま進行した。


幾千の闇(サウザンドダーク)を纏うこの状況、先に動いた方が負ける……」


 行かせてください、と椎菜も主張する中。この緊迫した状況で、監督は椎菜を続投する選択肢をとった。

 まだ球数も二桁。長いイニングを抑えるという椎菜の計画は、成功となった。


 そして九回表。

 二死まで来て、バッターは三周目の9番……すなわち、涼城椎菜。

 ここで打てずに裏でサヨナラでも食らえば、パーフェクトゲーム達成だ。

 意地を、見せなければ。


 ここまでかすらせてももらえなかったボールにも、少し疲労の色が見える。

 そこを椎菜はカットし、粘った。

 2-2からファール、ファールで9球。10球目の際どいボールを見逃し、カウントは3-2。

 そこからさらにファール。


 ホームチームのエースが成るかパーフェクト、という大きな盛り上がりの中、椎菜はバットに当て続ける。


「しつこい子だね……」


 もう次の球で勝負。そう、春堅は決意した、12球目。

 不意に、春堅の視線がネクストバッターズサークルを追った。

 そこにいる、なんか疲れた顔をした浅利南を。


「フォアボール!」


 雑念……というか邪念が含まれた春堅の投球は、まるで南との勝負を望んでしまったかのように大きく外れた。

 粘って取ったフォアボール。春堅のパーフェクトが崩れる。

 そして打席は、浅利南。


 その初球だった。


「甘いっ!」


 南によって乗せてしまった春堅は、最後の最後に南のせいで集中を乱す。

 その投じた初球は高目に浮いてしまった。


「アァーン。南くん、しゅごいぃ」


 何故か打たれたほうがマウンドで絶頂する当たりは、弾丸ライナーでスタンドに飛び込む、先制ツーランホームラン。

 まさかのパーフェクト目前からの、椎菜と南、二人の打者によるどんでん返しだった。


 もしかして、春堅さんってめっちゃ詰めが甘い……?

 前対戦でも詰めの詰めに来て被弾した春堅を思い出し、助守は苦笑いしつつベンチに戻った椎菜と南を称賛した。

 そして、最後。


「ここまで辿り着いた者に、完封勝利(ファイナルファイト)の権利を与えぬは冒涜なりや」


 要はプロ初完封チャンスに降ろすほど野暮じゃないよ、と言いたいらしい監督の激励のもと、椎菜は最後のマウンドに向かう。

 さすがに9回の3アウトを取るのは、緊張感が違う。

 勝利の瞬間を、自身の投球で迎えるチャンスはこれが初めてだ。


 しかし、うっかり浮いた球を、打者は打ち上げる。

 少しミスしたはずの変化球も、捉えられたもののファースト寝歩足の正面をつき、2アウト。


 ……そうか、最後の瞬間に緊張するのは、僕だけじゃない。


 相手打者も焦りが見える。それに気付いた椎菜に、助守は自信を持って、最後のサインを送った。

 真面目な助守と椎菜だが、その生真面目さゆえに「最後の美学」には拘りもある。


「ドラゴニック……スカイ!」


 渾身の球が内角を抉り、ずどんとミットにおさまる。

 球速は、145kmを記録した。


「ストライク、バッターアウト!」


 ナインから、ベンチから、客席から、歓喜の声があがる。

 涼城椎菜、9回102球、完封勝利。目指した目標を、見事に達成してみせた。


「野々香さん、凄い投球を見せていただき、ありがとうございます。でも、負けません。僕もついて行きます」


 ヒーローインタビューのお立ち台にて高らかにライバル宣言した椎菜。

 野々香にわずかに遅れたものの、パリーグの女性投手初の完封勝利の称号を、見事に手に入れたのだった。



 涼城椎菜

 投球成績 5登板 34回 7自責点 24奪三振 防御率1.85 3勝0敗

 打撃成績 打率.308 0本塁打 12打点 出塁率.392 OPS .844 4盗塁


 浅利南

 打撃成績 打率.250 7本塁打 23打点 出塁率.291 OPS .766

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