3話 犬耳ミルンと角付き幼女.1
2026/08/03 加筆修正
小屋に突撃して来たプチ怒ミルンが、何故かマジギレミルンに早変わり。どうしてなのか意味が分からん。
「お父さんから──っ、放れろトカゲっ!」
ミルンの口から、侮蔑の言葉が出るだなんて……尻尾を逆立てて威嚇するとか、こんなミルンは初めて見るな。
「ふむ……むぐむぐ、美味いのぢゃぁ」
「こっちはこっちで、完全無視とか」
「何を言うかや。あの様な"獣"の戯言など、間に受ける事もないのぢゃ」
この異世界では、獣族に対して"族"を付けない呼び方は、彼ら、彼女らに取って、何よりの侮辱とされているらしい。ミルンに言うのなら、獣族か犬人族かケモ耳か。ケモだけだとアウトで、タコ殴りにされます。
「お前それっ……ミルンを煽ってんじゃん」
「煽ってはおらぬわ、事実を言っておるだけぢゃしのぅ。獣は獣なのぢゃ」
「ミルンは獣じゃないっ! 犬人族なのっ!」
「御主の様な小さいゴブ……おっと、ゴブリンと見間違えたのぢゃ。済まぬのぉ、"獣"」
「むううううううっ!!」
何で相対数秒で、お前らそんなに睨み合ってるの? ミルンなんか、今まで見た事のない程に、鬼の形相になってんだけど。
「なあミルン、朝御飯食べたか? 食べてないなら、直ぐに用意するぞ?」
怒ったミルンを、宥める方法。
一、頭や尻尾を、優しく撫でる。
二、飽きるまでひたすら、駆けっこする。
三、肉を食べさせて、御機嫌を取る。
特に三の肉を食べさせるに関しては、幾度も試したから、怒りを収めてくれる筈だ。
「ほらっ、お肉を挟んだ、美味しいパンだぞ」
「……要らない」
「えっ……ミルン、何て?」
「要らないっ!」
「いっ、要らないだってっ!?」
ミルンの好物ベストワンツーなのにっ!?
角を触る手が止まり、そのまま角付き幼女の頭の上へ落ちてしまい、「のぢゃぁぁぁ」と反射的に撫でてしまった。
「むうううっ、その子嫌いっ!!」
「あのミルンが、ストレートに嫌いって……お前マジで何したん?」
「あの獣には、何もしておらぬかや?」
そうだよな? ミルンと角付き幼女って、昨日の焼肉パーティーが初対面の筈だし。
「その子が、ミャーイちゃんとウミャリちゃんを襲ったって、村長に聞いたの。それに……っ、ドゥシャが言ってたの」
「(村長っ、何ミルンに漏らしてんのっ)」
「その角と尻尾。『あの子供は、竜種の類やも知れませんね』って、ドゥシャが言ってたのっ」
「んっ? ドゥシャさんが、何て?」
「その子っ、ドラゴンが化けた魔物っ!」
えっと、ミルンは何を言ってるのだろう。ドゥシャさんがこの角付き幼女の事を、竜種かもと言って、竜種って文字通り、あのファンタジー世界あるあるのドラゴンだよな。
「ふんっ。この我を、あの知能の低いトカゲごときと、一緒にするでないのぢゃっ」
「どう見たってっ、トカゲのソレなのっ!」
「トカゲではないかやっ!」
チラッと角付き幼女の、角と尻尾を再確認。角であれば、孤児院のケモ耳の一人である鬼っ子モスクだって、生えている。
「問題は……その目と尻尾か」
光に反射して妙な光沢感を出す、黒光りしまくっている、そこそこ大きな尻尾様。そして、爬虫類に良く見る、縦に伸びた瞳孔。
「なあ、お前ドラゴンなのか?」
「否定したばかりなのぢゃっ!」
「じゃあ魔物か?」
「それは同じ意味なのぢゃっ!」
ドラゴンでも魔物でもないなら、ミルンと同じ様な、獣族って事なのか?
「全くっ、御主らの目は節穴かや。良いぢゃろう、とくと聞くが良いのぢゃっ!」
偉そうに踏ん反り返ってるけど、口に秘伝のタレが付いてるから、偉そうに見えない。
「トカゲっ! トカゲっ! 大トカゲっ!!」
「我は龍っ! 古の時代より『トカゲっ! トカゲっ! 大トカゲっ!』っ、煩いのぢゃっ!!」
「へぇーっ、龍?」
「最後まで聞くのぢゃっ! 我はり『トカゲっ! トカゲっ! 大トカゲっ!』っ、煩いのぢゃああああああっ!?」
ミルンの弾幕口撃だわぁ、可愛いっ。
「さっきと立場が、逆転してんじゃん。龍と竜って、違いは何だっけ……んんっ?」
待てよ……言葉通り、龍や竜が人化したのが本当ならば、コイツの着てる服は、何処から持って来たんだ?
「なあ、角付き幼女さんや」
「何ぢゃっ!」
「怒らんでも良いだろうに。いや、一つ聞きたい事があってだな。それって、鱗か?」
俺が言ったソレとは、角付き幼女が着ている、真っ黒なドレスのような物。
「当たり前かや。我の鱗を変化させっ、古の服を再現しておるのぢゃっ!」
「鱗を変化って……それってお前、全裸じゃん」
「全裸ではないのぢゃっ!?」
鱗って体の一部だろ? それを使って、服を模してるだけで、鱗には違いない。
「いや全裸だろ……変態か?」
「誰が変態かやっ!?」
「トカゲっ! トカゲっ! 変態大トカゲっ!」
「トカゲでも変態でもないわっ!?」
この角付き幼女、さっきまで"戯言は気にしない"って言ってたのに、気にしまくって苛々してんじゃん。
「このっ、獣風情が……」
「変態大トカゲの癖に……」
「何この一触即発の空気」
ジリジリとミルンが摺り足で距離を詰め、角付き幼女は、俺を盾にするかの様に、横移動をしている。
「上を取るのぢゃっ!」
「えっ、ちょっと何してっ」
「そこはミルンの場所っ!!」
背中をよじ登り、ミルンの定位置である俺の肩に座り、踏ん反り返る角付き幼女。それを見たミルンの目が、更に険しくなった。
「下りろっ! 変態大トカゲっ!」
「ふふんっ、良い眺めなのぢゃぁ。下で獣がキャンキャンと、吠えておるわ」
「下りろおおおおおおおおおっ!!」
ミルンが迫り、角付き幼女の足首を掴んで、そのまま引っ張って落とそうとするが、角付き幼女は俺の頭をグワシッと抱え込み、ベッドロック状態にして放さない。
必然的に、こうなる訳だな。
「放してなるものかやああああああっ!」
「放せえええええええええっ!」
「あだだだだだだっ!? 首捥げるって、ちょっ、二人共っ! 力を緩めろおおおおおおおおおおっ!!」
異世界の幼女達って、力強過ぎだっての。




