2話 この子誰の子元気な子.4
2026/03/17 加筆修正致しました。
あの角付き幼女の事を、村長に報告すべく、屋敷へと戻って来たんだけど、その村長が、変な事をしている。
「なあ……村長」
「何かね流くん」
「何で外で、事務作業してんの?」
「屋敷の中には、入れぬのでな」
屋敷の外、入口の横で、体を縮こませながら、移住者達の名簿を、整理してるとか、奇妙な光景だぞ。
「小屋の一つを使って、その中でやれば良いだろ。風で書類が飛んだら、面倒じゃん」
「何を言っておるのだ。小屋は移住者達の家になるのだ。私が使う訳には、いかぬだろう」
「真面目だなぁ。そんな村長に、ヤバそうな報告があるんだけど、聞くか?」
「ヤバそうな……で、あるか?」
うわぁ、嫌な顔してるなぁ。でも御免、有無を言わさず報告します。
「移住者のケモ耳っ子達が、角付き幼女に襲われて、喰われそうになってたぞ」
「……むっ?」
「そんでそのまま、湖に逃げたんだ」
「むぅぅぅ……何を言っておる?」
「だーかーらーっ、移住者のケモ耳っ子達が、角付き幼女に、襲われたんだって」
この筋肉、理解しやがらないぞ。自分の胸筋を見詰めて、現実逃避してやがる。
「魔物かどうか分からんけど、水に長時間潜れるケモ耳って、居たりするのか?」
「ふむ……私の知る獣族には、居らぬのである」
「それなら魔物って、意思疎通出来たりするのか? その角付き幼女と、喋ったんだけど」
「意思疎通っ、喋っただとっ!?」
「急に大声だすなよっ! びっくりすんだろっ」
この村長の反応を見る限り、意思疎通出来る魔物は、存在する様だな。しかも、顔色が悪くなっている事から、相当不味いらしい。
「流君。もしもその幼女が、魔物であったならばっ、最上位個体の可能性がある」
「最上位? ハイオークの上か?」
「違う。オーク、ハイオーク、オーククイーンの上に、最上位個体であるオークキングが、存在するのである」
あのオークに、クイーンが存在するのか。そんなん、出会いたく無い魔物だわ。
「最上位個体ともなれば、国が討伐隊を編成して、事に当たる必要が有る」
「えっ……そんなにヤバいの?」
「意思疎通が出来ると言えば、聞こえは良いのであるが、"知恵が回る災害"と言えば、分かり易いであろう」
「知恵が回る災害……すんごい分かり易いわ」
あの角付き幼女が、もし魔物だったら、復興中のこの場所が、消し飛ぶレベルって事だ。
「でもなぁ……アレが最上位個体だとは、とても思え無いぞ? 俺の威圧にビビってたし」
「流君。念の為私も、確認するのである」
「ああ。角付き幼女が逃げた地点に、案内するわ。同じ所から出て来るとは、限らんけど?」
「構わぬ」
さてさて、あの角付き幼女、出て来るかね。
◇ ◇ ◇
恐かったのぢゃぁっ、恐かったのぢゃぁっ。何なのかやあの魔王はっ! 我の知っとる魔王共よりもっ、恐い魔王なのぢゃっ!
「ぽぽぽぢゃぷっ!」
あと少しで、新鮮な柔らかいお肉が、食べれたモノを……っ、ぢゃましおってっ! 力が戻ったらっ、仕返ししてやるのぢゃっ!
「がぽがぽぽ、ももぢゃっ!!」
うむぅ……水の中ぢゃと、喋りづらいのぅ。
それにしても、前に食べた肉は、中々に美味だったのぢゃ。誰か居ったが、こっそり獲物を奪ってやったのぢゃっ! ふはははっ!
「ぷぱぱぱっ!」
ゴキュルルルッと、お腹の音が煩いのぢゃ。
腹が減ったのぅ……流石にここまで待てば、あの魔王も消えとるかや?
「ぷぷぷ……」
何を怖気付いておるっ! 我は恐れられる存在なのぢゃからしてっ、あんな魔王を怖がる理由は無いのぢゃっ! でも、見つかると危ないから、こっそり行ってみるのぢゃ。
「ぽぱっ!」
次は怒られ無いように、確認してから食べるのぢゃ。これなら魔王も、手を出さまいて。名案なのぢゃっ! 我賢い!
「のぢゃぁ……居ないかやぁ……」
そぉっと湖から顔を出し、周囲を確認。
「良し良し、居ないのぢゃ」
這いずりながら陸へと上がり、そのまま辺りを散策して、肉を見付け次第喰らい付く。
「焼いた肉の方が、美味しいのぢゃがのぅ……贅沢は言ってられぬのぢゃ」
「ほう。この娘が、流君が言っておった者であるか。鬼人……いや、角の形が違うのであるな」
「のぢゃっ!? 誰かや御主っ!?」
しくじったっ! 此奴らしゃがんで、こちらから見えない様に、隠れておったかやっ!?
「ふんぬっ!」
その男?の筋肉が、盛りっと膨らみ、白い歯を見せて、笑顔で迫って来る。
「ムキムキなのぢゃっ!? 恐ろしい化物なのぢゃあああああああああっ!?」
「ふはははっ! ちょっと待ちたまえっ!!」
「喰われるのぢゃああああああっ!?」
全力で水に飛び込み、何とかあの、筋肉の大きい手から、逃れる事が出来た。
後少しで、角を掴まれるところぢゃったわ。
あの筋肉っ、ムキムキ向かって来て、魔王より恐ろしいのぢゃぁ、気持ち悪いのぢゃぁ。
「ぽぷぅ……」
もう少し潜ったまま、様子を伺うのぢゃっ。
◇ ◇ ◇
「逃したか……ふむぅ」
「惜しかったな村長。あの角付き幼女が、ケモ耳っ子達を襲ってたんだ」
「私を見て、逃げて行ったのだが?」
そりゃあ逃げるだろ。やたらと白い歯をチラつかせる、筋肉の塊が迫って来たら、俺だって全力で逃げるもん。
「村長の事を、新種の化物とでも、勘違いしたんだろ? んで、村長的に、あの角付き幼女は、魔物に見えるか?」
「最上位個体では無いな。彼奴らならば、私から逃げる事などあるまい。しかし……獣族かと問われれば、正直言って分からぬ」
「分からない?」
「うむ。見た事の無い形状の、角であったからな。鬼人のソレでは無いし、判断が付かぬ」
角の形状ねぇ……確かに、ドリルの様な、螺旋状の形をしていたな。アレに刺されたら、痛いじゃ済まなさそうだわ。
「にしても、あの角付き幼女が、同じ所から出て来るの、良く分かったな」
「獣族の習性である。彼奴らは、一度狩場を定めたら、獲物を仕留めるまで、その場所から動かぬのであるぞ」
「へぇーって事は、あの角付き幼女も、ケモ耳達と、同じかも知れない訳か」
「……どうであろうな」
少なくとも、俺の威圧や、村長の筋肉から、逃げる程度の存在。それなら、無理に捕獲せんでも、話し合えばなんとかなるか。
「ケモ耳っ子達を、襲ったって事は……空腹?」
「で、あろうな。あの者の腹の音が、少しばかり聞こえたのである」
「ふぅん。それなら、肉で釣るか?」
秘伝のタレを染み込ませた、肉の塊を使って、角付き幼女の一本釣り。
少し面白そうだな。
「その必要はあるまい。丁度商人から、大量の肉を買い付けたのである」
「ほぅ……何すんの?」
「ちょっとした、前祝いであるな。職人達も呼んで、皆で肉を食べるのであるっ!」
皆んなでワイワイ、バーベキューパーティーをすると? それで角付き幼女を、誘き寄せる算段か……天の岩戸?
「良いなそれ。ケモ耳達の励みにもなるし、職人達のヤル気にも繋がるか……」
「そうであるな。肉の代金は全て、ドゥシャ殿が支払っておる故、皆の懐も痛まぬ」
「そこは俺に、感謝して欲しいぞっ」
金貨二百五十万枚もする、世界樹の雫を、復興資金に充てたんだから。
「村を消し飛ばされた時は、どうなる事かと思ったが。正に、翼竜の鱗落としであるな」
「んっ? 何それ?」
「知らぬのであるか? 小さな村が翼竜に襲われ、壊滅したが、剥がれ落ちていた鱗を売って、村が復興を遂げ、繁栄したと言う諺である」
「諺のスケールがデカいんだよ」
怪我の功名みたいなモノか? 翼竜って、ワイバーンとかだろうか……見てみたいわぁ。
「っと、こんな事してる場合じゃ無いな。そんじゃ村長、宴の準備をするか」
「うむっ。久々に呑むのであるぞっ!」
「本音はそれかよ……」




