2話 この子誰の子元気な子.3
2026/08/03 加筆修正
そんなこんなで三日が経過。
流石にね、テント暮らしが辛くなって来たと言うか、ミルンと過ごしたい。
「だからこそっ! きょーうも今日とてっ、杭打ちだっ! やらにゃ終わらぬこの地獄」
ゴスっと打つと、腰に来る衝撃だなぁ。早朝からずっと、杭打ち杭打ち打ち打ち杭打ちって、終わる気配がしない。
「ミルンとっ、早くっ、遊びたいんじゃっ!」
マジでね、杭打ちミスると、親方から『何やっとんじゃ情けねぇっ! もっと腰入れて打ちゃあ良いんじゃっ!』って、怒られんのよ。
「運動不足の現代人にはっ、キツいってのっ!」
杭打ちの最中にも、空間収納を使って溝を掘ったり、石材や木材を運んだりと、色々便利に使われています。
「にしても職人達、家建てるの早いわ」
見た目はただの小屋。しかしその内装は、都会っ子の俺でも住める、満足仕様。水洗トイレに浴槽も完備とか、王都の人が見たら、羨ましがる小屋なんです。
「死ぬ程こき使われたけどな……良いんだけど」
空間収納で穴を掘りまくって、その穴が崩れない様、親方衆が石を組み、あっと言う間に上下水道の完成。水はどうするのかって? そんなん魔龍の川から、引き込みましたわ。親方衆に言われるがまま、あーだこーだと作業したから、仕組みなんて良く分からん。
「俺、重機扱いされてね?」
移住者達は、建てられた小屋へと、順次入居予定。そう、まだ予定段階。順番で揉めてるっぽいのよ。ドゥシャさんが補助に付いてるから、問題ないだろうとは思うけどね。
「日本だと年単位でかかる工程を、人員と物量とスキルを使って、一日二日で形にするとか。異世界凄えわぁ……」
移住者達の家を建てても、大半が空き地になるだろうし、色々と考えないとな。
「んで、問題はアレか……」
ここからでも見える、立派な壁。
「七メートル程の高さって言ったのに、どう見ても、二十メートルはあるよなぁ」
それが横に続いて、三日で何百メートル作ってんだよ、あの職人達。やっぱ化物じゃん。
「しかも、暗所作業をかまして、二十四時間交代制でやるとか……恐ろしい」
この世界が、一日二十四時間かどうかは、時計が無いから分からんけど、あの職人達が異常なのは、間違いないだろう。
「面倒臭いけど、行って確認するか」
のんびり歩いて、現場へ到着。したのは良いんだけど、職人達の護衛に付けたリスタが、案山子の様に固まっている。
「……リスタ、大丈夫か?」
「どうも、流さん。いやぁ、彼等凄いですね。ゴブリンやオークが来ても、石材で潰して……僕の出番がないんですよ」
「目が死んでんじゃん。まさかリスタ、寝ずの番でもしてんの?」
「僕の仕事は、彼等の護衛ですから」
それだと、三日間寝てないって事になる。交代制の職人達と違って、リスタは一人しか居ないんだから、寝て貰わないとだ。
「糞真面目過ぎるわっ!? テントに行ってアジュと交代っ! ちゃんと寝れっ!」
「はははっ、有り難う御座います」
そのままふらふらと、テントに向かって行ったけど、冒険者って皆んな、あんな感じなの?
「三日寝ずの番だから、七十二時間勤務……俺の社畜時代でも、一日四時間は寝れたぞ」
「おおっ! どうしたアンタっ! あんっ? あの小僧はどこ行きやがったんだ?」
「よっ親方。リスタなら休ませたぞ。代わりにアジュを来させるから、護衛は安心してくれ」
「それなんだがよ……」
親方の顔が、渋い顔になってるぞ? いや、元から渋い顔だけど、更に渋くなった。
「何かあったのか?」
「護衛なんだが、儂らには不要じゃぞ。ここいらには、ゴブリンやオークしか来ぬ様じゃし、儂らでどうとでもなるわい」
「そう言えばさっき、リスタが言ってたな。石材で潰してたって……分かった。それじゃあここには、護衛は要らないんだな?」
「要らんっ。寧ろ作業の邪魔じゃっ」
作業の邪魔とは、流石、化物職人。
「それは了解した。んで、ついでだから聞きたいんだけど。この壁、俺が伝えた高さの、二倍以上あるんだけど?」
「何じゃ? 文句でもあるのか?」
「文句じゃないけど、理由を説明しろっての。お前ら、村長にも言ってないだろ」
「ふんっ……石材が潤沢に使えるからの。儂らからの、ちょっとしたサービスじゃよ」
「本音は?」
「……低い壁より高い壁の方がっ、格好良いじゃろっ! 儂らは職人っ! やるからには妥協をせずっ、最高の物を作るのじゃっ!!」
つまりはこの親方。七メートルの壁を、ショボく感じて、どうせならもっと高くしてやろう、石材は山の様に有るのだから。と、変な勢いそのままに、やってしまった訳だ。
「次相談もなしに勝手な事したら、マジで怒るからな……頼むから相談してくれ」
「ふんっ、分かったわい。王都でやらかしたかの魔王に、睨まれたくはないからのうっ」
「魔王じゃないっての。んで、この壁って何処から上がれば良いんだ?」
「向こうに階段を作っておる。儂は作業に戻るからの、落ちるでないぞっ」
「へいへい、作業宜しくーっ」
内側に階段とか、完全に城壁だろ。王城の壁と違って、内部に部屋はなさそうだけど、やり過ぎ感が半端ない。
「どっこいしょっと。ふぅ……絶景だわぁ」
壁の上から見渡す風景は、中々に綺麗だ。自然豊かと言うか、あの糞デカい大穴にも、良い感じで水が溜まって、湖になってます。
「この規模だと、村じゃなくて町になるんじゃね? 完成には程遠いけど……まあ良いか」
要は、仕事が終わらないって事。
「逃げてぇぇぇっ。けど、この国の事すらあんまり知らんのにっ、逃げれる訳ないかぁ」
どうにかして、ミルンや他のケモ耳っ子達と、働かずに暮らせないだろうか。
「働きたくねぇ……おっ、ここからでも、ケモ耳っ子達の遊んでる姿が良く見えるわ」
移住してきた、ケモ耳っ子達だろう。仲良く追いかけっこしてるし──んんっ? あんな角の生えた幼女、見た事ないな。
「ここからでも見える角だし……なんだ?」
ここから見る限りだと、二本の角を生やした幼女が、他のケモ耳っ子を追いかけながら、その口を開けて、食べようとしている風に見えるんですけど。
「おいおいまさかっ……ケモ耳っ子達っ、襲われてるのか! 人型の魔物とかいんのかよっ!」
直ぐに階段を駆け下り、そのままの勢いで真っ直ぐ全力短距離走。前傾姿勢を保ちつつ、前に飛ぶ様にして走る。
「おおおっ! 前より少し速くなってないかああああああああああっ!」
この速さなら、地球で言うと、チーターさんにだって、勝つ自信があるね。半魔王ステータス様々だろう。
「うっしゃ見付けたっ! そこの幼女何してんだああああああ──っ? ととっ、止まれないんだけどおおおおおおおおおっ!?」
格言だ。流は急に、止まれない。
「どおりゃああああああっ!!」
勢いを殺す為、ケモ耳っ子達を襲っている、角付き幼女の角を掴み取り、素早く腰と膝を曲げての────ジャンピング跳び膝蹴りっ!
「のぶちゅっ!?」
角付き幼女の顔面に、俺の膝が見事に突き刺さり、数メートル後方の湖となった穴へと、ボチャン──と突っ込んで行った。
「ふぅ──っ、何今の感触……膝が痛てぇ」
例えると、車のタイヤに膝蹴りをかました様な、人肌と違う硬さだった。本当に人型の魔物なのだろうか。
「まおーさまっ」
「おっと、優先すべきはケモ耳っ子だ。大丈夫だったか? 怪我とかしてない?」
「むぅっ、なんであの子蹴ったのっ!」
あれぇ……何か俺、睨まれてる? 襲われてるのを、助けたんだけどぉ。
「んっと、猫耳さんや。あの角付き幼女に、襲われてた訳じゃあないのか?」
「まものごっこしてたのっ!」
「魔物ごっこっ!? それじゃぁ、そこの虎耳さんや。あの角付き幼女は、知り合いか?」
「違うよ? ここで遊んでたら、いつの間にか混ざっていたの。凄いぐわあああって来たよ」
ほうほう……知らない子だけど、魔物ごっこをして、仲良く遊んで居たと。
「うん……じゃあさっきの角付き幼女っ、助けないと不味いじゃんっ!?」
そう思い、急いで湖の中へ飛び込もうとして──さっきの角付き幼女が、鼻を押さえながら、ザプンっと湖から姿を現した。
「ぬぐぅぅぅっ、痛いのぢゃっ。なぜ我にっ、この様な仕打ちをするかや」
「マジか……おいっ、大丈夫か?」
「御主誰ぞっ?」
「すまん。俺の勘違いで、膝蹴りかましちゃったんだ。怪我とかはしてないか?」
「我を蹴ったのは御主かやっ! あと少しでっ、美味い肉が喰えたものをっ!」
「んっ?」
今この角付き幼女、何て言った? 美味しい肉が喰えた? どこに肉あんの?
「えっと、肉なんてないぞ……」
「何を言うておるっ! そこにあるではないかやっ! 若くて新鮮な肉なのぢゃっ!」
「んっ? んーんっ? うん……んんっ?」
角付き幼女の指差す先には、可愛い猫耳幼女と、可愛い虎耳少女の二人しか居ない。こいつやっぱり、人型の魔物じゃね?
「ふぅ……"威圧"さんカモーンヌっ!」
半魔王の称号を得て出せるようになった、俺の怒りを圧迫に変えて放つ何かだ。大人でも震え上がる程の、殺気を漏らせるぞ。
「コレはっ、おっ、御主は魔王なのかやっ!?」
「魔王だったら、何だっての?」
この角付き幼女、魔王って言ったな……この世界って、ガチで魔王が存在するのか。
「まっ、今はどうでも良いか。んで、お前は誰で、何処から来たんだ? なんであの子達を食べようとした……お前魔物か?」
「しっ、失礼なのぢゃっ! 魔物と一緒にするなぞっ、今の魔王は阿呆なのぢゃっ!」
「脚震えてるぞーっ。もう一度聞く……お前は誰で、何処から来た? 次はない」
「ひぃっ!? 何と目付きの悪い魔王かやっ! 今は力が出ぬっ、逃げるのぢゃっ!」
「なっ!? 待てそっちは────」
急に角付き幼女が走り出し、そのまま湖に突撃して、ザブンっと沈んで行ってしまった。
「人じゃないのは、確実だけど……水陸両用角付き幼女って、属性過多だろっ」
あの角付き幼女が魔物なら、このまま湖に魔法を撃って、蒸発させてしまおうか。
「……また隕石降ったら、ヤバいもんなぁ。今回は、止めておくとしますかね」
「まおーさま、さっきの子は?」
「どこいったの?」
「さあ? 疲れてお家に、帰ったのかもな。それよりも、知らない人が居たら、遊ばず誰かに報告しなさい。分かったか?」
「はーい」
「次からはそうしまーす」
「そうしてくれ……村長に報告しておくか」
そんなこんなで、角付き幼女の事を村長に報告すべく、屋敷へと戻って来たんだけど、その村長が変な事をしている。
「なあ……村長」
「何かね流くん」
「何で外で、事務作業してんの?」
「屋敷の中には入れぬのでな」
屋敷の外、入口の横で体を縮こませながら、移住者達の名簿を整理してるとか、奇妙な光景だぞ。筋肉が邪魔だろうに。
「小屋の一つを使って、その中でやれば良いだろ。風で書類が飛んだら、面倒じゃん」
「何を言っておるのだ。小屋は移住者達の家になるのだ。私が使う訳にはいかぬだろう」
「真面目だなぁ。そんな村長に、ヤバそうな報告があるんだけど、聞くか?」
「ヤバそうな……で、あるか?」
うわぁ、嫌な顔してるなぁ。でも御免ね村長、有無を言わさず報告します。
「移住者のケモ耳っ子達が、角付き幼女に襲われて、喰われそうになってたぞ」
「……むっ?」
「そんでそのまま、湖に逃げたんだ」
「むぅぅぅ……何を言っておる?」
「だーかーらーっ、移住者のケモ耳っ子達が、角付き幼女に襲われたんだって」
この筋肉、理解しやがらないぞ。自分の胸筋を見詰めて、現実逃避してやがる。
「魔物かどうか分からんけど、水に長時間潜れるケモ耳って、居たりするのか?」
「ふむ……私の知る獣族には、居らぬのである」
「それなら魔物って、意思疎通出来たりするのか? その角付き幼女、喋ったんだけど」
「意思疎通っ、喋っただとっ!?」
「急に大声だすなよっ! びっくりすんだろっ」
この村長の反応を見る限り、意思疎通出来る魔物は、存在する様だな。しかも、顔色が悪くなっている事から、相当不味いらしい。
「流君。もしもその幼女が、魔物であったならばっ、最上位個体の可能性がある」
「最上位? ハイオークの上か?」
「違う。オーク、ハイオーク、オーククイーンの上に、最上位個体であるオークキングが、存在するのである」
あのオークに、クイーンが存在するのか。そんなん、出会いたくない魔物だわ。
「最上位個体ともなれば、国が討伐隊を編成して、事に当たる必要が有る」
「えっ……そんなにヤバいの?」
「意思疎通が出来ると言えば、聞こえは良いのであるが、"知恵が回る災害"と言えば、分かり易いであろう」
「知恵が回る災害……すんごい分かり易いわ」
あの角付き幼女がもし魔物だったら、復興中のこの場所が、消し飛ぶレベルって事だ。
「でもなぁ……アレが最上位個体だとは、とても思えないぞ? 俺の威圧にビビってたし」
「流君。念の為私も、確認するのである」
「ああ。角付き幼女が逃げた地点に、案内するわ。同じ所から出て来るかは、分からんけど」
「構わぬ」
さて、あの角付き幼女は出て来るかねぇ。




