1話 やらかし男の後始末.1
2026/03/09 加筆修正致しました。
大きな木槌を、杭目掛けて振り下ろし、ゴッゴッゴッと、何度も地面に打ち付け、簡単に抜けない様に固定する。
「ふへぇ……疲れる……」
チラッと目線を右に動かせば、直径何百メートルという穴に、水が湧き出て来ており、あれは地下水だろうか。
「どっこいしょ」
汗を拭い、穴を見ながらの、軽く小休憩。
右を向けば、瓦礫が散乱する荒地。
「……果てしなき重労働ってか」
左を向けば、トントントンと、まるで太鼓を鳴らすかの様なリズムで、小屋を仕上げて行く、建築屋のおっさん達。
「……むさっ苦しい男衆だなぁ」
あの建築屋のおっさん達の為に、"ここに家を建てて下さい"と目印を打つ。その為に、延々杭打ちをやってるんだけど……終わりが見えない作業なんです。
肉体的にも、精神的にも、疲弊するわぁ。
「なんで俺が、こんな事をせにゃならんのか……自業自得だよねっ! 分かってますよっ!」
村に隕石爆撃かまして、ほぼ更地にしちゃったのは、悪いと思ってるんだ。
わざとじゃ無い。
だからそろそろ、許して欲しい。
「自堕落な生活したーい。働きたくなーい。ミルンをモフってゆっくりしたーい」
「こらぁっ! 杭打ちを早よして貰わんと、小屋が建てられんだろうがっ!」
「チッ、親方が来やがったか。わーってるよ! やりますっ! やりますからっ!」
杭打ち強制再開です。
力ステ低いから、全力で木槌を振っても、地面に中々、刺さってくれないんだ。
「えーんやこらさっ! どっこいしょーっ!」
そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は小々波流。アラフォー間際の、立派なお兄さんだ。
あっ? 誰だ今おっさんって言った奴。
身体はおっさんだけど、心は少年のままだから、間を取ればお兄さんだろ。
「脳内一人芝居乙っ」
「こらぁっ! 手を動かさんかっ!」
「やっとるわっ!」
後悔先に立たず、覆水盆に返らず。心身的にも、物理的にもやっちゃったから、文句は言うけど、やるしか無い。
「予定と違うなぁ……何でこんな事にっ」
俺は、全力で木槌を振るいながら、この何も無いラクレル村へ、戻って来て直ぐの事を、思い出していた。
さて、今この現状を伝える上で、これまでの経緯を、説明しなくてはならない。
絶賛タコ殴られ中だけど、それは無視して欲しいと言うか、意識を保つ為に、必要な事なのだと、理解して欲しい。
「おとうさんっ! そこっ! そこよけるの!」
マウントを取られているのに、避けろと無茶を言って来るのは、犬耳幼女のミルン。俺を助けてくれた、心優しい肉食娘だ。好物は、オークの生睾丸。
食料品店で夜食を買込み、家に帰ってのんびりと、ネットサーフィンを楽しむ、筈だった。
いつの間にやら森の中。
豚野郎と鬼ごっこ。
崖からダイブで意識が飛んで、起きたら目の前に、犬耳娘のミルンが居た。
「ふはははっ! まだ息があるのだなっ!」
んで、俺にマウントを取って、笑顔でタコ殴りしてる筋肉は、ヘラクレス・ヴァント。
ミルンとなんやかんやあって、逃げた先で、良くして貰った筋肉だけど、ミルンを傷付け、殺そうとしてたから、俺が村ごと蹂躙かまして考えを改めた、ラクレル村の村長だ。
「旦那様は、ゴブリン並みの、生命力に御座いますね。流石に御座います」
この人は、良く分からん。
ここには居ない聖女、リティナ・オルカス。
猫耳メイド、ニアノールさん。
この二人に、王都へと連れて行かれ、孤児院の院長、影さんと出逢い、ケモ耳っ子達と触れ合って、色々あったのよ。
ジアストールの女王、ルシィを泣かしたり、大聖堂を消炭にしたり、短い期間で、本当に色々とあった。
結局、孤児院のケモ耳っ子達を、無人となったラクレル村へ移住させ、モフモフパラダイスを作ると言う話に、なったんだ。
そこに付いて来たのが、このドゥシャさん。
ミルン付きの、メイドさん。
「ふぅっ……村の状況を、見に行くのである」
「おとうさんのおかお、ぱんぱんっ」
「呼吸、脈拍共に、正常に御座います。ヘラクレス様。加減なさったのですね」
「当たり前である。流君にはしっかりと、働いて貰わねばならぬからな」
ここで問題です。何故俺は、村長にタコ殴りされて、引き摺られているのでしょーうか!
答えは簡単。
孤児院のケモ耳っ子達を連れて、ラクレル村近くまで帰って来たら、魔物に占領されていたから、魔法でちゅどんっ!
隕石落下で、魔物だけでは無く、村も一緒に消えました。だからタコ殴りされたのよ。
「びばび……ばべべび……」
「つんつん。いたそうなの」
「ばべべでべ、びぶん?」
「なにいってるのか、わからないっ。つんつん」
ミルンさんや。俺がなんて言ってるのか、絶対に分かってて、つんつんしてるよね?
尻尾が楽しく動いてんのよ。
そうして簀巻きにされ、ラクレル村……跡地まで、状況を確認しに来たけど、コレは酷い。
「魔物は、全滅であるな。しかしコレは……どうしたものであろうか」
「獣族達に、住まわせる予定の家屋が、全壊に御座いますね。残っているのは……」
「流君に貸していた、あの屋敷であるな」
「ぶべぇば。ばんべぼぼっべぶんば?」
隕石の衝撃に耐えるとか、凄くね?
今にも倒壊しそうな、ボロ屋敷なのに、周囲の木は倒れ、木炭の様に焦げ、雑草も燃え尽きてるのに、普通に建ったままなのよ。
「ふむ……取り敢えず、孤児院の子供達は、あの屋敷で、寝泊まりをして貰うとしよう」
村長はそう言うと、遠くに停めてある馬車に向かって、手をぐるっと回して合図を送る。
馬車が来るまでに、ボロ屋敷の内外を確認して、寝泊まりする分には、問題は無さそうだ。
「お待たせしました……酷い荒れ様ですね」
「まったくだ。そこの馬鹿者が、考えも無しにあの様な魔法をっ……」
「ぢょっぼばっべっ!? ぼぶばぶぶばっ!」
村長が拳を握ったので、顔を必死に逸らします。簀巻きだから、逃げれないのよ。
サンドバッグ流っ、爆誕っ!
「顔面腫れてんのに、何か元気だよな?」
「タフなのであろう。それで済まぬが、リスタ君とアジュ君。至急、王都に戻り、商業ギルドへ、依頼を出して来てはくれぬか」
「この状況ですからね……馬をお借りしても?」
「構わぬ。依頼の金は、流君に負担させる」
「ばっ? ばびびっべんぼ?」
商業ギルドへの依頼料は、俺に負担? そんな大金、俺が持ってるとでも思ってんの?
「ヘラクレス様。どうせならば、旦那様に支払われる棒給も、充てては如何でしょうか」
「それは良いな」
「ぼぶばいばっ!? ぼべぼぼぼっ!」
「そうかそうか、了承してくれるかっ!」
「びばぶっ!?」
この村長っ、俺の滑舌が悪い事を利用して、なし崩し的に、金を毟り取る気だ。
「ねえ、そんちょう」
「何かね、ミルン君」
「おとうさんね、あのスキルに、おかねたくさんいれてるの。こがねもちっ」
ミル──ンっ!? それ言ったら駄目っ!
「ほぅ……流君」
「ばんば……」
「全部出すのだ」
この異世界で、また無一文スタートですか?
「ぼんばぼぶばびばっ!?」
「おとうさん、いやがってる?」
「この惨状の責任を、取って貰わねばならぬ。諦めて全て出すのだ」
異世界で、もう無一文は嫌だ。
金の裸婦像とかも、希少な鉱物だから、手放したく無いし、何か他の物は無いかと、"空間収納"内を確認する。
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(一覧)
ミルンの尻尾の毛玉
ミルンの耳毛
ミルンの髪の毛
肉屋の在庫▼
花屋の在庫▼
農作物▼
資材▼
汚れた村人A装備セット
門兵Dの不倫相手の家の鍵
門兵Fの不倫相手の家の鍵
門兵Hの不倫相手の家の鍵
隊長室の扉の鍵
門兵詰所の鍵
門兵女性用詰所の鍵
流れのお金▼
ミルンのお金▼
ルシィのお金▼
ミルンのお洋服一式▼
ミルンの私物一式▼
ミルンの牛っぽい肉(500キロ)▼
ミルンの豚っぽい肉(300キロ)▼
ミルンのコカトリスの肉(198キロ)▼
肉のタレ▼
ケモ耳っ子達の私物一式▼
オークの骨▼
コカトリスの骨▼
ミノタウロスの骨▼
オーク肉(695キロ)▼
コカトリスの肉(498キロ)▼
ミノタウロスの肉(499キロ)▼
米っぽい作物▼
米っぽい作物の稲▼
王都の香辛料▼
王都の作物の種▼
王都の野菜▼
王都の果物▼
王都のキノコ▼
王都の調理器具セット▼
王都の食器セット▼
王都の建築資材▼
王都の家具▼
金の器
金の皿
金の精霊像
金の裸婦像
金の塊(二キロ)
金のブレスレット
金の鎧
金の盾
金の剣
金の指輪(十個)
世界樹の雫
世界樹の枝
回復薬(二十個)
解毒剤(十個)
万能薬(十個)
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視線で操作出来んの、初めて知ったわ。
金以外の物となると、世界樹の枝か雫だが、枝は取っておきたい。
植えてみたいからな。
ならば残るは……世界樹の雫。
「ばっ……ぼべべぼうびば」
空間収納から、慎重に手の平に出して、後ろ手に村長に見せてみる。
絶賛ロープで、簀巻きされ中ですもん。
「何だねそれは? 金貨では無い様だが」
「べばびぶぼ、びぶぶ……」
「何を言ってるのだ?」
うん……顔腫れてるから、伝わらない。
村長は小瓶を受け取り、まじまじと見ているけど、落として割れたら洒落にならんぞ。
「さっきから、何をしているのです」
「院長殿。流君から、金を貰わねばならぬのだが、何故かこんな物を渡されてな」
「それは、薬でしょうか」
馬車の荷台から降りて来た、この金髪美人エルフさんが、孤児院の院長、影さんだ。
謎が多過ぎる、不思議エルフさん。
「拝見させて頂いても?」
「構わぬ。私は薬に疎くてな」
「ふむ……小瓶は既製品ですね……っ!?」
院長影さんは、村長から小瓶を受け取って直ぐ、口を半開きにして、目をクワッとさせ、震え始めた。鑑定でもしたのだろうか?
「せっ、世界樹の雫っ!?」
「世界樹の?」
「雫で御座いますか……国宝級に御座いますね」
「なあにそれ?」
院長影さんの反応に、村長とミルンは疑問の顔を浮かべたが、ドゥシャさんだけ、その価値を示してくれた。
「ぼべっべ、びぶばぶばび?」
喋りにくいので、指を使って、幾らなのとジェスチャーしてみる。
「流さん。世界樹の雫で、現存している物は、この国で一つ、隣国で二つのみです」
合計三個しか無いの!? 超レアアイテムじゃん。ドゥシャさんが言った、国宝級と言うのも、分かる気がするわ。
「ですので、この小瓶に価値を付けるならば、最低でも、王城五つ分。金貨二百五十万枚以上の価値があるかと……」
「ばびべっ!? びぼびぶぶぶんっ!?」
物価の安いこの国だと、一生どころか、子々孫々に至る迄、遊んで暮らせる金額です。
二千五百億ストール。
そんな大金になるなら、ラクレル村を復興させても、余りまくるじゃん。勝組人生謳歌しながら、ケモ耳っ子達と暮らせるじゃん。
流は変な踊りを踊った。
頭が混乱している様だ。
そんなん当たり前だろっ!!
「おとうさん、へんなおどりしてるっ」
「流さん。小躍りしている所、申し訳ないですが、その様な大金を得る事は、難しいかと」
「べっ? ばんべ?」
「売りたいと思っても、そもそも買える人がいません。貴重過ぎるのです」
「ぼっ、ぼんば……」
何その、天国行きのチケット貰ったのに、ダイレクトに奈落行きみたいな言い方。上げて落とすと言うか、叩き付けられたぞ。
「王城五つ分なぞ、無理であろうな」
「おとうさん」
「ばんば?」
「たからのもちぐされ?」
ミルンさんや、その通りだね。
国宝級、金になるかと思いきや、貴重過ぎて、売るに売れぬこの状況。
簀巻きのまま、三角座りになりました。
「でしたら旦那様。僭越ながらその雫、このドゥシャめに、お譲り頂けないでしょうか」




