プロローグ②
2026/03/08 加筆修正致しました。
ジアストール王城の執務室にて、書類の山に目を通す、赤き瞳の、目付きの鋭い女。女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストール。
その側で、だらしなくソファに腰掛け、焼菓子をボロボロと、口から溢しながら頬張る聖女、リティナ・オルカス。
「……相変わらず御主は、食べ方が汚いのぅ」
「ウチは貴族ちゃうからな。聖女って言われとんのも、教会が勝手に言っとるだけやし、気にせんでええやろ」
「少しは気にせよ。国としても、御主を聖女として認めている以上、最低限のマナーは、身に付けて欲しいものじゃぞ」
「そんなん知らんわ。何なら聖女の称号、あの恵の一本生やす者に、渡したろか?」
更地となった頭皮に、一日一本恵みを与えると言う、貴族達の救世主。
「あの者は男であろう。聖女にはなれぬ」
「女王がそない、考えが凝り固まっとったら、あかんやろ。男で聖女……おもろいやん」
「どこがじゃ。して、彼奴は行ったのか?」
「流にーちゃんやろ。ちゃんと見送ったわ」
餓鬼共も、皆んな笑うとったし、あれなら安心して、任せられるやろ。
「これで少しは、この王都も静かになるの。彼奴の所為で、どれ程忙しくなったか……」
「それにしては、口元笑うとるで?」
「ふんっ、笑っておらぬわ」
嘘こけや。長く手が出されへんかった、教会の膿を出し切って、何かと後ろ暗い噂が絶えへんかった、あの大臣を処分出来たんや。ウチなら絶対、大爆笑するで。
「ひゅんで、ひゃにょひょんひゃがひてふへはん?」
「食べながら話すで無いわっ! 飲み込んでから喋らぬと、御主の言葉は分からぬっ!」
「んぐっ……ウチが頼んでた本は、見付けてくれたんか? それが見とーて、わざわざここに残ってんのやで」
「分かっておるわ、もう見付けておる」
ウチがこの王都に残って、調べとる事とは、魔王と呼ばれたにーちゃんが使った、意味不明な魔法の事や。
「魔法云々の書は無かったが、魔王に関する書物を、見付けたのじゃ。影、来るのじゃ」
「こちらに」
「うひっ!? 急に現れんなやっ!」
このジアストールの暗部共、気配を消して来おるから、心臓に悪いねん。
「この本やな、あんがとさん」
「では、失礼致します」
そしてそのまま、歩いて部屋を出て行く。
「いや、歩いて出て行くんかい!? 何や出て来た時みたいに、パッと消えんかい!」
思わず突っ込みを、入れてもうたやん。
恐ろしいわ、影っちゅー人ら。
「まあええわ、見させて貰うで」
「好きにすれば良かろう」
「上から目線やなぁ……ふんふん。女王あんた、この本の中身、見た事あるんか?」
女王は眉を上げ、首を横に振る
「儂は昔の魔王なんぞに、興味はないからの。興味があるのは、今の魔王だけじゃ」
「あんた、不勉強過ぎるやろ……」
「何じゃ? 面白い事でも、書いてあるのか?」
「面白くは無いで」
その本は、ジアストールの歴史書。
冒頭のこの内容が、事実であるならば、あの流にーちゃんと出逢った村。その近くに流れる魔龍の川には、その名の通り、魔龍が封印されている、可能性がある。
「……ここじゃ、読み切られへんな。なあ女王、この本借りてもええか?」
「構わぬ。ただの本じゃし、読み終わったら、返してくれれば良い」
「そんじゃ、ニアも待っとるし、ウチは行くわ」
ニアはずっと、扉の向こうで立っとるし、そろそろ、休ませなあかんあらな。
「うむ。次に会う時までには、少しでもマナーを、身に付けて来るのじゃぞ」
「うっさいねん。ほな女王、この本貸してくれて、有難うなーっ」
「……はっ?」
リティナが女王に対して、礼を言う事など、今まで一度も無かった事。女王は訝しみ、聖女リティナの監視を、影に命令した事を、聖女リティナは、まだ知らない。
「お待たせや、ニア」
「大丈夫ですよぉ。それでぇ、お目当ての本は、見付けたのですかぁ?」
「それは、読んでみんと分からんな」




