side1 ミルン.3
ママは後ろを振り返らず、ただ私を抱えて走り続け、森の奥、魔龍の川という場所まで辿り着いた。
「はーっ、ミルン、大丈夫?」
ママは苦しそうな、悲しそうな顔を無理矢理笑顔にして、優しく心配してくれる。
「ママ、だいじょうぶ?」
私はママに抱きつくと、ママも私に抱きついて泣いてしまった。大きな声を出さない様に、歯を食いしばり、唇を噛み、パパの名前を言いながら、私の顔に涙がおちてくる。
それから半日は経っただろうか、安全だと判断したママは、獣族には使えないとされていた魔法で木を切り出し、考えながらこうでもない、ああでもないと小屋みたいな物を建てた。
「雨風凌げれば大丈夫でしょ」
身体を動かして多少元気がでたママが、建てた小屋を見て満足そうに尻尾を振っている。
私もお手伝いがしたくて木を集めていると、声が聞こえた。
「パパ?」
そのまま声の聞こえた方へと歩き出し、森の中へと進んで行くと、そこには、剥製で見たあのオークが十体だろうか、群れを成して休んでいた。
「ヒッ!?」
私は生きている姿を初めて見て後退り、声を出してしまって、一斉にオーク達の眼が私に向く。
「プギャアアアグロガァアアアアアアア!?」
「プギャアアアオア!」
「プギャアアアプゴォ!」
「プギャアアア」
一番大きなオークが叫ぶと、周りに居たオーク達が涎を垂らしながら叫びゆっくりと立ち上がり私に迫って来る。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、と思うけど脚が震えて動かないし、声もでない。
オークの口が開き、私を噛み砕かんとした時、私の身体が横に飛ばされた。
地面に身体を擦られながら転がり倒れる。
何が起きたのか分からないまま、もといた場所を見ると、ママが右腕をオークに噛まれたまま私を笑顔で見ていた。
「くそ痛いなっ! でも、私の可愛いミルンに何するのよこの豚どもっ!!」
そう言ってママの右腕を噛んだままのオークを魔法で真っ二つにして、血が流れ出てる事を知らないかの様な動きでオークを蹂躙して行く。
でも、その動きが徐々に遅くなって、一番大きなオークがママに向かって行くとー
「ゴガァアアアアアアアアアア!!」
ー横降りのオークの腕がママのお腹に刺さり、そのままママが血を吐き転がっていった。
私は何とか起き上がり、ママに走って行く。
「ミルンっ! 逃げて!!」
ママが叫ぶけど私はオークの前に立ち、手を大きく広げてママを守る。
「ミルンっおね…がいっ!」
「いや! ママはミルンが守るもん!
絶対! 守るもん!」
オークの腕が私とママに振り落とされる。
私は目を閉じ、パパを呼んだ。
ママを助けて! パパ!!
「間に…合ったっ! ふっ!!」
思いが通じたのか、オークが横にブレたと思ったら、上半身と下半身が別れて血が噴き出した。そこに居たのは。
「パパ!!」
私はパパに抱きつき、ママを助けてと泣き叫ぶ。
パパは私を抱っこして、ママに肩を貸し、そのままゆっくりと小屋へ歩いて行った。