1話 やらかし男の後始末.4
2026/08/03 加筆修正
今日の夕飯は、山盛りロールキャベツ。ミルンが巻き巻き機になったお陰で、百個のロールキャベツが、出来上がりました。
「どっこいせっ。ミルンは寝ている皆んなを起こして、食堂まで連れて来てくれ」
「分かりましたっ」
えっちらおっちら鍋運び。皿を準備して、皆んなが来たら配るとしますか。そうしてボーッと待ってたら、足音がドドドドと迫って来て、腹ペコケモ耳っ子の到来だ。
「ごはーんっ!」
「こらラカスっ! 落ち着きなさいっ!」
「ラカスはおちつきがないっ」
「腹減ったぁ」
「おなか……へったぁ」
「なんのおにくですかぁ」
「むうううううっ、はらぺこでーすっ!」
猫人のラカス、狐人のノーイン、人間のノリスに、鬼人のモスク、種族不明のラナス、羽人のコルル、モンゴリ君だな。
「ほら、そんちょ。はやくっ」
「ごはんっ、ごはんっ」
「分かっておる。そう急かすでない」
「お父さん、連れて来たの!」
村長にくっ付いて、メオとミウも来たな。
「連れて来てくれて、ありがとさん」
「ミルンはここに座る」
「はいよ、そこはミルンの席だな」
ドゥシャさんと院長影さんが来ないな。今の内に、配膳を済ませるか。と言っても、ケモ耳っ子達の前の皿に、ロールキャベツを盛り付けて、後は二人を待つだけ。
皆んなの目が、怖いわぁ。特に、犬人のミルンとミウよ。二人共の口から涎が滝です。
「大変お待たせ致しました」
「旦那様、私目はミルン御嬢様のお世話を致しますので、どうぞお先に、お召し上がり下さいませ」
来て早々何を言ってんの、この人は。
「ドゥシャさん。ご飯は皆んなで食べるからこそ、美味しいんだ。そこに座りなさい」
「っ……畏まりました。ミルン御嬢様、お隣に失礼致します」
「どうぞどうぞ、じゅるっ」
うしっ、これで全員揃ったな。
「それじゃあ皆んな。手を合わせて、頂きます」
「「「いただきますっ!!」」」
はいっ、ロールキャベツ全滅しました。百個なんて、食べ切れないだろうと思っていたのに、見事になくなったわ。
「……ミルンのお腹が、スイカだなぁ」
「うっ、動けないのっ、助けてお父さんっ」
「食べ過ぎだっての」
「抱っこっ……お部屋に連れてって」
「また抱っこか……」
腕をぐるぐる、腰を回してのストレッチ。そのまま持つと、ギックリ腰が怖いからね。
「行くぞっ! どっせいっ! おもっ……くないよっ! こんなの軽い軽いっ!!」
「……失礼なのっ!」
「鼻に手を近付けないでっ!?」
一歩一歩ゆっくり歩いて階段を上がり、二階奥の部屋である、俺とミルンの部屋に入り、置いてあるベッドへ全力の放り投げ。
「どりゃあああああああああっ!」
「わぷっ!?」
「っ、はぁっ、はぁっ、腕死ぬかと思ったわぁ」
「ふがふがっ……すぅ、すぅ……」
「えっ、もう寝たのっ!?」
顔面からお布団にダイブして、僅かな時間で夢の中って、疲れてたのか。
「そりゃ疲れるか。隕石落下から、ずっと動いてたもんな。俺も少しだけ……寝るとするか」
少し寝たら、ドゥシャさんと院長影さんに、村の状況を説明しないとだ。そう思い、ミルンに毛布を掛けて、その隣で横になり、そっと目を閉じ────「お父さんっ! もう朝なの!」とミルンの声で目を開けたら、ぐっすり爽快朝でした。報告する約束だったのに、ドゥシャさんに軽く怒られましたとも。
そうして、隕石なんてあったっけ? と思う程のんびりとした日が続き、その四日後。ようやく、リスタとアジュが帰って来た。
大量の移住希望者を、引き連れてな。
それは、朝の運動がてら、のんびりと散歩をしている時に訪れた。マッスルホースの馬車が三十台以上の列を成し、ガタガタと音を鳴らしながら、ゆっくりと近付いて来る。
「えぇ……何あれ?」
直ぐに屋敷へと帰って、村長を呼んだ。
「なあ村長。あれ、何か分かるか?」
「先頭を走っているのは、あの二人であるな」
「リスタとアジュか……手を振ってるぞ」
集団の先頭を走る、リスタとアジュが、結構な速さで近付いて来た。あいつら本当に、マッスルホースの扱い上手いな。
「流さん、ヘラクレス様。遅くなりました」
「よぉっ! 仕事済ませて来たぜっ!」
「二人共お疲れさん……と言いたいけどさ。あの集団何? 商人や職人だけじゃないのか?」
「それですが、陛下より、ヘラクレス様宛に、手紙を預かっております」
「私であるか?」
村長は手紙を受取り、封を切って目を通すと、頭を抱えてその場に蹲った。
「どうした村長?」
「流君っ、彼らは移住希望者である」
「移住希望者って──アレかっ!」
ミルンの親権を争った時に、ルシィが俺を騙して約束させた、ラクレル村へ移住させるケモ耳達の、面倒を見る云々の話。
「うむっ。王都で不当に扱われていた者達が、陛下の一声で解放され……ラクレル村の新たな村民として、寄越されたのだっ」
「来るの早すぎだろ! リスタ、説明よろ!」
「僕ですか?」
リスタとアジュは、王都へ到着して直ぐ、冒険者ギルドへ向かい、商業ギルドへ働きかけて貰って人員を手配した。それをルシィが嗅ぎ付けて、ついでとばかりに移住希望者を募り、手紙と一緒にああして寄越した訳だ。
村は消えたと知ったルシィは、『それならば、丁度良いではないか。地震で家を失った者もおるし、任せるのじゃ』と、そう言う事だ。
「ルシィの奴、丸投げする気かよ」
「うむ……費用は陛下持ちだが、あの人数を受け入れよとはな。家も無いというのに」
「そう言ってる間に、皆んな集まって来てるぞ」
「ぬぐぅっ……致し方あるまい」
目の前には、犬耳猫耳不思議耳を生やした、若いめの獣族達が、不安そうな目で俺達を見詰めてくる。
「何人居るんだ?」
「それも手紙に書いておる。男性三十名、女性百名、子供は五十名であるな」
「女性と子供が多いな……成程ねぇ」
王都で"不当"に扱われていたと、手紙に書いてあるのなら、恐らくは元奴隷。
男性は肉体労働、女性は美人揃いで、何をされて来たのか、あまり考えたくはない。子供に至っては、目が死んでんのよ。
「お父さん、何してるの?」
「おはようミルン。丁度良い所に来たな。あの子達と少し、遊んでいてくれないか?」
「うーん……がうっ!!」
「えっ、何で威嚇?」
ミルンが威嚇すると、小さなケモ耳っ子達がビクッと反応して、種族を問わず腹を見せたり、頭を下げたりと、服従のポーズをとった。
「これでいいの。んしょっ、んしょっ」
「肩車は良いんだけど、どういう事?」
「あの子達のボスが、ミルンになったの。これでちゃんと、暮らしていけます」
犬人の習性だろうか。それとも、ケモ耳全体での習性だろうか。確かに、今さっきまで死んだ目をしていた筈の、ケモ耳っ子達の目に、生きる活力を感じる。
「お初お目にかかります、ヘラクレス様。私、商業ギルドから参りました、ネガリと申します。御要望の品をお持ちしたしたので、どうぞご確認下さい」
「うっ、うむっ。確認させて頂こう」
「おう騎士様っ! 儂が建築を担当する、バリアスじゃっ! 宜しくのっ!」
「宜しく頼むのであるっ」
あっちの二人、俺には挨拶なしか……まあ良いんだけど、一人こっちに来てるな。
「確かあんたは、王都冒険者ギルドのネリアニスさんだよな。何しに来たんだ?」
「お久しぶりです、流さん、ミルンさん。新たな村にギルドを新設する為、こうして来させて頂きました」
「そう言えば、ラクレル村には、ギルドはなかったな。拠点拡大には丁度良いと……」
「仰る通りです。新設される、冒険者ギルドのギルドマスターとして、活動させて頂きます」
そう言いながらも、ネリアニスさんの視線が、ミルンの尻尾を追いかけてる。そういえば王都のギルドに行った時も、ミルンの尻尾をガン見してたよね。
「失礼しますね」
「なあに、ねりあにす?」
俺の肩からミルンを取り上げて、抱っこしたまま尻尾をモフってるよ。
「はぁぁぁ、癒されますね」
「撫で撫で、気持ちいいのっ」
ミルンが嫌がらないなら、問題ないか。
「あのぉ……」
ミルンを眺めていたら、移住希望者の中から一人、羽人族特有の白い翼を生やした女性が、ゆっくりと近付いて来る。
「んっ、どうした?」
「えっと……貴方様は、"魔王様"ですか?」
「はぁ? 急に何言ってんの?」
俺が魔王なんて、そんな訳ないだろ。
「どこからどう見ても、人間だろ? 何でそんな変な事を聞くんだ?」
この乳デカ姉ちゃん、俺をジッと見て来るんだけど、俺の何を見ているのだろうか。
「でもぉ、貴方様の称号が……そのぉ、魔王と」
「称号……っ!?」
この姉ちゃんっ、鑑定スキル持ちっ!?
「魔王様?」
「魔王って聞こえたぞ」
「まさかっ……本当に魔王様なのか?」
それが聴こえていたのだろう。
移住希望者のケモ耳達が、ザワザワと騒ぎ初め、乳デカ姉ちゃんが俺に向かって跪くと、皆一斉に跪き、頭を下げて来た。
「ちょっ、何やってんのっ!?」
「魔王様っ! どうか我等に……っ、この地に住まう許可を頂きたく存じます」
「えぇ……俺にそれ聞く?」
村長、親方、商人は、一体何が起きたのかと、疑問に首を傾げている。ネリアニスさんは、ミルンの尻尾に夢中過ぎて、この状況に気付いていない様だ。そして俺はというと、一度空を見上げて、深く息を吐く。
「ふぅ……意味が分からん」
何事かと屋敷から、ドゥシャさんが出て来たけれど、この状況を見ても素の表情でした。




