side1 ミルン.2
私が四歳になった時にそれは起きた。
夜中に声が聞こえて目が覚めた。
外で何かを言い合っている。
「このままじゃ此処も危ない」
「何処に行けば良いんだ!?」
「俺は戦うぞ」
「やるんだ!奴等から家族を守れ!」
「争って何になる!?」
パパが誰かと言い合っていた。
普段の優しいパパとは違い、必死に訴えるように他の人と話をしている。
その内に声は鎮まったが、パパが凄い汗を掻きながらママを起こしてきた。
「ユカリっ起きろ! ここを離れるんだ!」
ユカリママは飛び起きたが、パパがもっている斧を見て、私を見て、少し考え何かを言った。
「はぁ…今かぁ嫌だなぁ」
何が嫌なんだろうと私は首を傾げたままパパに抱っこされる。
「奴隷達の反乱が起きた。村長が対処しているが、ここに居ては危ない。君が獣族だとしても奴等は関係無しに襲って来るだろうな」
急げとパパが言うと、ママが直ぐさま乾燥した食料と水が入った陶器をカバンに詰めてパパにキスした。
「わかってるわよゼス。この時が来る事をわたしは知ってたし、ミルンだけでも守らなくちゃ」
パパはユカリママの顔を見て頷き、裏口へと急ぐ。
外にでると近くで火の手が上がり、辺りから悲鳴が聴こえて来た。
パパは周りを確認して、ママの手をひいて村の裏口を抜け、森の中へ入って行く。
ここは絶対に私が入らない様にと言われていた魔物が多く住む森だ。
先へ、先へと入って行くが、後から声が近付いて来る。
「人間の臭いだ!! こっちに居るぞ!」
「追い詰めろ! 噛みちぎれ! 喰い殺せ!」
同じ獣族とは思えない遠吠えに私は身をすくめたが、パパが大丈夫と頭を撫でてくれた。
「ユカリ、ミルンを頼む」
そう言ってパパは抱き抱えていた私をママに託した。
「ゼス…」
ママはパパの名前を言って尻尾をパパの手に絡ませ、そのままキスをする。
「死なないでね、ゼス」
ママが泣いている、大丈夫? と頭を撫でる。
「行け、ユカリ! 必ず追いつくから!」
「パパどうしたの! 一緒にいかないの!?」
私は何かを感じ取り、パパを呼んだ。
パパは、愛しているよミルンと額にキスをして、村の方向へ走って行く。
「パパ! 行かないで! パパ!!」
「ミルンごめんねっ、ごめんねっ」
ママがそう言いながら走り出す。
遠くでパパの声が聞こえた。
「私はここだぁあああ! かかってこい族どもがぁあああああ!!」
今までに聞いた事のないパパの叫び。
直ぐに鉄と鉄がぶつかる音がした。
その音がどんどん離れて行く。
「はぁ、はぁ、やっぱり運動してなかったから走るのはキツイなぁ。でも、ミルンを守らなくちゃ」
ユカリママは息を切らしながら、それでも私を抱えて走っていた。森の奥へと。