side1 ミルン.1
私はミルン、流お父さんの子。
私はミルン、パパとママの子。
今でも鮮明に覚えている、あの時の記憶。
忘れる事が出来ず、たまに夢に出て来る恐い記憶。
そんな時は流お父さんに頭を撫でで貰うと、その恐さが和らいでいく。不思議だ。
「おとうさん、ミルンこわいゆめみた…」
よしよし大丈夫かと抱きしめて撫でてくれる。
そんなお父さんが大好きだ。
甘えたくて声色を変える程に。
でも、やっぱり忘れられない。
それでも、だからこそお父さんに会えた。
恐いけど優しい記憶。
忘れたら駄目な、私の記憶。
【side1 ミルン】
意識がハッキリするようになったのは何歳の時だろうか。よくユカリママの目を盗んでは、家中をハイハイで徘徊していた。
ユカリママが慌てて探していたら、良くオークの剥製の前で涎を垂らしていたらしい。
「こらミルン、勝手に離れちゃ駄目でしょ」
そう言っていつもユカリママは私を抱っこして臭いを嗅いでくる。
「やっぱりミルンは良い匂いするわね」
私はそんなに匂ってたのだろうか?
ちゃんとパパが毎日綺麗にしてくれてたのに…気持ち悪い顔で。
「たっだいまー! ユカリ! ミルン! パパが帰って来たよ!!」
パパのゼス? が帰ってきた。
名前がずっとパパしか聞いていないから直ぐ忘れてしまう見た目だけはカッコいいパパだ。
村のじけいだん? と言うのをやっているらしい。なんのお仕事か分からなかった。
「ユカリーお帰りの尻尾をふがっ」
パパがママの尻尾に埋もれた。
時々私の尻尾を撫でて、大きくなったらユカリママみたいな綺麗な尻尾になるなぁと気持ち悪い顔で呟いているけど、なんか嫌だ。
「パーパ、おかぇり」
そう言うとママの尻尾から凄い勢いで抜け出し、私の顔にキスをしてきた。
「ただいまーミルン! ちゅっ、ちゅっ」
こらパパ! ちゃんと手を洗って、歯を磨いて、お風呂に入ってからミルンにキスでしょ!
パパはバイ菌? と言う物だらけだとママは言っていたが、パパが少し可哀想だった。
「わかったよママ、直ぐやるから怒らないでおくれ」
直ぐ洗って来るからと走って行くパパ。
家の中ではママが一番強いの。
「じゃあミルンは、パパが帰って来るまでお勉強しましょうねー」
ママの尻尾がユッサユッサ揺れている。
やっぱり綺麗な尻尾だと思う。
ユカリママは私に毎日、お勉強と言う遊びを教えてくれた。
「ミルン、これなーんだ?」
何度も、繰り返し、でも飽きないように、ママが木板に書いた絵を見せてきて、私がそれを答えていた。
「むぅ…オーキュ!」
そのお陰で私は本当は結構喋れるけど、流お父さんにはあまり喋らない。
だって六歳の子供がこんなに喋ったら、甘えさせてくれないかもしれないから、それは嫌なの。
「正解ーミルンは賢いねぇ」
そう言ってママは私の頭を優しく撫でてくれた。
そんな日がゆっくりと過ぎていった。